第12話 悪役錬金術師、婚約者に魔法を見せてもらう①

「貴族向けの魔道具……? 言いたいことは分かるんだけど……」


 ああ、そういやゲーム内のフレーバーテキストで、綺麗な魔道具は貴族に人気と書かれていたな。


 魔道具を作るために使う魔石は綺麗に加工すると宝石のように綺麗になる。


 それが貴族たちの間でウケるのだろう。普通のアクセサリーにはない、魔道具特有の効果もあるわけだし。


「僕には魔石を手に入れる術がないんだよ。市場で出回っているものはそこそこ値段がするし……、かと言ってゾディアック家の魔石鉱山は本邸の人達が占領していて使えなさそうだし」


 アステリズムクロスの貴族の各領土には資源や地形などで様々な特色がある。ゾディアック家は序盤のヴィクトル関連のイベントで少し、その後は終盤まで立ち入ることが出来ない場所。


 一応ラスボスの領土になるためか、ゲーム内ではぶっちぎりに環境に恵まれた領土を持っている。


 数多くの魔石鉱山、古代遺跡、森林、大河などなど。自然資源やその他資源に恵まれた土地だろう。


 ヴィクトルの記憶と転生してから数日間調べて、それらの資源がどのようになっているか調べてみた。


 結果、めぼしいところは全て本邸の人達が占領している。秘境がある森が放置されていたのは、本邸から離れていて、小さな森だったため、誰も興味なかったのだろう。


 ……いや、待てよ。ゲームのマップと領土の関係性だと。


「そうか、アスクレピオス領ならっ!」


「流石、そこまで気が付きますか。そうです。ヴィクトル君の住むこの別邸は奇しくもアスクレピオス領の近くです。そしてアスクレピオス領には」


「未開拓の土地が沢山ある……!」


 資源を採取するのだってお金はかかる。人も必要だ。


 ゾディアック家が大量の土地を持ちながら、それを活用できるのは公爵家の財力や権力あってのことだろう。普通の貴族は資源土地をそこまで多く運用できたりしない。


 アスクレピオス家は落ち目の男爵家。それも自分たちに使うお金に目がくらんでいて、こういった土地を運用するための投資はしていないだろう。


 実際ゲームでも未開拓のまま放置されていた。


「でも僕には動かせるような人員がいないよ。僕自身が赴かないといけないし、それに未開拓なら」


「魔物ですね。確実に戦闘になるでしょう」


 未開拓の土地には魔物が住み着く。アステリズムクロスだと、未開拓の土地を占領する際、必ず魔物や賊との戦闘を挟むこととなる。


 恐らくそれはこの世界においても同じ。ただ違うのは戦力がないということくらい。


 アステリズムクロスだと主人公単体でもそれなりに戦える。しかし、今の僕はとてもじゃないけど魔物と戦うようなことはできない。


 それにその後も心配だ。なにせ、僕には動かせるような人員が全くいないと言っても過言ではない。土地を開拓したとて、そこに人員を配置できなければすぐに未開拓状態になってしまう。


「まあまあ、今は取り合えず魔石が手に入ればいいじゃないですか。人員はその後にでも解決しますよ」


「……人員の解決。例えば貴族令嬢に魔道具を売って、そこから縁を作って、人員を配置できるようにするとか?」


「流石ですね。頭の回転が速い。それだけじゃありませんよ。先ほど、魔法薬の主な顧客は冒険者ギルドと言いましたね」


 テレシアは可愛げにウィンクしながらそう口にする。そしてテレシアはそのまま、自分の考えを話し始めた。


「冒険者を雇いましょう。ヴィクトル君の魔法薬は一定以上の信頼を置かれているはずです。ならば魔法薬と何かを報酬に冒険者を雇えば土地の管理も楽になるはずですよ」


「なるほど。冒険者か。ローザに聞いてみるよ。開拓時の戦力にもなるかもしれないし」


「それは良さそうですね。私も魔法を十全に扱うにはまだまだ時間がかかるでしょう。本気の二割くらいなら出せそうですが」


 笑いながらそういうテレシアに対して、僕は少しだけゾッとする。


 ゲーム内でのテレシアの扱いは今とは比べ物にならないほど酷い。度重なる冷遇に加えて虐め、エーテル病の進行。それがあってもなお、主人公達を圧倒するほどの強さだったのだ。


 それが万全の状態ではなかったという事実。もし、テレシアが万全ならばどれだけ強いのだろうか。それに少し興味がある。


「ふむ……テレシアさん。僕に貴女の魔法を少しだけ見せてくれない?」


「おや。万全には程遠く、二割の実力しかない私の魔法に興味があるのですか? ふふっ、それは嬉しいことを言ってくれますね」


 テレシアは僕の言葉に対して愉快そうに目を細める。僕が何を考えているのか、知りたくてたまらないといった様子だ。


「そんな大したことはないけど、僕だけが足手まといになることは避けたくてね。魔道具を作ろうと思うんだ。それも僕が使う」


「そのためのサンプルとして私の魔法が見たいと。いいでしょう。ですが、果たしてヴィクトル君は私の二割を見てどう思うのでしょうか?」


 その自信に満ちた表情、言葉。


 テレシアの二割はその他有象無象の全力とは比較にすらならないだろう。


 僕が魔道具を作る際に、それがどれだけ参考になるのか。それに、まだこの世界に来て、魔法を一度も見ていない。その興味も絶えないのだ。


 推しが魔法を使う瞬間……それに魔法をこの目で初めて見るのが楽しみになってきたっ!


「可能な限り、僕の役に立てるようにするさ。じゃあ外に行こうか」


「はい。あ、ヴィクトル君。せっかくならエスコートして貰ってもいいですか?」


 テレシアは微笑みながら、僕へと手を差し伸べる。


 僕はその手を見て、数秒間、何を言われたのか理解できないまま立ち尽くすのであった。


 ……え? エスコート?

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