第19話 悪役錬金術師、妹に懐かれる
「え……は、はあ!? い、一体何をさせようっていうのよっ!!」
「ふふっ、どうやら調子はいつも通りになったようですね。安心です。ですが、この手は離しませんよ」
テレシアの笑顔を見て、エルヴィーラはその手を離そうとするが、テレシアの万力のような力に振り払えずにいた。
恐らく魔力で握力を強化しているのだろう。テレシアの魔力量でやるのだ、強化された握力はバカにならないだろう。
「何、簡単な話です。貴女には我々の戦力として働いてもらうだけですよ」
「は……はぁ? せ、戦力? 一体何と戦うつもりなのよっ!」
「魔物退治だよ。厳密にいうと魔石鉱山に棲みついた」
困惑するエルヴィーラを見つつ、僕はそう説明する。
「ま、魔石鉱山……? ど、どこのよっ! ま、まさかお、お兄ちゃん……うちの領土のやつを」
「行かない行かない。そもそもゾディアック領の魔石鉱山は全て本邸の管理だろう? 僕らが行くのはアスクレピオス領だよ」
さりげなく僕への呼び方がヴィクトルからお兄ちゃんに変わっているのは置いといて……。
エルヴィーラがいれば冒険者を雇うこともないだろう。エルヴィーラは何せ索敵、攻撃、防御までこなせる万能型の魔法使い!
小規模な魔石鉱山の制圧くらいなら難なくこなせるだろう!
「アスクレピオス領……。ま、まあいいけど? 頼りにされるのはき、嫌いじゃないし」
「ふふっ、頼もしいですね。では貴女の力お借りしますよ」
「敗者に口無しよ。分かったわそうする。それで? それだけでいいの?」
そう聞いてくるエルヴィーラに対して、僕らは少し呆気を取られてしまう。
エルヴィーラは頬を赤く染めながら強気に言う。
「私はお兄ちゃん達をありもしないことで侮辱した。それも自分の身可愛さに。その罰がこれだけだなんて納得できないのよ」
「あら……被虐趣味があるだなんて、中々に業が深いですね。そうだとは思いませんか? ヴィクトル君?」
「被虐……被虐っ!? 何を言っているんだテレシア!?」
「ひぎゃく……? な、何を言ってるのか分からないけど、そんな変な趣味ないからねっ!」
エルヴィーラの言葉に対して、テレシアは面白そうに爆弾を投下し、僕は予想外の言葉に困惑する。
ま、まあエルヴィーラがそれっぽい趣味なのはゲーム内で示唆されていたけれども……!
「まあいいですよ。私としては貴女に求めるものは何一つありません。ヴィクトル君は何かありますか?」
テレシアが僕に視線を移しながらそう言い、エルヴィーラとローザの視線がそれに連れられてこちらを向く。
ううむ……。そう聞かれると困る、あ、いや待てよ。エルヴィーラに一つ頼みたいことがある……っ!
「エルヴィーラっ! 魔石だ! 魔石を譲ってくれないか?」
「へ? いや、お兄ちゃん……そんな情熱的に掴まれても……、私たち兄妹だし……え? 魔石?」
僕はエルヴィーラの手をガシッと掴みながらそういう。エルヴィーラは顔を赤く染めてもじもじとした後、拍子抜けたような声と表情だ。
いきなり魔石と言われて拍子抜けしてしまう気持ちもわかる。だがエルヴィーラは持っているはずだ。それも高品質な魔石を……!
「そう、魔石! エルヴィーラなら何個か持っているんじゃないかと思って!」
「も、持っているけど……。どうしてそんなこと知っているの?」
エルヴィーラは頬を赤くしながらモジモジとそう答える。
その答えはゲームの知識にある。何故なら……。
「エルヴィーラは召喚術か、錬金術を勉強しているだろう? だからきっと持っていると思って!」
「な……誰にも言っていないはずなのに、なんで知ってるの!? 私が勉強してる魔法っ!」
どうやら図星だったようでエルヴィーラは驚きながらそう言った。
エルヴィーラはヒロインの中でも仲間になるのが遅いキャラクターだ。加入時は魔法使いとして加入するが、スキルツリーを見ると錬金術と召喚術も開放されている。
どちらも条件を満たさないと解放できないスキルツリー。つまり、エルヴィーラは主人公の仲間になる前にどこかで、その二つを勉強しているということだ。
そして本編ではここ最近は魔法の勉強しかしていないと言及していることから、エルヴィーラがその二つを勉強したのは少し前。
つまり、本編の三年前にあたる今なら勉強していてもおかしくない!
という構図が成り立つのだ。
「わかるよ。エルヴィーラのこと。離れて住んでいてもさ」
「お、お兄ちゃん……。うんっ! ありがとっ! じゃあ、仕方ないからあげるねっ! 魔石っ!!」
エルヴィーラは満面の笑みを浮かべてそう答える。
僕は内心ガッツポーズをしていた。これで魔石鉱山攻略用の……いや、これからも使う武器が作れるからだ。
これでテレシアの負担を少しでも減らせる……!
「あ……でも、どうしよう。このままじゃ私、本邸に……」
エルヴィーラは急に心配そうな表情になる。
そうか、エルヴィーラの元々の目的は僕のやっていることをやめさせること。その目的は達成されていないんだった。
「ローザ。これからしばらくは隠密に動いてほしい……って言ってできるかな?」
「お任せくださいっ! 少々納品やらに時間はかかるようになったり、利益率が変わりますが、冒険者ギルドには私から交渉しますねっ! 本邸の人たちにバレないよう、慎重に動きますよっ!」
ローザは僕の意図を察したのか笑顔で答えてくれる。頼もしい……っ!
「ありがとうローザ。今度、改めて君には礼をしなくちゃね」
「大丈夫ですよヴィクトル様っ! こうしてお役に立てること、それが何よりの生きがいですのでっ!」
そう答えてくれると助かるけど……でもやはり、不安だ。
これで裏切られたりしないよね……? 大丈夫だよね!?
「そういうことだから、エルヴィーラはとりあえずやめさせたって答えればいいよ。ちなみに僕のやっていたことは魔法薬の売買。そう答えてくれて構わないから」
「うん、分かったっ! 今度から別邸に来る時はなるべく目立たないようにするねっ!」
「助かるよ。じゃあ、魔石と……鉱山に行く時はよろしくねエルヴィーラ」
「……うんっ! こっちもよろしくねお兄ちゃん! 大好きっ!」
エルヴィーラに手を差し伸べようとしたら、エルヴィーラは思いっきり抱きついてきて、そのまま頬にキスをしてくる。
僕は何が起きたのか数秒間理解できず……エルヴィーラが子供っぽい年相応の笑みを浮かべながらこう言った。
「えへへ。次は唇だから」
「…………ちょっとヴィクトル君、後から二人で話しましょうか」
……なんだか、すごいことになってしまった予感……!!
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