第13話
私にしては長く勤めたG社を退職して、次のF社も勢いで辞め、どうしたらよいのかと途方に暮れていた。ふと大学の近くに行ってみたくなった。もう引越してから何年も経っているが、私にとっての第二の故郷と言える土地だった。どうせすることもない、思い立ってアパートを出た。大通りを渡って新宿行きの都バスに乗り込む。新宿ピカデリーの前でバスを降りて、紀伊國屋の横を通り、新宿駅東口のロータリーがひらける。角にあるビックカメラの近くの地下への階段を降りて、ルミネを横目に、私は小田急線に向かった。白と青色のサインになんだか懐かしい気持ちになる。都会とはまた違う、世の中を知り尽くしたような、何かにこなれた雰囲気の車内で揺られる。居酒屋の多いこの路線沿いは安くて美味しい店がたくさんあり、大学生も多い。今でも居酒屋のキャンペーンで集めたジャッキグラスを持っている。駅に降りると、思い出の場所を巡った。よく行った古着屋に、バイト先だった商業施設、元彼の勤めていた居酒屋なんかを眺めて思い出に浸る。駅前の開発が少し進み、この街の景色もあの頃より洗練されはじめている。懐かしい景色はどんどん更新されていき、いつの間にかすっかり変わってしまうのだ。何年経っても銀行の場所や改札への流れだけは変わらずにいるだろうか。そんな事を考えながら、これまた思い出のカフェに行こうと複合施設に入ると、エスカレータの前に見た事のある女性がいた。「え、仲谷さん?」つい声をかけてしまった。しまった、と思ったが時既に遅し。仲谷さんはG社で私を採用した人で、なかなか社員にならない私に色々な事を仕掛けていた人だった。声をかけてしまった恥かきついでに、アルバイトで古巣に戻ることにした。私のことをよく思っていないはずなのに、仲谷さんはそれを了承した。
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