第10話
夏の日差しがジリジリと私を溶かしていた。東北育ちの私はこんなに太陽を間近に感じたことがない。アスファルトは暑さを跳ね返して、ぐねぐねとうねって見える。額からも首筋にも汗が流れ落ちて、出かける前にせっかくシャワーを浴びてきたのに大学に着く前にびっしょりと濡れる。ゆるい坂道を自転車で走り、大学内の満車状態になっている自転車置き場の隙間に適当に差し込むと、急いでサークルの出店へ向かう。今日は学祭。
「すみません、寝坊しました!」背の高いサークル長に睨まれて、ハッと萎縮する。
「時間とっくに過ぎてんだろ!何してんだよ迷惑かけて!もういいから帰れ!」日頃のゆるさに忘れていたが、このサークルは体育会系なのだ。それにしてもお遊びの屋台にそんなにキレられるとは想定外だった。私は手伝うことも許されず他の人に申し訳ないなと思いながらも、学部棟へ向かった。罵声を浴びたことよりも、とにかくこの暑さから逃げたかった。館の中はひんやりと冷たい。2階へ上がるとエレベーター横にあるソファに腰を下ろし、はぁっと息を吐き、涼んだ。頭がクリアになっていくのを感じると同時に、L字になっているソファの端に見たことのある女の子が居ることに気付く。彼女が目線に気付いたのか、振り向くとばっちり目が合ってしまった。同い年だが学部の違うサークルのメンバーだった。
「あなたもさぼり?同じサークルだよね?」彼女はそう言うと身体をこちらに向けて微笑んだ。小柄で可愛らしく、まるでタンポポのような素朴さ。少し田舎の出なのではないかと思わせる違和感は、素朴な彼女が着るには大人びているきれいめの清楚なワンピースのせいか。
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