第4話 悪役錬金術師、錬金術を始める

 アステリズムクロスはシュミレーションRPGだ。厳密にいうと運命を選ぶシュミレーションRPGだけど。


 アステリズムクロスは結構色んなことができる。シュミレーション形式のバトルはもちろん、各キャラクターとの掛け合い、領地開拓や発展、アイテムや武器の作成などなど。


 僕は今、アステリズムクロスのゲームシステムを思い出しながら、錬金術の魔法書を読んでいる。


「錬金術の構造はゲームとそのままなんだね」


 読めば読むほど、この世界はアステリズムクロスの世界だと思ってしまう。


 錬金術と一言で言っても、その中身は大まかに四種類に枝分かれしている。


 一つ目が素材変換。これは僕の世界の元々の錬金術そのもので、ある素材を別の素材に変えることができるものだ。


 最初は木材や石材を鉄に変える程度のことしかできず、変換のレートも木材十個に対して鉄一個とかだからかなり効率が悪い。


 これが化けるのはゲームの中盤を超えてから。中盤になると木材一個に対して鉄が二個出来るというバランスブレイカーとなる。素材が増殖するのだ。


 終盤になるとミスリルやオリハルコンなどと言った貴重な資源と交換できるようになり、領地開拓や武器、魔道具の作成で大きく役立つ。


 二つ目が合成獣の作成。アステリズムクロスでは一度に出撃できるキャラクターに限りがあり、高難易度、ストーリーが進むほど敵軍の物量は多くなる。


 そんな物量差を埋めるために合成獣や召喚士による召喚獣がいる。これらは最初は微々たる力だけど、スキルを解放するにつれて大きな戦力となっていく。


 三つ目が魔道具の作成。これは多種多様なアイテムを作ることができ、戦闘のサポート、キャラクターへの贈り物を作ることで好感度を上げられる。


 そして四つ目。これが今、一番大切で重要視しなくちゃいけないこと。それは魔法薬の作成だ。


 魔法薬は素材アイテムやスキルの解放にリソースを割く分、店で買えるような回復薬とは一線を画すような効果が多い。


 ちなみにイベントでもこの魔法薬が必要となり、魔法薬は各所で使われる。


 世界観的にはこの魔法薬作成がどれだけ上手いかによって、錬金術師としての実力が試されるようだ。


「薬草と赤い木の実を潰して、それを綺麗な水と混ぜて魔力を注ぐ……おおっ! できたっ!」


 ヴィクトルの記憶を頼りに物置部屋から錬金術の道具を取り出して、試しに魔法薬を作ってみる。


 紋様のおかげで覚えた魔法薬作成の手順をそのままやるだけで……魔法薬が完成した。


「これは【力のポーション】か。できた物も直感的に分かるのってすごいな」


 紋様のおかげで自分が何を作って、それがどれほどの出来なのか、ぱっと見で大体把握できてしまう。


 今できたのは【力のポーション】。ゲームだと使うことで数ターンの間力のステータスを上げることができるアイテムだ。


「だけど、ここにあるような素材だと大したものは作れないね……。どんだけ冷遇されているんだ」


 別邸は本邸に比べると小さく、物置も大したものは置いてない。


 貴族ならば魔法や武技とかで使うような物は一通り確保しているというのは、ヴィクトルの記憶から読み取っている。


 しかし、ヴィクトルは冷遇されているためか、渡されている物は粗悪品ばかりでさらにいうと数も少ない。必要最低限すら満たないだろう。


「才能がないからといってこの待遇……。変えるのは少し骨が折れそうだね」


「お待たせしましたヴィクトル様っ! ローザただいま戻りましたっ!」


 うおっ! びっくりした……!


 僕が物置から引っ張り出した魔法薬の材料の残りを見ていると、ローザが帰ってきた。さて、秘境で何を持ってきてくれたかな……?


「ヴィクトル様にお聞きしたいことがありますっ! ヴィクトル様はあそこに秘境があることを知っておられたのですか!?」


 ぐいっと身を寄せながらローザはそう聞いてくる。ああそうか、僕、あそこに何があるとまでは言っていないっけ。


 さて、ここでヴィクトルが変わったということを示そうじゃないか。


「ある筋から情報を仕入れていてね。君からの信頼や僕が変わったことを示すにはこの情報を開示するのがいいと思ったんだ」


「なら……それならそうと行く前に言ってくださればよかったのに。なんであんな遠まわしに言ったんですか?」


 ローザが頬を膨らませて少し不満そうに口にする。そういう表情をしたくなる気持ちもわかるが、これには一応訳があるのだ。


 ヴィクトルの記憶からだとローザがどれほどヴィクトルに信頼を置いているのか分からない。


 かと言ってローザはゲーム内に登場するようなキャラクターではない。シュミレーションRPGにありがちな一般兵のキャラクターがベースになっているんだろう。ヴィクトル戦でモブキャラのメイドが隣にいたはず。


 なので秘境を見つけたと言ったところで、彼女に信頼してもらえるかは五分五分だ。なら命令という形で秘境に向かわせて、こうして事後に言った方が信頼を得られると思ったし、捻くれたヴィクトルらしい行動とも言えるだろう。


「秘境を見つけたなんて言っても信じないだろう? 言うよりも直接見てもらった方が信じてもらえると思ったんだ。それに、僕が錬金術を始めたという事実を込みで、聡いローザなら行動をしてくれると思っていたからね」


「そ、それは……私のことを信頼してくれていたということなのですか?」


「うん。試すような真似になったのはすまないと思っている。ごめん。でも、こうする以外に方法が見つからなかったんだ」


 僕はそう言って頭を下げる。


 僕が錬金術を勉強をしつつ、ローザからの信頼を得て、錬金術の素材になるようなアイテムを調達する。この三つを同時に達成できそうな手段がこれしか思い浮かばなかった。


 そんな風に頭を下げていると、ローザは僕の両肩にポンと手を置いてくれる。


「お顔を上げてくださいヴィクトル様。このローザ。ヴィクトル様に拾われて、命を救われてから貴方への忠誠を忘れたことは一度もありません。私は嬉しいですよ。ようやく、ヴィクトル様が私を信用を超えて、信頼してくださったのですから」


「そう言ってくれると助かるよローザ」


「……ですから今度からはもっと直接的に頼ってくださいね。あそこに秘境があると知っていたら、もっと調達に適した装備をしていったんですから。今回は少量ですが、これを納めください」


 ローザは二コリと笑って、僕の前に数々の素材を置く。


 確かに遠まわしになってしまったせいで、素材の数こそ少量だが、十分すぎるくらいのアイテムが揃っていた。


「よし……っ! ありがとうローザ。これなら何とか目的の一つは解決できそうだ」


「お役に立てたのなら光栄です! このローザ。働いた甲斐があったというものです!」


 ローザは胸に手を当てて、嬉しそうに微笑む。


 僕はそんなローザを見た後、図書室から引っ張り出した錬金術の魔法書を開く。ソディアック家に錬金術を専門にしているような人がいなくて良かった。錬金術系の魔法書には困らない。


「ヴィクトル様、一体何を作るつもりなのでしょうか……? こんな貴重な素材ならなんでも作れそうな気がしますが」


「取り合えずは試作さ。彼女の身体を治すことは出来なくても進行を遅らせたり、症状を軽くするような魔法薬が作れるかもしれない」


「ヴィクトル様……、それはテレシア様のお体を治すような薬を? ですがどんな魔法薬でも効果はなかったと言われているんですよ?」


「どこまで出来るかやってみる価値はあるさ。だから……」


 僕は魔法書から顔を上げて、ローザを見る。ローザは僕の真っすぐな視線に首を傾げた。


「ローザには手伝ってほしいことがあるんだ。協力してくれるかい?」


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