第24話 悪役錬金術師、魔石鉱山を探索する①

「て、テレシア……君は一体何をしたんだい?」


「ふふっ。いえ、淑女の秘密です」


 テレシアは微笑みながらそう口にする。


 目には紋様が浮かび上がっており、何かしたのは明白なんだけど……これ以上突っ込むのは野暮な気がしてきた。


「拘束は解いてもいいかと。もうこの人たちは害を与えることはありませんよ」


「そ、そうか……。じゃあお言葉通り」


 僕はそう言って指を鳴らす。すると荊が少しずつ小さくなっていき、最後には消滅する。


「いいですか? 今から貴方達に生きる意味を与えましょう。それは私と、ヴィクトル・ゾディアックに従うということです。私達に従うことを貴方達の至上の喜びと心得なさい。いいですね?」


「は、はいっ! 喜んでテレシア様っ!! 俺たちのことは馬車馬のようにお使い下せえ!!」


「ふふっ、いい子ですね。では貴方達、この近辺で何を狙っていたのかいいなさい?」


 もう完全に女王様とその下っ端の構図だ。テレシアが楽しそうなら……まあそれでいいか。推しの笑顔というのもなかなか見れないわけだし。


 テレシアは嗜虐的な笑みを浮かべながら賊達に話を聞いていく。


「ふむふむなるほど。多少は使える要素はあるようですね」


「あ、ありがとうございますテレシア様っ!! それで、次は何をすれば……?」


「ふふっ、自分で考える脳もないなんて哀れな人達ですね。ですが、私は優しい人間です。そんな救いようのない哀れな人にも救いを与えてあげましょう」


「……お兄ちゃん、婚約者があんな姿になってることになんの疑問も抱かないの? あ、顔蹴った。何であの人達、嬉しそうにしてるんだろ……」


「いやまあ、彼女にそういう一面があるのは知ってたし。むしろ安心して嬉しいくらいだよ。あんな風にはっちゃけるテレシアを見るのは」


 テレシアがS気の強い女王様というキャラクターは、特典ドラマCDにて明かされている。突然それも履修済みだ。


 本編だとテレシアは患っている病ゆえにずっとシリアスな雰囲気だし、精神を張り詰めていることが多い。


 少しだけヒロインオーラを出したと思えば、次の瞬間には主人公の敵になったり、黒幕に殺されたり、あるいは黒幕を殺したりととにかく、見ているこっちの気が休まらない。


 あんな風にはっちゃけるテレシアはドラマCDみたいな本編と関わりのないコメディ空間にしかなく、そういうのを目にしていると思うと、目頭が熱くなってくる。


 ただ、エルヴィーラ的にはドン引きな内容だろうけど。


「えぇ……。お、お兄ちゃんが変な趣味に……むむむ、やはり婚約者の魔の手からお兄ちゃんを救い出すのが私の役目……!!」


「何を言っているんだ……? あ、話が終わったみたいだよ」


「どうやら食べるものに困っていたようですね。死ぬ気で働いてくれると言いますし、どうでしょうか? 彼らを雇ってみるつもりはありませんか?」


 これ以上になく顔を輝かせたテレシアがそんな提案をしてくる。


 賊達は純粋無垢な期待するような視線を僕に向けていた。いやでも賊なんだよね彼ら……。いや、うーん。テレシアの言うことを信じて……。


「雇うのはいいけどこっちだって財政難だよ? 大したお金とか出せないよ」


「大丈夫でしょう。どうやら彼らは食うものとやりがいさえあれば働いてくれるようですので。そうですよね?」


「へ、へいっ!! そりゃあもう、テレシア様と至高のお方であるヴィクトル様に好きなように扱っていただけるだけで我々としては身に余る光栄ですぜ!!」


「我ら、アン、ポン、タンの三人衆! 大親分の好きなように扱いくだせえ!!」


「体力だけは有り余ってるのでどんなことでもやってみせましょうや!!」


 アン、ポン、タン……って。まあいいや突っ込むと疲れそうだし。


 まあそこまでの忠誠を誓ってくれてて、手綱をテレシアが握ってくれるなら何も問題はないだろう。


 荷物持ちが増えるのもいいことだし、魔道具とかで武装してあげれば資源採取用にも使えるのか……人手が足りない僕達には強い味方になるだろう。


「うん、よろしくね。じゃあ早速仕事だ。僕らは今から魔石鉱山に行く。君達の仕事は魔石の採取だ。できるかい?」


「へい、お任せくだせえ!!!」


 まあそう言うことで魔石鉱山攻略の途中で、新たに三人の仲間が加わった。


 一時はどんなことになるだろうって思ったが……意外と。


「ローザの姉御お荷物お持ちしやす!!」


「エルヴィーラ様っ! 魔法薬をお持ちしました!」


「親分、テレシア様っ! 魔石鉱山荒らすならあちらからの方が近道でっせ!!」


 彼らの働きによって道中は結構スムーズに進んだ。なんなら何回か魔物と遭遇したけど、屈強な彼らが追い払ってくれた。


 もっと消耗すると想定していたけど、思ってた以上に消耗なしで魔石鉱山に入ることができた。


「やっぱ暗いね〜〜。光源はどうするつもりなの?」


「魔道具を使うよ。灯火石」


 僕はポーチの中から小さな石を取り出してそれを砕く。すると小さな光の球がその場に浮遊して周囲を照らす。


「しばらくは消えないから帰り道の目印にもなる。これを等間隔に設置して進もう。感知とかはよろしくね」


「私の召喚獣は洞窟内じゃ使えないから……」


「私は大丈夫ですよ。任せてください」


 テレシアはニコリと微笑み、エルヴィーラはテレシアに一歩出遅れたのが悔しいのかぐぬぬと言う表情を浮かべていた。


 ……気にしなくてもいいんだよエルヴィーラ。どこでも広範囲の魔力感知ができてしまうテレシアの方が異常なんだから。


「魔力感知があるからと言って油断しないように。慎重に奥へ進もうっ!」


 ……って言ったのはよかった。


 だけど、進んですぐに僕らはある異変に気がつく。魔石鉱山を進んでいく中で、テレシアがこう口にした。


「……魔物の気配がない?」



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