第17話 悪役錬金術師、妹と婚約者の決闘に巻き込まれる②

炎の矢フレイムアロー!!」


 エルヴィーラが魔法を放つ。左半身に浮かび上がる紋様。それを見て、僕はある意味感動を覚えた。


 ゲームに出てくるイベントスチルや立ち絵と全く同じだ! こんなところで見られるなんて感無量だ!


魔障壁プロテクション


 テレシアもすかさず魔法を発動して防御する。テレシアが魔法による迎撃ではなく、防御を選択したのを見て、エルヴィーラが調子良さげにこう口にする。


「はん! さっきまでの言葉は何だったのかしらね!? 防御ばっかりじゃ勝てないわよ!」


 ……うおおおおッ!! ゲーム内の台詞そのままだ! それが現実になって聞けるなんて凄い! 感動したぞ僕!!!


 っと、そろそろ隣で見ているローザが何かを言いたげな表情で僕を見ている。これじゃどっちを応援しているのか分からないな。


 ゲームのオタクとしては両方を応援したい気分なんだけど、今は推しと婚約者補正が乗ったテレシアの方が勝る!


 エルヴィーラの猛攻を軽々と防いでいるテレシアに目が離せない!


「ふふっ、火属性がご自慢のようですが、その程度の火では蝋燭を点けるのも一苦労でしょう。お手伝いしましょうか?」


「ふ、ふんっ! これが本気だと思っているなんてめでたい頭ね! いいわ、本気で消し飛ばしてあげる!!」


 エルヴィーラが右手を天空に向かって突き出す。半身に浮かび上がる紋様の輝きが一層強くなっていき、彼女の掌に巨大な火球が生み出された。


「火傷しても知らないわよっ! 紅蓮炎弾クリムゾン・フレイム!!」


 エルヴィーラから放たれる魔法。これはゲーム本編でも使うエルヴィーラの得意魔法! 範囲攻撃、威力、地形への炎上効果付与、全てが優秀な上級魔法だ!


 辺り一面を焼き尽くすような巨大な火球を前にして、テレシアは驚きも慌てもせず、ただ薄く笑みを浮かべていた。


 そして、彼女は指を鳴らしながらこう口にする。


混沌渦カオスホール


 次の瞬間、テレシアの前の空間が歪み、黒と白の螺旋を描く渦が現れる。それはエルヴィーラの火球を飲み込み、その存在をかき消してしまう。


「……なっ!? 私の魔法が……どうして!?」


「ふふっ、大したことがないのですね。ゾディアックの才女というのも。火属性魔法のお手本見せてあげましょう。隕石メテオ


 テレシアが右手を挙げて、ゆっくりとそれを降ろす。


 次の瞬間、空から雲を切り裂き、隕石が降ってくる。


 隕石メテオ。名前から分かる強そうな魔法第一位だろう。神話級の一個下である超級の魔法で、ゲームでも使えるのはかなりの終盤。


 覚えるのは大変な割だけど、その代わり高威力、超長距離攻撃が可能、周囲数マスを巻き込むこともでき、地形効果、防御効果など全て無視してダメージを与えるというバランスブレイカー。


 ちなみにテレシアが敵として出てきたときに容赦なく使ってくる魔法で、こちらの射程外から高威力の隕石を毎ターンのように降らせてくる。


 しかしゲームだと俯瞰視点で見るからあまり派手に見えないけど、実際に見るとこんなにもでかいのか……。


 エルヴィーラもローザもそれを見上げて、それぞれ顔に恐怖をにじませていた。この中で余裕の態度を取っているのは、僕を除けばただ一人だろう。


「さてさて、どうしますか? 対策取らないと隕石でぺちゃんこですよ」


「あ……あぁ、こ、こんなの、どうしろって言うのよぉ……」


 余裕気に笑うテレシアに対して、完全に戦意喪失しているエルヴィーラ。


 それもそうだろう。自分の得意魔法を軽々と無効化された上に、お返しに飛んでくるのが超級魔法だ。エルヴィーラが戦意喪失してしまう理由も分かってしまう。


 ……これ以上はかわいそうだ。流石にやめさせるべきだろう。


「テレシアさん、エルヴィーラは分かったようだしやめてもいいんじゃない?」


「そうですね。ではこの程度で辞めてあげましょう。幻影イリュージョン解除」


 テレシアが手を叩く。すると隕石が嘘のようにかき消えてしまう。


「ぇ……? ど、どういうこと、なの……?」


「え? ええ!? な、何が起きたのですかヴィクトル様!」


 テレシアは隕石の魔法を使ってなんかいない。


 実際は全く別の魔法。幻影イリュージョンの魔法を使っていたのだ。


 幻影は対象に幻覚効果を付与する魔法。幻覚効果を付与されると、キャラクターは勝手に動くようになり敵味方関係なく攻撃する。


 ゲームだとこんな感じの効果だったが……なるほど、別の魔法を幻影で見せることもできるのか。


「幻影。テレシアは隕石の魔法をみんなに見せていたんだ。落ち着いて見ていれば魔力反応もないし、熱もないから気付くはずだよ」


「私にはてっきり本物かと……。流石ですヴィクトル様っ!」


 でも熱や魔力まで幻影で再現されてたらマジでわからなかった……。それくらい迫力はあるものだった。


 エルヴィーラは腰が抜けたままなのか、上手く立ち上がれず、無防備なままテレシアの接近を許してしまう。


「さて、これで王手チェックメイトですね。最後に言いたいことがあるなら聞きましょう」


「……っ、ぅ! ひ、卑怯よ! こ、こんな幻影で脅すようなことっ!!」


「あら? それでは本当の隕石を降らせた方が良かったですか?」


 涙目になりながらなんとか強がるエルヴィーラに対して、テレシアはニコリと笑いながらそう口にする。


 その笑顔、目が笑ってねえんだよな……。


「そ……それにっ! あんたは魔法が大して使えないはず……! ど、どうして!?」


「ふふっ、全部ヴィクトル君、貴方のお兄様のおかげですよ。ヴィクトル君の魔法薬のおかげで日に日に私の体は良くなりつつありますので」


 テレシアが元気そうで何より。テレシアは完治もしていないし、まだまだ全力の半分も出せないだろう。


 しかし、少しずつ体が良くなってきているのは確かだ。それはこの戦いが証明している。


「さて、これ以上言い訳したいことはありますか? 恥の上塗りはおすすめしませんが」


「ぅぐ……っ! ぐ……ぐすっ、う、うわあああああん!!! だっ、だってぇ! 父上にやれって言われてこんなことなるなんて思わないじゃないっ!!」


 エルヴィーラの反応に僕もテレシアもローザも呆気を取られてしまう。


 ま、まさかのギャン泣き!? まさか、今までずっと強がりだったのか……?


 まさかの反応に僕らは少しの間立ち尽くすことしかできなかった。



 

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