第17話

「本当に久保くんのこと好きだった?」

チームが変わってからしばらく話すこともなかった仲谷さんが私の送別会で最後にせっかくだから聞いておこうとばかりに聞いてきた。あれは数年前の入社したばかりの頃だ。久保くんというのは仲谷さんが可愛がっていた、当時若手だった男性社員だ。私は一時期その久保くんのフォロー業務をしていた。彼はいつも自信たっぷりで「この前ヘッドハンティングされたんだ」と語ったり、「君って人に話しかけられたりしないでしょ?」と謎のマウントをとってくる男だった。久保くんが社内サークルでお世話になっているという30代の既婚子持ち橋本さんと三人で飲みに行った時、「仲谷さんに君を辞めさせないことが俺の仕事だって言われたんだ」とこぼしていたのをきっかけに憎悪が増していた。なぜそんなことを仕事に命じたんだろう。仲谷さんが入社面接の時から私をあまりよく思ってなさそうなことは感じていた。居酒屋を出ると送っていくよ、と橋本さんが言う。久保くんは違う路線だったので店の前で別れ、私の家の方向に歩いていく。仕事の話や橋本さんの家庭の話をしながら歩いていると、ふと橋本さんは立ち止まった。こちらを向くと「ほっぺ赤いね」と夜の風にさらされかじかんだ私の頬をつねった。背筋にぞわっと何かが走った。私が何か橋本さんに勘違いされる行動をとったのかもしれない。しかしこのままではおかしなことになる。怖くなって翌朝出勤した後に入社から私についていた先輩に相談すると、すぐさま課長まで話が通ったらしく私が思うよりずっと大事になっていた。

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