第26話 悪役錬金術師、黒幕の手下と戦う①

『グガォ……!?』


 クリスタルドラゴンの前脚が底無し沼に沈み、クリスタルドラゴンはバランスを崩す。


 それを見たエルヴィーラとテレシアが魔法を発動するため前に出る。


 アン、ポン、タンの三人組はローザを守るように囲っている。何も指示出していないのにここまでできるこいつらすごいな……。


業火弾インフェルノバレット!!」


風域結界ウィンドケージ


 テレシアが風の魔法でクリスタルドラゴンを閉じ込め、エルヴィーラが攻撃魔法を放つ。それに合わせて僕も魔法薬を投げる。


「【火種のポーション】!」


 魔法薬を入れた瓶が結界内で弾けて拡散する。その後エルヴィーラの魔法が着弾し、魔法薬に引火し、更なる業火を生み出す。


 底無し沼で足を止めて、風の魔法で敵を閉じ込めつつ、魔法薬で火の勢いを増した連携攻撃っ!


 重量があるクリスタルドラゴンはもがけばもがくほど底無し沼に沈んでいくっ!!


「くくくっ……! なるほど、それなりには対策してきたようですね。魔法薬、魔道具。これは少し厄介だ」


 黒いモヤが何かをしようとしたところで炎雷の短剣を抜く。


「貴方はそこで黙ってみてもらおうか!」


 炎雷の短剣が雷と炎を発して、黒いモヤへと突き進む。


 黒いモヤに命中するも実体がないためか、すぐに元通りの形に戻ってしまう。


「実体がない私にはどんな魔法攻撃であろうとも効きませんよ。残念でしたねゾディアック家の出来損ない」


「でも少なくとも魔法は使えないだろう? そのモヤは幻体……本体は別のところにいる。違うかい?」


 幻体。アステリズムクロスで黒幕である魔王勢力の一部キャラクターが使う魔法だ。


 遠隔操作可能な自分の代わりを生み出すという魔法。実体がないため殆どの攻撃は効かず、あちら側は魔法をバンバン使ってくるというチートっぷり。


 しかし、アステリズムクロスだと何かしらの攻撃を当てると、幻体はそのターンは行動不能になる。設定だと幻体越しに魔法を使うにはかなりの集中力が必要だとか……。


「魔法でクリスタルドラゴンを支援したいんだろうけど、それを阻止するのが僕の仕事だ」


「ふぅむ。幻体まで知っているとは、これは魔王様が開発した秘技。人間如き、ましてや出来損ないが知るような魔法ではありませんが……」


「ふふっ。随分と余裕ですね。貴方のご自慢のドラゴンは焼かれている最中ですが」


「そーだよっ! さあさあもっと燃えろ!!」


 テレシアが風の結界を強めて、エルヴィーラがダメ押しに魔法を発動する。火はさらに強まっていき、クリスタルドラゴンを焼いていく。


「ええ。余裕なんです。何故ならその程度の魔法、私の力がなくとも切り抜けることは可能ですから」


「まさか……みんな伏せろっ!」


 僕は嫌な予感を察知してみんなに警告する。次の瞬間、クリスタルドラゴンの全身に生えている魔石が光り、口から巨大な青い炎のブレスを吐き出す。


「結界石!」


魔障壁プロテクション!!」


 僕の魔道具とテレシアの魔法。


 二つの重ねがけでブレスを防ぐが、ブレスのせいで風の結界と全身を燃やしていた炎を消された……!


 以前として底無し沼にハマったままだが、一つの策を破られてしまった。クリスタルドラゴンはダメージを負ってるはずなのに、まだまだこちらへの敵意は萎えていない。


「そちらの自慢の策も終わりですかねえ? 残念です。多少は楽しめると期待したのですが」


「まだだよ! この程度のことで私達が怯むわけないでしょ! 業火弾インフェルノバレット!!」


 エルヴィーラが怯まず魔法を発動する。だけど、クリスタルドラゴンの全身の魔石から発せられた魔力によって、魔法は弱体化し、無力化されてしまう。


 あれはクリスタルドラゴンの固有能力、魔力吸収……!


「クハハハっ!! クリスタルドラゴンにそう何度も魔法が通じるとでも? さあ? どうされますか?」


「そ、そんな……どうすれば……くっ! こんなところで私が……!」


「エルヴィーラやめるんだ。無闇に魔法で攻撃しても埒が開かない」


 クリスタルドラゴンはゲームだと数ターンかけて魔石を活性化させていく。


 魔石は活動を停止している。最初に魔法を吸収できなかったのはそのためだ。理想はあそこで倒すことだったんだけど……。


 今は魔石が活性化している状態。この状態だと魔力吸収が常時発動し、魔力が一定以上溜まると先ほどみたいに高威力のブレスを放つ。


 底無し沼で動きを封じているのは不幸中の幸い。クリスタルドラゴンはブレスと、魔石から放つ低威力の魔弾しか攻撃手段がない。


 そのうちのブレスは魔法さえ使わなければ魔力が溜まらず、使うことすらできない……!


「じゃあ、魔道具ならどうかな?」


「魔道具? 愚かですねえ、魔道具など大したダメージに」


「やってみないとわからないさっ! 【魔石爆弾】!!」


 僕はポーチから取り出した球体をクリスタルドラゴンへと投げつける。それはクリスタルドラゴンに当たると爆発を起こし、クリスタルドラゴンの魔石を砕く!


『ギャオオオオオ!!!?』


「な、なにぃ!? 魔道具にこんな威力が……バカな!?」


「塵も積もればなんとやら。低品質の魔石も合わせればそれなりの威力になるのさ!」


 木箱一杯に積まれた魔石。あれをなんとかして再利用できないかと知恵と記憶を振り絞って作ったのがこの魔石爆弾。


 魔石爆弾は魔石を材料としてつくる魔道具だ。ゲームにもあり、ありがたいことにこれは固定ダメージ系のアイテム。


 どんなに防御力や耐性が高くても、一定以上のダメージは見込める。まあ、エルヴィーラやテレシアの魔法が通じるならそっちの方が圧倒的に強いんだけど。


「ぐ……っ! 出来損ないの癖になんという……!」


「その出来損ないを考慮しないくらいには、君は優秀な人間なのだろう。確かにあまりにも優秀で、自分や周囲の能力を信じている人ほど出来損ないなぞ目に入らないわけだ。何、優秀な君にはなど考えずともリカバリー出来るだろうからね」


「ヴィ……ヴィクトル様、お顔が……!」


 僕の言葉と表情を見たローザが頬を紅潮させてそう口にする。


 きっとヴィクトルならこういうはずだ。自分の気に食わない人間を煽る時は。


「クソが……クソがクソがクソが! 調子に乗るのもいい加減にしろよ!! お前みたいな小物! 出来損ない! 私が直接……!!」


「言い忘れてたけど、僕だけに気を取られないようにするといい。ああいや、君なら気がついた上で放置しているか。君の図太さには感心するよ」


「お前……何を言って……?」


 黒いモヤが後ろを振り向く。


 洞窟の奥。剣が突き刺さっていた台座。そこにテレシアが立ち、剣を引き抜いていた。


「さて……これはどう扱うのでしょうか? ふふっ、楽しみですね」


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