第25話 悪役錬金術師、黒幕の手下と遭遇する
「確かに思ってたよりも魔物と遭遇しないな〜〜って思ってたけど、ここに来てから全然見ないよね」
「確かに……エルヴィーラ様の言う通りかもしれません。こんなに静かなものなのでしょうか?」
エルヴィーラとローザはキョロキョロと周りを見渡す。
そう、僕らは魔石鉱山に入ってから一度も魔物と遭遇していない。
普通なら一体や二体、いやもっと遭遇してもおかしくないほど広い鉱山。
それに魔石の数も圧倒的に少ない。壁面や床に何かかじり取られたような跡もある。
「魔石が……食べられている?」
「確かにこの欠け方は不自然ですね。魔石鉱山に異常……ここは一回退くのもありだと思いますが」
テレシアはかじり取られた跡を見てそう提案してくる。
テレシアの言う通り退くのは選択肢としてありだ。
だけどこの瞬間、脳裏にある記憶が掠める。それはゲーム内でのこと。
「……まさかこれは」
アスクレピオス領の魔石鉱山。
アスクレピオス領は敵となるテレシアが支配する領地であり、ストーリー上関わることは少ないところだ。
しかし、どのルートでもこの魔石鉱山には一度立ち入ることとなる。
何故なら……。
「黒幕勢力が持つ魔石の出所を探るため……」
「……ヴィクトル君? 何を言っているんですか?」
僕はテレシアの心配する声を無視して考えに没頭する。
黒幕の目的は国家の転覆。そのためには多くの戦力が必要だ。
黒幕勢力と戦うことはストーリー上何回もある。そこで主人公達は黒幕勢力が本来ならあり得ない量の魔石を使用していることに気がつく。
そしてその魔石の出所を探り、結果としてアスクレピオス領の魔石鉱山に侵入し、その奥で……。
「いや、進もう。僕の予想が当たっていればこの奥に、将来君が必要とするものがあるかもしれない」
「私が……? いや、そもそもヴィクトル君、何故アスクレピオス領のことを君が知って……?」
「信じてほしい。今はそれくらいしか言えない」
ゲームの中で知り得る情報は無数にある。
僕は全ての領地に、何があって、どんなことが起きるのか殆ど記憶している。だから、本来ならヴィクトルが知り得ないことも知っているのだ。
「ええ。私はヴィクトル君のことを信じますよ。私たちは行きますがどうしますか?」
「ここで退くわけにはいかないでしょ! 私だって当然奥に行くんだから!」
「わ、私もヴィクトル様の従者としてついていくに決まっていますとも!!」
「我ら、アン、ポン、タン!」
「テレシア様とヴィクトル様に」
「地獄の果てまでお供しますとも!!!」
どうやらここでリタイアする人はいないようだ。頼もしい……! 過半数はちょっと暑苦しいけど。
僕らは最大限警戒しつつ奥へ進む。
「……ヴィクトル君。やはり気になるのですが、私にとって必要となるものとは一体……?」
「テレシアはどんな防御も、どんな魔法も斬り裂ける。文字通り一撃必殺の剣があったらどう思う? 質問を質問で返すような形になっちゃうけど」
「いいですよ構いません。ですが……そんな剣なんて聞いたことがありません。鍛治師も商売上がったりでしょう」
僕の記憶と……ストーリーを考察していた考察班が正しければこの奥にある。
ゲーム本編においてテレシアを象徴とする三つのアイテム。そのうちの一つがこの奥に。
「そうだよね。そんなのがあったら商売上がったりだよね。でも、あるんだ。この世にはとんでもない力を秘めた武器達が」
「秘伝の武器……魔剣や聖剣、妖刀の類ですね。お聞きはしています。ですが、アスクレピオス領にそんなものがあるなんて聞いたことも」
テレシアはそう言葉を切る。
そうか……テレシアもこの段階じゃ知らないのか。じゃあ本編の時空だといつの間に手に入れたのか気になるけど……。
そんな会話をしているとだ。僕らは魔石鉱山の奥地。開けた空間に出る。
その奥にそれはあった。石の土台に突き刺さった一振りの剣。
真紅の刀身が特徴的な細身の剣だ。
「エーテルの月光。あるいはテレシアの魔剣。やはりここにあったか」
「エーテルの月光……? いや、それよりもこんなところに剣があるなんて……!!」
「待って!! 何かいるよ!!」
テレシアが駆け出そうとした瞬間、エルヴィーラが奥にいる何者かを見てそう叫ぶ。
目を凝らすとエーテルの月光の前に、人型の形をした黒いモヤがいる。
「おや、魔王様のご命令で辺境の地まで来てみれば……珍しいものと会いましたね」
「……魔王ということは、やはり魔王勢力はこの魔石鉱山から魔石を大量に採取していたのか」
黒いモヤが振り向く。瞳の位置に配置された赤く丸い宝石が妖しく光る。
魔王。あるいは黒幕。
彼らは本編の前から動いていたようだ。この国を転覆するための戦力を整えるために。
「ククッ! 何者かは知りませんが、我々の計画を知っているとは随分と耳がいい人がいるものですねぇ。おや、おやおや、よく見たらゾディアック家の出来損ないではありませんか?」
「「あ?」」
ゾディアック家の出来損ないというワードに反応して、僕よりも先にテレシアとエルヴィーラが怒りの声を上げる。
落ち着いて欲しい二人とも。まだ怒るような場面じゃないからっ!
「クククッ!! そこの令嬢に知られているならまだしも、出来損ないに知られているとなると、ゾディアック公爵家と手を組むのはやめた方が賢明かもしれません」
「……っ! もうこの段階で繋がっているのか!?」
しまった! 遅かったか……!?
ゾディアック家と魔王がどの段階で繋がったか作中では明記されていない。数年前くらいしか明かされておらず、既に繋がっている可能性を見落としてた!!
「ククッ! どこまで知っているのか知りませんが、随分と知っているようですねえ。ゾディアック家への追求はよそに先ずは君を排除しましょうか」
黒いモヤがそう言った次の瞬間だ。
奥の巨大な岩壁が崩れて奥から巨大な四足歩行のトカゲのような魔物が現れる。
全身から魔石を生やし、 巨大な爪を突き立て、荒々しい息を吐く魔物。
「ロックドラゴンじゃなくて……クリスタルドラゴンか!!」
「そうですっ! 魔王様の指示で魔石を食べさせ、体内で大量の魔石を生み出す希少種! ゾディアック家の出来損ないと、そのついでを排除するには十分すぎるほどの魔物でしょう!!」
クリスタルドラゴン。全長十メートルはある魔物で、ドラゴンの類だけど他のドラゴンとは違い翼は発達していない。
代わりに全身を魔石で覆われており、高い物理耐性、魔法耐性を獲得した強敵だ。ロックドラゴンの上位互換と言ってもいいだろう。
だけど、こっちは元々、重量級の魔物を倒すために準備を整えてきたんだっ!
想定外なんて言わないさっ!
「魔道具発動。底無し沼」
僕の言葉と共に戦いの火蓋は切って落とされた。
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