第5話

私は雨の中、砂漠を歩いていた。砂漠の入り口にはおふざけなのか本当なのかわからない、泳ぐなキケンの看板が立っている。砂に足を取られながら何とか登っていくと、そこには日本とは思えない広くうねった砂漠が広がっていた。砂漠の向こうには海が見える。曇った空、荒い波立った海。まるで私の心を現しているかのように、どんよりとしたその風景に呑み込まれていくような感覚を覚えた。進まないと呑み込まれてしまう気がして、重たい足を進める。とても遠くに人影がいくつか見える。あちらに行けばラクダがいるのだろうか。蟻地獄が出てきそうな波模様ができた砂の上を登っていく。雨が強くてワンピースの裾もブーツも砂でぐちゃぐちゃになっていた。先日亡くなったと報道された漫画家の作品の中にあった大きな砂時計は何処にあるのだろう。そんな大きな建造物は見当たらず、人もまばら。砂漠の端まできて、雨だからラクダは居ないだろうと思い、バスを待つことにした。1時間に数本しかないバスの時刻表。先日から用事というと待たされることが立て続けにあって、ふと職場で「自分が相手にして欲しいようにすればいいんだよ」と言われた事を思い出して、仕事場を辞めて社会から抜けた私にはバスが来ないというしっぺ返しが相応しいのではないか、バスがこのまま来なかったらどうしようという不安に襲われ、眩暈がした。そんな不安を覆して定刻にきたバスには数人乗っていた。駅に着くと、高校生がたむろしている。相変わらず頭がうまく回らない状態の中、在来線に適当に乗るため切符を買う。手順が多くて慣れない地域の券売機に戸惑う。ICカードの便利さはまだ届いていない地域だ。それがいい気もするし、歯痒い感じもあり、土産物屋もろくに見ないまま電車をホームで待つ。開けるのボタンを押して乗り込んだ電車内はボックス席で、想定よりも人が乗っていた。平日でも関係ない時代なんだな、と思い腰を下ろす。ふと不安になり顔を上げると目つきの悪いスキンヘッドの男性と目が合う。私はこの車内の誰かにつけられているのではないか、そんな考えが頭をよぎった。

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