第16話 服屋とバレ
俺はチサキという少女になって、VRMMOをそれなりに楽しんできた。エリスと一緒にいる日々はとても楽しい。
だからこそ、少し欲があった。自分を、チサキを輝かせてみたいって。
――つまり、おしゃれがしたくなった。
俺は服屋が何処にあるのか、ワンスターのプレイヤー達に話を聞いた。プレイヤー達は揃って同じ場所を言い、場所を教えてくれた。
そして今、俺はその服屋の出入り口前に立っていた。
「ここね」
『ブティックペペ』。これが服屋の名前である。
「早速入ってみましょうか」
俺はブティックペペの両扉を開けた。中は服が沢山飾ってあった。まぁ服屋だからな。
「いらっしゃいませ……っ!!」
「っ!?」
俺は驚いてしまった。ピンク色の短髪に、ピンク色の唇をした男性プレイヤーがそこにいたのだ。どう見てもオカマである。でも、不思議と着ている制服が似合っていた。
そして、男性の方は――
「美少女!!」
「ひゃいっ!?」
男性は俺の方に近付いて、両肩を掴んだ。俺は驚いて情けない声を出してしまった。男性は興奮している風に見える。
何かしたいが、その前に男性は俺のフードを取って、微笑んだ。
「ふふっ、可愛いわね」
「そ、そろそろ良いでしょうか?」
「あっ、ごめんなさいね。つい可愛かったから」
男性は一言謝罪を入れた。驚いたけど、特に何もされていないし、する気もなかっただろう、多分。
「いいえ、大丈夫です。やっぱり可愛いですか?」
「当たり前じゃない。誰が見ても可愛いわよ」
俺は顔で何か言われたことが無いので、嬉しい気持ちがある。
「自己紹介が遅れたわね。私はペペノン。この店の店長よ」
「チサキです。よろしくお願いします」
「よろしくね。チサキちゃんは服を選びに来たの? それともオーダーメイドかしら?」
えっ? オーダーメイド出来るの!?
俺はここに来てから驚かされてばかりだ。オーダーメイドにした方が良いかもしれない。女性の服、選んだこと無いから。
「それなら、オーダーメイドでお願いします」
「ふふっ、了解よ。ちなみに選ぶより値段が高いから注意してね」
「は、はい」
「それじゃあ、個室に行きましょう」
俺とペペノンさんは個室まで入っていった。個室は広くないけど、狭くもない普通の空間だった。机とソファーが置かれていた。俺とペペノンさんはソファーに座った。
「チサキちゃんはどんな服が良いのかしら?」
「どんな服、ですか」
おしゃれしたいとは思っていたけど、どんな服にしようか全然決めていなかった。そうだな、アバターに合う服なら何でも良いんだよな。
「私は、よく分からないです。私自身に合う服があれば良いと思っています」
「おしゃれとか、したこと無いのかしら?」
「恥ずかしいけど、その通りです」
「なら、私と一緒に決めましょう」
ペペノンさんが一緒に決めてくれると提案してくれた。俺としては嬉しい限りである。
「良いんですか?」
「任せてなさい!」
腕を上げて答えてくれる。それならお願いしよう。
「お願いします」
「良いわよ。それじゃあ立ってくれるかしら? 後フードを脱いでくれると助かるわ」
「分かりました」
俺は指示通りに動いた。ペペノンさんは真剣な表情で俺を見てくれていた。本気なんだと思った。
「武器を見せてくれる?」
「はい」
俺はレッドサイズを出す。人前で出すのは初めてだった。
ペペノンさんは驚いた様子であったが、すぐに真剣な表情になった。
数分しただろうか。ペペノンさんは目を閉じてうんうんと頷く。
「ゴスロリね!」
「ゴスロリですか?」
「ええ。とっても可愛らしい服で、貴女に合うと思うわ」
ゴスロリか。きっとペペノンさんが選んでくれた服だから。俺はペペノンさんを信じる。
「それで、お願いします」
「分かったわ、それじゃあ作業してくるからちょっと待ってて頂戴」
そう言ってペペノンさんは個室を出ていった。
数分後に戻ってきた。まだ服は出来ていないのか持っておらず、代わりに紅茶を持って来てくれた。
「ありがとうございます」
「良いの、気にしないで。私も聞きたいことあったから」
「聞きたいことですか?」
なんだろう。
「貴方、男なんでしょ」
「っ!? ど、どうして」
なんでバレたんだ。俺はミスらしいミスはしていない筈だ。何よりここでバレたらエリスになんて言われるか分からない。
「座り方よ。チサキちゃん、足開いているから。それに私の経験と勘が、貴方は男だって言っているのよ」
どうやら誤魔化しは効かないらしい。
「チサキ?」
小声でエリスが呟いてくる。……少し怖いけど、本当のことを言おう。
「私……俺は、男です」
「そうなのね」
「気持ち悪いですよね」
「そんなことないわ」
ペペノンさんは否定してくれた。
「ここではチサキちゃんなんだから、気にすること無いと思うわ。今、言ったのもこのままじゃバレちゃうわよって忠告したかっただけなの。……余計なお世話だったわ、ごめんなさい」
「いいえ、気にしないで下さい! 俺のことを想ってくれたこと、ありがとうございます。……ただ、今は2人きりにして欲しいです」
俺はエリスがいる方向に視線を向けた。ペペノンさんは俺と一緒にエリスがいる場所に視線を向けた。
「……分かったわ。服、出来上がったら持ってくるわね」
ペペノンさんは気を遣って部屋から出てくれた。ここからは俺とエリスの話し合いである。
嫌われたくないな。
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