第21話 悪役錬金術師、魔道具を作る

「はい、これ魔石だよお兄ちゃん」


「ありがとう! ……凄いな、粗悪品とは全然違ういいものばかりじゃないか」


 エルヴィーラに魔石を手渡されて僕はそう呟く。


 側にいたローザとテレシアが僕の言葉を聞いて、覗き込むように魔石を見る。その後、二人も各々の反応を見せた。


「凄いですねヴィクトル様っ! 綺麗な魔石って本当に宝石みたいです……」


「内包されている魔力量も桁違いですね。一体こんな良質な魔石をどこから仕入れているのでしょうか?」


「え、あーいや……私たちは父上から一人一つ、魔石鉱山をもらっているからそこから採取したやつだよ。お兄ちゃんとかはもっとたくさんの魔石を持ってるけど」


 一人一つの魔石鉱山……。家内カーストをこれでもかと感じさせられる言葉だっ!!!


「エルヴィーラ様が魔石鉱山をお持ちなら、わざわざ新しい魔石鉱山を探しに行く必要はなくないですか? ヴィクトル様」


「……いや、それはない。魔石鉱山の規模はアスクレピオス領の方が大きいからだ。そうでしょ、テレシア」


「ええ、そうですね。アスクレピオス領には鉱脈があると、昔何かの書物で見た記憶があります。……そんなことよく知っていますねヴィクトル君」


 感心したような眼差しでテレシアは見てくるが、これは偶然だ。


 偶然僕がゲーム内のマップを把握していたから言えたにすぎない。


 ゲーム内だと各領地に色々な特色がある。領地経営のパートでは、主人公は自分の領地を開拓しながら、各領地との交流を深めたり、イベントを進行させたりする。


 ゾディアック領はゲーム内でも屈指の領地の広さや資源の豊富さを誇る。


 全ての領地がそうではなく、アスクレピオス領を例にして言うと鉱脈があるため鉱脈資源が豊富な代わりに、平地が少ないため施設をあまり作れないといった具合に。


「お兄ちゃんのためって言っても、あまり魔石を流せないかも……。私だって使いたいし、それにあまり横流しすると父上が……」


「何をするにしても父上が問題なんだよね。魔石鉱脈のこともいずれバレそうだし……。父上を認めさせるような何かを……」


「お兄ちゃんが錬金術が得意って言っても簡単には認めないよあの人。それこそ賢者の石とかエリクサーを持ち出せば話は別だけど……」


「……ん? それでいいのかい?」


「ふぇ……? いやいや、賢者の石とかって錬金術の奥義だよ? そんな簡単に作れます的な」


 父上を認めさせるにはもっともっと複雑な手順を考えないといけないって思ってた。


 賢者の石やエリクサーだけじゃ満足しないだろうから、何かしらゾディアック家の利益になりそうなことをしなくちゃと考えていたんだけど……。


 そうか、エルヴィーラのいうことが本当なら父上を認めさせるのは意外と難しくないかも……。


「簡単には作れないよ。ただ、テレシアを治療する過程で魔法薬への理解は十分深まったから、エリクサーなら不可能じゃないはずだ。紋様の進行も進んでるわけだし」


「話しながら淡々と錬金術進めてるお兄ちゃん凄いけど……紋様の進行って……! 紋様あったの!?」


「ああうん。錬金術の最後の過程でしか出ないからあれだけどあるよ。ほら」


 エルヴィーラが驚きながらそう聞いてきたので、僕は紋様を見せる。


 そういやエルヴィーラに紋様を見せていなかったな。そりゃあ驚くか。


「凄い……ほとんど半身以上に紋様が広がってる……!」


「やはり毎日の錬金術が紋様の進行を早めているのでしょうか? それとも、ヴィクトル君が異常に錬金術への適性が高いのが……?」


 毎日、何気に鏡で全身の紋様を確認しているんだけど、紋様は全身の六割を占めるほどに広がっている。


 これはゲーム本編で言うと、主人公が中盤に差し掛かり、エースとして活躍し始める頃と同じくらいの進行度だ。


 ゲームを思い出すんだけどあの時の主人公は強かった……。敵陣に一人で突っ込んでは、敵の攻撃を回避して敵を一撃で倒すという無双っぷりを見せるんだから。


 でも、僕の場合、そんなことはできない。戦闘はさっぱりだからね。


「でもでも! これだけの紋様があるなら賢者の石とか作れるって言っても信じちゃうかもっ!!」


「でもやっていないということは何か条件があるんですよね? ヴィクトル君」


「うん、テレシアの言う通りだ。賢者の石、エリクサーを作るためには設備が足りない。今の作業台一つ分のスペースじゃやれることは少ないし」


 その設備を整えるためにお金という問題に直面している。


 そのお金を稼ぐには魔法薬以外にも魔道具とか売っていくのが効率が良くて、その魔道具を作るために魔石が必要で、その魔石のために武器となる魔道具を作っているというわけだ。


 ……うん、やっぱりややこしいなこの構図。でも、アステリズム・クロスと同じなら最初のハードルさえ乗り越えてしまえば後はうまい具合に……!


「よし、後はこれで……できたっ! エルヴィーラとテレシアの魔法を見て思いついた魔道具だ!」


 あらかじめ用意した短剣に加工した魔石をはめて僕はそういう。


 短剣の刀身がみるみるうちに赤と黄金、二つの色に染まっていく。


「おおっ……! 魔法を使える武器ってのは聞いたことあるけど、錬金術で作れちゃうんだねっ! てっきりそういうのは鍛治師の仕事だと思ってたよっ!」


「エルヴィーラさんの言うとおりですね。まさか錬金術で武器を作れてしまうなんて……私も驚きです」


「魔石なしなら付与術師、武器をゼロから作るなら鍛治師、魔石ありなら錬金術師と言った具合に武器に魔法を付与できる人は沢山いるんだよ。知らない人が多いけど」


 ちなみにあげた三つの中だと付与術師が一番手軽だけど、一番効果量が低い。


 一番効果量が大きいのはゼロから武器を作る鍛治師だ。だけど一番コストがかかったり、設備を必要とするからやるべきことは多いけどね。


 錬金術師はその中間くらい。素材を使う分、それなりの武器を作れるといった感じだ。


 僕が作った短剣。エルヴィーラとテレシアの魔法を見て思いつき、ゲーム内の知識を引っ張り出して製作した魔道具。その名前を……。


炎雷えんらいの短剣。火属性と雷属性、その二つを切り替えながら戦うことができる魔道具だ」


「ふふっ……。なるほど、ですから私とエルヴィーラさんということですか」


「ん? ん? どう言うことなの? お兄ちゃん?」


 納得したかのように微笑むテレシアと、首を傾げるエルヴィーラ。


 これで僕も足手纏いではなく、戦力として活躍できる……!


 テレシアの治療にまた一歩近づけた感じがしたっ!


「さて、僕の準備はできた。始めよう、父上を黙らせるための第一歩を!」


 そう、これはまだまだ始まりだ。


 魔石の確保、実績を作り、戦力を作る。


 誰も僕のやることに口出しなんかさせない。父上が認めないというのなら、邪魔をするというのなら、悪役らしく叩き潰すまで……!


 僕はこの時初めて、ゲーム本編と同じヴィクトルの笑みを浮かべるのであった。

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