第15話 妹が別邸にやってきました

「これもダメ。こっちも……質が悪いね」


「こちらの木箱も確認しましたがダメでした。ローザさんはどうですか?」


「は、はいっ! テレシア様。残念ながらこちらも……」


 僕ら三人は大きくため息を吐く。


 木箱にこれでもかと詰め込まれた魔石。一先ず、魔法薬の生産に支障が出ない資金で購入してみたが、全部劣悪品だ。


 傷がついてたり、魔石が割れてたり、そもそも魔石じゃなくて石ころだったりと。


「も、申し訳ございませんっ! 私の目利きが出来ないばかりにこんな……っ!」


「いいよ気にしていないから。こういうことは誰にだってあるさ。でもこんなにも劣悪品ってなると、商人の方が怪しいかもね」


「魔石は需要が高すぎて、みんなこぞって欲しがりますからね。最近では劣悪品や偽物を売り捌く商人も少なくないと聞きますし」


 ゲームだと魔石は簡単に手に入るイメージだった。時々劣悪品もあるけれど、普通の品なら簡単に買える物だったから。


 でも現実はそうもいかない。大量に積まれた魔石はどれも使い物にならない劣悪品。


 素材変換の錬金術が使えたら良質な魔石に変えられるんだけど……、魔法薬や魔道具の作成にリソースを割いているから今はできない。


「使い捨ての魔道具なら作れる気がしますが、どうですかヴィクトル君」


「出来なくはないっていう感じだね。ただ威力は保証できない粗悪品かな」


「では使い道はないに等しいと……」


 錬金術への理解が深まれば、この魔石たちにも活用方法はあるんだけど……。


 あいにく僕の錬金術はそこまで達していない。少し悔しい気分だ。


 そんなことをしていると馬車の車輪の音が聞こえてくる。それに反応してローザが立ち上がった。


「あ、どうやら馬車が来てくれたみたいですので魔法薬の納品だけ済ませてきますねっ!」


「ああ、ありがとうローザ。手伝おうか?」


「いえいえ、これも私の仕事ですから大丈夫ですよ。気持ちだけちょうだいします」


 ローザは笑顔でそう返すと、積み上げた木箱を持って屋敷の外へと出ていく。


 ローザの手腕なのか、最近は馬車がこちらまで出向くようになり、魔法薬の納品や素材の調達がかなり楽になった。


 今度改めてローザを労ってあげないと……。


「ヴィクトル君。この魔石はどうしますか? 廃棄処分……するには少々勿体無いですが」


「使い道は考えるから僕が倉庫に運ぶよ。テレシアはゆっくり休んでて」


「はい、ではお言葉に甘えて……」


 テレシアがそう言いかけた時だ。


 バン!と勢いよく屋敷の扉が開く。僕とテレシアは同時に扉の方を見て、それぞれ別の反応を示す。


「……なっ!!」


「……へぇ」


 赤い髪を揺らし、赤い目は僕を射抜くような強い視線を送っている。


 僕よりも身長が高く、すらりと伸びた手足、凹凸に富んだ女性らしい身体。


 まるで威嚇するようにヒールの音を立てて、彼女は真っ直ぐ僕の方へ歩いてくる。


「見損なったよヴィクトル。従者にあんな怪しげな魔法薬を運ばせるなんて……! 闇商売に手を出したんだね!?」


「は……え、はいっ!?」


 や、闇商売……!?


 なんで僕はそんなことを疑われているんだ!?


「ちょ、ちょっと落ち着いてほしいエルヴィーラ……っ! 一体何を言っているんだ?」


「ふぅん、とぼけるんだ。おにぃ……ヴィクトルが怪しげな動きをしてるって聞いてみれば、まさか魔法薬の闇商売に手を出しているんだから。今なら許してあげる。出所と繋がってる人を教えなさい」


「急に来たと思えば、口早に捲し立てて少しは貴族令嬢としての振る舞いはないんですか?」


 エルヴィーラと僕の間にテレシアが割り込む。


 エルヴィーラは気に食わないのか、目つきをさらに強めるが、テレシアはどこ吹く風と言った様子だ。


「……一応聞いてあげる。あんたの名前は?」


「ふふっ、あんたとは随分と強気で礼儀に欠けているんですね。それとも私の爵位が下だから見下されているとか……?」


「はんっ! 悪事を見過ごしているような人にはお似合いだと思うけれど? むしろ口きいてあげてる分ありがたいと思って欲しいわねっ!」


 エルヴィーラとテレシアが火花を散らす。


 胃がとてつもなく痛い。主人公もこんな気分だったのだろうか。


「……まあ二人とも落ち着いて。テレシアさんの言う通りだエルヴィーラ。急に押しかけて、その言いようは流石に無理が過ぎるよ」


「な……っ!? わ、私はただ間違っていることを見過ごせなくて……っ! 今なら引き返す道だってあるんだよ!? どうして分からないのっ!?」


「何か勘違いしてるって……。あの魔法薬は僕が作ったものだ。怪しいものでもなければ、闇商売に使うものでもない。冒険者ギルドに納品するものだよ」


「は……え? う、嘘でしょ!? だ、だってヴィクトルには何の才能もなくて、紋様も出ていなくて、それでここに押し込まれたはずなのに……!!」


 全部事実なんだけど、どうしてだろうか。凄く胸に刺さる言葉の数々だ。


 僕がエルヴィーラの言葉に落ち込んでいるとだ。テレシアは得意げに笑いながら、困惑するエルヴィーラへこう告げる。


「ふふん。ヴィクトル君の才能を見抜けないだなんて、ゾディアックの才女も高がしれますね」


「な……っ! 知らないわけじゃないもん」


 エルヴィーラが僕とテレシアから顔を背けながら、消え入るように放った言葉に、僕らは目を丸くする。


 エルヴィーラは僕らの視線が耐えられなくなったのか、拳をわなわなと震わせた後、キッとテレシアを睨みつけてこう口にする。


「私の方がお兄ちゃんのことを知っているんだもん! まだ会って数日程度で調子に乗らないでくれる!? どうしても私よりお兄ちゃんのことを知っていると言うなら、力で証明してみせなさいよ!!」


 エルヴィーラが放った言葉に、僕らは驚愕し言葉を失う。


 エルヴィーラ・ゾディアック。アステリズムクロスのヒロインの一人であり、ヴィクトル・ゾディアックの腹違いの妹であり、そして……昔ながらのツンデレキャラ。


 だけど、ブラコンっていう設定聞いたことないんだけど!?


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