第22話 悪役錬金術師、魔石鉱山攻略の準備をする

「ふふっ、ヴィクトル君、悪い顔をしていますね。不思議とそっちの方が似合うのは気のせいでしょうか?」


「て、テレシア様っ! ヴィクトル様はお優しい方なのですよ? そんな悪い顔が似合うわけ……いや、そんなことない?」


「うんうん、何故かこっちの方がしっくり来るんだよね。なんでだろ?」


 僕は三人の言葉を聞いてハッと我に帰る。グサグサと刺さるな……!


「ご、ごほんっ! まあとにかく、これで魔石さえ手に入れば父上を黙らせるものは作れる。これで認めなかったり、まだ口出しするようならどうしようもできないけど……」


 その時のことはその時に考えよう。


 父や兄、色々と危ない家だが、こんな家でも公爵家。公爵家だから守られているところは沢山あるのだ。


 それに……テレシアやエルヴィーラ、ローザを守るなら、下手に公爵家は出ていけない。領土を追い出されて、安全な場所を失う方がリスクが多いから。


「ただ、父上はプライドは高いけど……流石に賢者の石やエリクサーが作れるなら少しは聞く耳持ってくれると思うよ……多分」


「その多分が怖いんだよね。まあそんなことを考えてても仕方ない。今は目の前の鉱山攻略に目を向けないと」


「そうですよね。指示された地図、確保しておきましたっ!」


 ローザはそういうとゾディアック領とアスクレピオス領周辺の地図を机に広げる。


 ゾディアック領とアスクレピオス領の間には鉱山がある。ここに馬車が通れるような道は数えるほどしかない。


 僕らが住む別邸から、アスクレピオス領の鉱山までは歩きで数十分程度。近いため変に遠征などは考えなくてもいい。


「恐らく、整備された道の周辺には魔物はいないはずだ。ただ、問題なのは鉱山内」


「長らく放置されていますからね。賊や魔物との遭遇は考えておくべきかと」


 テレシアの言う通り、基本的に鉱山内での戦いが予想される。


 鉱山内は狭い上に使えるスペースが限られる。さらに前衛不在だから、奇襲などで距離を詰められるとかなり厳しい戦いになるだろう。


「そこら辺は任せてっ! 私が索敵と前衛を兼任できるからっ!」


「わかった。エルヴィーラがそう言うならそれに従うよ。後、警戒しなくちゃいけないのは……」


「大型の魔物ですね。魔石鉱山ですので存在する確率は高いでしょう」


 テレシアの言うことに僕も頷く。


 未開拓の領地を開拓する時、ゲームだとキャラクターをそのマスに移動させた後、戦闘などのイベントをこなして占領、開拓という手順を取る。


 魔石鉱山や古代遺跡、森林といったところには賊の頭領や大型の魔物を倒さないといけないことが多い。


 魔石鉱山で戦う魔物となるとおそらく……。


「ロックドラゴン、もしくはそれよりも上位の魔物か」


「ドラゴン……って。いやいやお兄ちゃん、そんなのそうそういるような魔物じゃないよ?」


「エルヴィーラさんの言うことも一理ありますが、長年放置されている上、魔石鉱山の規模も大きい。となるとそれがいる可能性は否定できないかと」


 ロックドラゴン。全身が岩に覆われた魔物で、物理攻撃に対して大きな耐性を持つ強敵だ。


 その代わりに魔法攻撃やハンマーなどの一部特攻武器にはべらぼうに弱い。


 幸い、僕らは魔法攻撃に比重を置いているからロックドラゴンが出てきても苦戦することはないだろう。そこまで無傷で辿り着くことができればの話だけど。


「魔法薬は必須。それと攻撃系の魔法薬、地形変化の魔法薬も作ったほうがいいかな」


「私も使えそうな魔法を幾つか練習しますか。ついでに少しお買い物もしたいので、ローザさん付き合ってくれませんか?」


「はいっ! 喜んで! テレシア様とお買い物に行けるの楽しみですっ!」


「うーん、じゃあ私は召喚術でも……」


 僕らがそれぞれ魔石鉱山攻略に向けてやるべきことを口にしているとだ。


 エルヴィーラがそんなことを呟く。……そうだ、今のうちにかなり早い段階だけど渡しておこう。


「あ、エルヴィーラ。召喚術を勉強するならこれとかいいんじゃないかな? うちにあったんだ」


「これ……って!? 秘伝の魔法書!?!? なんでこんなのが別邸に!?」


 エルヴィーラは僕から手渡された『ゾディアック式召喚術』の魔法書を見て驚く。


 この魔法書は本来ならゲーム中盤以降。エルヴィーラのイベントを進めることで手に入る魔法書だ。


 これを使えるのはゲーム中でもエルヴィーラのみ。これを使用すると特殊な召喚術のスキルツリーが解放される。


 本来なら三年後とかにエルヴィーラの手に渡る代物だけど、今のうちに渡しておこう。ゲーム本編だとこの魔法書がずっと見つからなくて困ってたみたいなことを言ってたし。


「へぇ、面白いものがあるんですね。しかし、公爵家の秘伝と言えばかなりの価値がある魔法書のはず。何故そんなものがこんな別邸なんかに……?」


 テレシアがそう聞いてくる。


 貴族系のキャラクターは皆、イベントを進めることで秘伝の魔法書や秘伝の武器を手に入れることができる。


 それらは非常に価値が高いもの。本来なら厳重に保管されていて、有事の時以外は使われないような代物だ。


 だったら何故、この魔法書が管理が行き届いていない別邸にあったのか。それは長年使い手がいなかったのと、ゾディアック家が秘伝の魔法書や武器を沢山持っているからだろう。


 つまり、エルヴィーラが生まれてくるまで、この魔法書は長らく価値はなかった。故にこの別邸で忘れ去られていたのだと推測できる。


「難しい内容だと思うけど……それを使いこなせれば将来エルヴィーラにとって大きな力になると思う。だから受け取ってくれないか?」


「お兄ちゃん……うんっ! ありがとうっ!! 私、これを沢山勉強してお兄ちゃんの役に立ってみせるから!!」


「そ、そこまではしなくてもいいけど……」


「ダメだよっ! だって私、お兄ちゃんのこと一番好きで一番欲しいと思ってるしぃ」


 エルヴィーラは目を細めながらテレシアへ視線を向ける。テレシアも負けずに視線を返してバチバチと火花を散らす。


 ……この二人は本当に仲良いのか悪いのかよくわからない。


「じゃあ、魔石鉱山攻略は五日後に設定しよう。みんなそれぞれ準備をすること!」


 さあ、魔石鉱山攻略に向けてやるべきことは山積みだ! 頑張るぞ!!

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