第23話 悪役錬金術師、魔道具で賊を退治する

「……さて、魔石鉱山攻略の日なんだけど」


 数日後。それぞれで準備を済ませた僕らは別邸の玄関に集まっていた。そこで僕はゆっくりと和気藹々している彼女達を見る。


「そんな軽い雰囲気で……いいの?」


「……ん? ふぁひぃがなにが?」


「口に物を入れたまま食べるのはお行儀が悪いですよエルヴィーラさん。立ち食いってのも貴族令嬢がするような行為ではありませんが」


 ローザが作ったサンドイッチを頬張りつつ話すエルヴィーラに、テレシアは呆れたかのような声を出す。


「あ、ヴィクトル様! 軽食を作ったんですよ。食べますか?」


「いやいい……。あとからもらうよローザ。こんな緩い感じで大丈夫なのかな……?」


 笑顔でサンドイッチが入ったバスケットを渡してくるローザに応えつつ、僕はため息を吐きながらそう言う。


 そんな僕を薄く笑いながらテレシアが近づく。


「ふふっ。まあいいではありませんか。変に緊張してしまうよりよっぽどいいと思いますよ」


「そうかなぁ……? まあいいや。とりあえず出発しよう。時間は有限だ」


 テレシアの言葉を受けつつ、僕たちは出発する。


 道中は完全にピクニックに行くような雰囲気で和気藹々としていた。一応道も警戒しなくちゃならないんだけど、視界が開けているから大丈夫……なのかな?


「そんなに肩に力入れなくても大丈夫だよお兄ちゃん。私の召喚獣が空からばっちりと周囲を監視しているからねっ!」


「召喚獣……。いつの間に召喚したんだい?」


「えへへ、内緒」


 エルヴィーラは舌をぺろりと出しながらウィンクする。


 僕ら空を見上げてみるけど、それらしいものが飛んでいる様子はない。もしかして透明化とか、背景と同化しているのか?


 ゲーム内でも飛行可能で隠密性能が高い召喚獣はかなりの数いた。もしかしたらその類の召喚獣か、あるいは……。


「それに私も魔力感知を張り巡らせているので安心していいですよ。おや、どうやらお馬鹿さんがやってきたようですね」


『キュイイイイイイ!!!!』


 テレシアがそう言うのと同時、僕らを覆うように影ができる。空高くに現れた召喚獣。空に現れたのは透明な体躯を持つ巨大な鳥型の召喚獣……これは!


「ステルスバード!! 召喚獣でもかなり上位の召喚獣じゃないか!!」


 ステルスバード。召喚獣の中でも上位の存在だ。高い隠密性、広い索敵範囲を持ち、戦闘力も高いという開放されてから終盤までずっと使える召喚獣だ。


 というか、ほとんど同時ってことはテレシアもステルスバード並みの索敵範囲を持つのか。つくづくすごいなこの人。


「ヒャッハー!!! こんなところにいいとこ育ちのお坊ちゃん、お嬢ちゃんがいるじゃねえか!!」


「おいおい不注意だなあ!! 拉致って奴隷商に売り飛ばしてやるぜ!!」


「オラオラ!! 無駄な抵抗はやめろよ!! 自分が傷つきたくなければなあ!!」


 道の先から何人かの賊が現れる。凄い典型的な賊……っていう感じだ。いや、本来は違うのかもしれないけど。


 賊の数はそんなに多くなく、装備もかなりボロっちい。


「ふふっ、さて身の程知らずにはどんな報いを受けさせましょうか?」


「まあ何があるか油断はできない。まあここは僕に任せて」


 賊の進行方向に僕は種のような物を投げる。


 すると巨大な荊がいくつも現れ、賊を拘束する。


「うぎゃあ!? な、なんなんだこいつぁ!?!?」


「こ、こいつ切れねえ!! クソが!!」


「ぎゃあいでででで!! この棘刺さって痛え!?!?」


 男の触手プレイって誰得なんだみたいな構図だ。


 でも魔道具の試運転としては上々。鉄の武器ですら傷つけることができない巨大な荊。これなら敵の拘束、進路方向を塞ぐという用途で使えそうだ。


「これってお兄ちゃんが作った魔道具なの? 凄いね……勝手にウニョウニョ動くとかすんごい!」


「人一人を軽々と拘束できる荊ですか。こんなにも手軽に出せるとなれば使いやすそうですね」


「うん、割と手軽に作れるんだ。使い捨てというのがネックだけどこれならいい感じに使えそうだね」


「流石ですヴィクトル様! たった数日でこんな魔道具を作ってしまうなんて……!!」


 僕らはそう話しながら賊の横を通り過ぎようとする。


 すると賊の一人が声を上げる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!! お、俺たちをこのまま放置していくのか!?」


「放置って……まあそうだけど。襲ってきたのはそっちなわけだし」


「勘弁してくれよぉ〜〜! このままじゃ魔物に襲われるし、なんたって笑いものだ!! なんとかしてくれねえか!?」


 うーん、そんなことを言ってくるなんて。いや、でも……。


「ふふっ。では二度と悪さをしないこと、そうですね。私の手足として忠実に動いてくれるのなら解放してあげてもいいですよ」


 僕が悩んでいるとテレシアは笑顔で賊たちにいう。う、うわぁ、凄い悪い笑みを浮かべてる……!


「ほらほらどうしますか? 貴方たちのようなどうしようもない人を、私が助けてあげると言っているんですよ? 泣きながらありがたがるのが礼儀じゃないんですか?」


「い、いやテレシア……。そのやり方は流石に」


「へ、へいっ! テレシア様っ!! 俺たちを犬のように使ってくだせえ!!!」


「え……?」


 えええええ!? それでいいの!?

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