第8話
「夏帆は?」と明日香が問いかけた。
「テニス部の合宿らしいよ」と奈緒。
入学してから一年もそろそろ過ぎそうな頃、活発で明るい夏帆はテニスサークルの活動に忙しく、顔を見せていなかった。授業も遅れて入ってきて、後ろの方でサークルメンバーと笑い合っていることが増えていた。明日香はこだわりがないのか堅実なのか毎日顔を合わせているが、仕切り屋の性格から出欠確認をするので、いつも寝坊する私をあまりよく思っていない。だらしない奴と批判している気持ちが透けて見えていた。懇談会で目の前の席に静かに座っていたので奈緒と声をかけてみただけの仲だったが気付けば一緒に行動していた。性格の一致や服装などの見た目の好き嫌いのようなものはまったく気にしていなかったので、何とも平凡なただ穏やかで真面目なメンバーが揃った。見た目だけでカテゴライズすればオタク、気の強そうなロック、きれいどころというようにまとまっていたので側から見れば私達も何がにかカテゴライズされて名前がついているのかもしれない。
バドミントンサークルに所属してからは授業終わりに体育館にいき、ランニングや打ち合いを流れに身を任せながらしていた。サークルというよりも部活のようで、先輩達が仕切っていた。噂だとお遊びのバドミントンでいいというメンバーは別れて別のサークルを作っているという。そちらに行けばよかったかな、と思いながら打ち合っていた。望奈は既にサークル内で居場所を確立したらしく、先輩達に海外女優に似ているとあだ名をつけられていた。すぐ溶け込めるのは彼女の天性のものだ。先日のノートの件で、授業前に私が「ノート返してないの?」と問いただすと子供のように泣きだしてしまったので奈緒は気まずそうに俯き、事情を知らなかった明日香は望奈を心配そうに覗き込んでいた。まるで私が悪い役に立ってしまい、あれ以来望奈とは距離ができている。屈託なく笑う彼女を遠目に見ながら、呆れた気持ちを通り越して、こういう性格は社会で生き残る為に必要だなと生命力を感じていた。
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