第9話

「そんなメンタルじゃこの会社でやっていけないよ」そう女上司は呆れたように言う。私と会議室のテーブルを挟んで向かいあっている。私はどうしたらいいか、完全に立ち位置を見失っていた。まただった。面接の時点で具体的に仕事内容の話をしない会社には入るべきではないと、何かに書いてあったのをふと思い出したが既に手遅れだった。私より先に入社した女性陣は毎日暇を楽しみ、チャットで時間を潰しているようだった。子供を産まないと仲間に入れてもらえないというような話を入社時点で言われ、子供が要らない私は絶望的な気持ちになった。今時珍しいが、彼女達は和が乱れることをとても警戒しているのだろう。産休のとれる世の中なんだからありがたくそうしろということだ。ロボットが仕事をしてくれる時代。AIで文章化できるようになり、世界はこれに大注目している。この会社もそういったシステムの導入で、暇を生み出しているのだった。ネットニュースを開けば、早期退職を大手の会社が実施しているという内容が必ず出てくる。人間に生きていく道はあるのか、仕事がなくなり少子化でひとりひとりが背負うものばかり増える未来への不安がどっと押し寄せてくる。そんな中で子供を持ちたいと思う人は考え無しなのではないかと不謹慎にも思ってしまう。結婚というものにも悪戦苦闘したが、子供をもうけてこれ以上誰かとの関わりをもつということに考えただけでうんざりしてしまうのだった。「だんだん厳しくなるよ」そう言われたのは何かが始まる合図だったのか、その日以降は私が経験してきた仕事でのことがフラッシュバックするように会話が繰り広げられていた。これは妄想?現実?どんどん胃が痛くなり、訳がわからなくなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る