第11話

いくつか転職をしているが、結婚を機にG社を退職した後、今度は手堅い所に勤めようと国の機関に滑り込んでいた。例によって女上司だった。うまくいった試しはない。

「どんなモチベーションで仕事すればいい訳?」彼女は子持ちには見えない美しさと、周りを威圧する強さを持っていた。どうやら私が滑り込む前には新卒の男子を潰したらしく、ここ数日の聞き取りの成果では危険人物なのは間違いなかった。

「東京にはメンタルクラッシャーがいるから」東京での仕事を辞めて地元に帰ってきた親戚のお兄さんがそう話していたのを、どうせ若者がこれ以上田舎から流出しないように話した作り話だろうと当時高校生だった私は信じなかった。

「コロナ禍の禍はさんずいじゃないって知ってた?」「私上司の車見つけて後ろから尾行したことあるの」「事務所まで歩いたら時間どのくらいかかる?私そんなに早く歩けないんだけど」いつも仕事よりもたわいもない話をもちかけてくる上司に忙しく働くのが当たり前だった私は疑念を強めていた。昼にランチを食べにビルの低層階にいくと周りの省庁で勤めるサラリーマンが愚痴をこぼしている。「非常勤の丸山さん、とうとうあのパワハラ加藤さんにキレたらしいよ」「よく耐えてたよな〜立場的に弱いけど、もう我慢の限界だったんだろうな」このビルのある街も働く人もドラマの登場人物のように輝いてみえるのに、どこも汚く現実的な足の引っ張り合い、嫌がらせや噂はどうも耐えないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る