第3話
夜行バスは音を立てて進んでいた。新宿のバス乗り場はたくさんの人で待ち合いの席が埋め尽くされていたが、出発時間までなんとか収まることができた。夜行バスの受付を済ませて乗り込んだ。観光バスを改造した窮屈な席でリクライニングを倒し、目を閉じた。隣にはゲームセンターの袋を持った女の子が乗り、早くも寝息を立てていた。私は一体何処へ行くのか。バスの行き先は決まっているのにまるで人生を俯瞰するような気分で、ぼんやりと明るい車内を瞼の裏で感じながら運ばれていく。
-午前7時。車内に到着のアナウンスが流れた。時折寝入ったものの、寝たという感覚のないままバスを降りる。朝の冷たいけれど気持ちのよい風が目を覚まさせる。駅ビルのトイレで身支度をして、きれいに整備された駅前を歩いてみる。大通りをサラリーマン達が退屈そうに出勤すべく歩いている。私はビジネスホテル街の路地に入り込み、地下の喫茶スペースへ吸い込まれるように入った。昔ながらの純喫茶だ。黄色い光に包まれてゆったりとした時間を漂わせた店内はまるで夢の中のようだ。モーニング550円と大きく書かれたメニューをメイドの格好をした女の人が運んでくる。満足に眠れていない時のコーヒーはカフェインに弱い私には危険な毒物だ。選択を間違えてうっかり体調を崩さないように慎重に注文したロイヤルミルクティーのモーニングセットはお砂糖が並々と入った金属製のポットとともに優雅に現れた。バターのたっぷり塗られた薄い食パンと気取らないサラダ。ゆで卵と塩。程よい温度のロイヤルミルクティーが荒れた胃に流れ込む。とうとう着いたんだ。ここから私の現実逃避の旅が始まる。
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