第18話
この研究室ではキャビネットにびっしりと詰められた漫画を読む人や、小さなキッチンがついているので料理したりお茶を飲んで歓談する人ばかりで、教授にハッパをかけられてもほとんど勉強をしている人は居なかった。私は奈緒と同じ研究室に入っていた。遊び過ぎて留年にした私にとっては奈緒が唯一真面目で、正しい道への灯台のように感じていた。ノート事件以来たまに食事に行くばかりで離れてはいたものの、奈緒は私が一緒に研究室へ入る事を良しとした。教授も問題児を預かることには慣れているらしく、私の事情を聞いてもすんなり受け入れた。実際、研究室の先輩には何年も留年している人がいて、教授は私とその人を卒論のチームとして組ませることで今年こそ卒業させようとしていたことに数年後に気付くことになる。同じ研究室には院生も編入してきて、とても教授が複数人を見られるはずもなく、研究室に所属してはいるものの、みんな授業を受けて単位さえとって卒業できればいいという風潮だった。キャラクターの濃い人ばかりで地方出身者も多く、何かにつけて飲み会が開催されて、わいわい騒ぐというのがこの研究室の特徴だったかもしれない。私は付き合いだけは広かったので過去問を集めて、試験やレポートをこなし、ゴールを設定しきれていないがばかりに何のためなのかわからない学問は頭に蓄積することはなく、時間ばかりが過ぎていく虚しさを感じていた。
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