第22話 美少女のトラブルと嘘

 PVPイベントが終了してから2日が経った。今日は月曜日である。

 学校が終わり、放課後になる。俺はいつものように帰宅したかったのだが、日直である。仕事を投げ出す訳にはいかなかったので、いつもより帰りが遅くなった。




 帰り道、いつもより遅くなったことで見える景色が違って見えた。夕陽が外を照らしていた。


「うん? アリサさん?」


 俺が視線を向けた先は裏路地である。そこでアリサさんが男性に近付かれていた。見る限りナンパであり、アリサさんが嫌がっているのが分かる。

 それを見ているのは俺以外にもいたが、助けにいこうとする人はいなかった。


 今の俺はチサキみたいに強い武器も動きも出来ない。……だけど見過ごすのは嫌なので助けにいこう。勇気は振り絞った。理由は、可愛い美少女を守りたかったからで良いか。


 俺はアリサさんとナンパ男の間に割って入った。


「は? 誰だよお前」


「星野君?」


「これ以上彼女と関わらないで下さい。嫌がってます」


 俺は男にアリサさんが嫌がっていることを伝えた。しかし、男は不愉快そうに表情を歪ませる。


「邪魔すんなよ。俺はただ遊びに誘っただけだ」


「それが嫌なんです。嫌がっていることが分からないんですか」


「うるせえな! お前には関係ないだろ!」


 俺はクラスメイトで、チサキだから関係はある。だけどそれで男は引かないだろう。

 アリサさんには悪いと思っているが、言うしかない。


「関係はある」


「あぁ?」


「俺は彼女の彼氏です! 彼女に触れたら許しません!」


「!?」


 特大な嘘を言った。男は動揺しているようだ。追い打ちをかけよう。


「もう大丈夫だから。俺が守るから」


 俺はアリサさんに手を伸ばす。手を繋いで恋人であることをアピールする作戦だ。


「はい!」


 アリサさんは腕に抱き着いて来た。しかも胸が当たっているのでとても柔らかい。

 なんか思ってたのと違うし、胸が当たって正気を保てるかどうか。それに距離も近いから良い匂いがする。


「なっ、なっ!」


 男はかなり動揺していた。俺も心の中で動揺しているが、表情には出さないようにポーカーフェイスだ。


「消えて下さい」


 男は凄い勢いで立ち去った。

 男が立ち去ったのを見て、アリサさんは俺の腕から離れた。なんとか耐え切ったか。


「……取り合えず、場所を変えませんか?」


「……はい」


 アリサさんの頬は赤かった。恥ずかしかったのかな。後で謝ろう。




 俺とアリサさんは近くにあった公園に移動した。アリサさんはベンチに座る。俺は座らず、頭を下げて謝った。


「ごめんなさい!」


「そ、そんな。頭を上げて下さい」


 俺はゆっくりと頭を上げた。


「俺、咄嗟にあんな嘘を言って。しかもそれに付き合わせてしまって……」


「私はそれで助けられました。……ちょっと恥ずかしかったですが、助けて頂いたんです。ありがとうございます」


「……気にしないで下さい。俺は見ているのが嫌だっただけですから」


 見過ごすのが嫌だっただけなんだ。


「その……あの時の星野君、かっこよかったです」


「そうですか? 俺はアリサさんが無事で良かったです」


 俺の言葉の後、アリサさんは頬を赤くした。大丈夫かな。熱でもあるかな。


「……星野君」


「はい」


「千尋君って呼んでも良いですか?」


「……はい」


 俺は思わず「はい」と答えてしまった。美少女から名前で呼ばれるんだぞ。少しドキドキしている自分がいた。

 アリサさんは微笑んでいた。ベンチを立つ。


「千尋君、また明日、学校で会いましょう」


「は、はい」


「またね」


「……じゃあね」


 アリサさんは去って行く。俺は暫くベンチの前から動けなかった。

 その後、俺も家に帰るのであった。



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