第14話 久しぶりの学校で

 冬休みが終わり多少忙しい日々を送っていた。冬休みが終わってすぐに高校でテストがあった。だから赤点を免れる為に勉強する必要があったのだ。


 インフィニティオンラインには毎日ログインしている。エリスに顔を見せるくらいの時間はあった。それと、職業が『見習い』から『大鎌使い』に変わった。


 テストを終えればインフィニティオンラインにログインしてたっぷり楽しんだ。仮想であれど身体を動かして心がスッキリとした気持ちになったことを覚えている。




 今日は月曜日。俺は制服姿で学校に登校する。教室に入って挨拶を済ませると窓側の自分の席に座った。

 周りでは立ち話をしているクラスメイトがいる。残念ながら俺にはそのようなクラスメイトはいない。話し掛けられたら流石に会話するけど、必要のない会話はしていない。


 俺はふとアリサさんがいる方へ視線を移す。金色の髪はよく目立っている。周りには数人の女子生徒がいた。女友達だろう。

 冬休みが終わって始業式の日もアリサさんを見ていた。本当にインフィニティオンラインと変わらない。自分の正体がバレることが怖くないのだろうか。俺は怖いぞ。少女のアバターが実は男だった、とか、はっきり嫌われる未来が視える。


「っ!」


 うわっ!? なんで急にこっちを見てきたんだ。慌てて顔を窓に逸らす。

 アリサさんがこちらを見てきた。視線に気付いたのか?


「どうしたのアリサちゃん」


「……ううん。なんでもないよ」


 うわぁ、これは勘付かれたか? でも行動を起こす気配はない。向こうが行動を起こさないなら俺も動く意味は無い。

 数分もすれば担任の先生が来て、朝のHRが始まった。




 授業を受け、昼休憩の時間になる。俺は弁当を持って屋上に向かった。日光に照らされた屋上には細長いベンチがある。そこに座って昼食を食べる。

 風や日の光が気持ち良くて気に入っている場所だ。人は俺以外来ないからぼっちの自分がいても可笑しくはない。静かに食べるからな。


 ただ1つだけ違った。それは俺にとっては致命的だ。ほんとどうして……


「千尋君はいつもここで食べているんですね。確かにここは気持ち良いから私も気に入りそうです。いつもより弁当が美味しい」


 風が吹く度長い金髪が丁度良いくらいに揺れる。髪から匂う香りが俺の鼻に着く。その度に心臓の鼓動が速くなっている気がする。昼食どころではない。

 制服姿のアリサさんが隣に座っていた。


「それは何より、です」


 綺麗な顔立ちは眩しく見えて弁当を見る。だが目に留まるのは弁当を置いている両足。行儀よく両足を閉じている。何より白い肌がとても綺麗だった。

 逃げ場所が無い。何処を見ても美少女のオーラに負けてしまう。美少女は何処を見ても美少女(?)なのだ。


 アリサさんは箸を止めずに弁当を食べていく。その動きすら見惚れてしまいそう。異性に対しての耐性の無さが原因なのか。

 俺は急いで食べ物を詰め込んでいく。時間をかけ過ぎると食休みの時間が無くなるからな。

 最後におにぎりを食らいつく。


 俺とアリサさんは弁当を食べ終えた。


「千尋君は朝、私を見ていましたか?」


「そんなことないですよ。気の所為です」


 咄嗟に嘘を付いてしまったし、アリサさんの質問も突然だった。やっぱり気付かれていたか。嘘を付いてしまった以上は撤回は出来ない。


「私の勘違いですか。……すみません」


「いえいえ」


 どうやら勘違いで納得してくれる様子だ。非常に助かった。罪悪感もあるけど。

 少し静かになる。鳥の鳴き声が聞こえてきた。


「話をしませんか?」


「いや、俺から話すことは特に……」


 正直今すぐこの場所を離れたい。相手が凄くて何も浮かんでこない。……だけど確認するべきことはある。


「ありました。アリサさんはゲームやるんですか?」


 そうだ。アリサさんに非常に似ていて名前も同じだけどまだ分からない。


「嗚呼、私もやっています。インフィニティオンラインっていうVRゲームをやっているんです」


 そうなんだ。……インフィニティオンラインで会ったのは渡辺アリサさんでした。

 これからはアリサさんだと分かって行動と会話が出来る。


「千尋君はゲームのやったりするのですか? インフィニティオンラインとか」


「やってますよ」


「そうなのですね。もしかしたら会えるかもしれません」


「流石に身バレだから言わないですけどね」


「そ、そういうものなのですね」


 うん、そうだよ。アリサさんがインフィニティオンラインをプレイしている言質は取れた。


 正直に打ち明けると嫌われる、気がする。アリサさんは、どうなんだろうな。俺が少女のアバターでプレイしていると知ったら。


「そろそろ時間になります。教室に戻りますね」


「嗚呼、私もそうします。……最初は疑ったりしてごめんなさい」


「気にしないで下さい。俺も気を付けます」

 

「ありがとう、千尋君」


 何も悪くないアリサさんを見て更に罪悪感がする。それを噛み締めて表情には出さない。


 俺とアリサさんは教室に戻った。戻る際はアリサさんを先にして同時に入らないようにする。その対応に彼女は困惑していたが、気にしないで欲しいかな。


 その後テストが返却された。赤点ではないが、平均的な点数だった。

 赤点ではないので、心置きなくインフィニティオンラインが出来る。帰ったら早速プレイするとしよう。




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