第12話 チサキの本気

 道はトンネルのように続いていく。左右の松明の火が風で揺れる。その風は冷たかった。


「ふう……」


「大丈夫? フードの中にでも入る?」


「ううん。これくらいなら大丈夫だよ」


 エリスは風が吹いた時両手で腕を擦る。寒いと思って声をかけたけど大丈夫らしい。

 それにしてもこの道は何処に続いているんだ。妙に風が冷たい気がする。


 俺はダンジョンの中を進み続けた。数分後、俺とエリスは開けた場所に着いた。

 さっきみたいなコロシアムじゃない。石で覆われた空間。輝く石が光源になって空間を照らしていた。


「この石は?」


「『魔石』だね。ここみたいな洞窟にある鉱石だよ」


「なるほど」


 エリスが説明してくれた。『魔石』が光源だからだろうか、この空間が幻想的に見える。魔石は青緑色に輝いていた。

 でも感心している場合じゃない。俺の直感が何かが起こると言っている。


「っ!?」


「なに!?」


 目の前に魔法陣が現れる。その魔法陣は光り地面に稲妻が走った。強烈な輝きが放たれる。


「こいつが、ボスか」


 ボロボロの黒い布を被ったスケルトンがいた。持っている武器は、大鎌。

 まるで死神が立っているようだ。


「レベルは……30」


 いつも思うが俺格上と戦う機会多過ぎないか? レベル15の俺とレベル30のボスモンスター。倍離れている。


「ケケケ」


 ボスモンスターが笑う。酷く歪んだ笑みを見せ付けてきた。


「エリス、下がってて」


「チサキ、頑張って!」


「勿論」


 エリスは上空に飛んだ。あそこなら俺とボスの戦闘には巻き込まれない。

 俺は大鎌を構える。ボスも大鎌を構えた。


「【身体強化】【エンチャント(闇)】」


 大鎌に黒いオーラを纏わせた。これで準備は完了。この状態で何処までいけるか。


 俺とボスは睨み合う。冷たい風が吹いた。風が止むと、俺とボスは駆け出し大鎌を振った。

 二振りの刃が激突する。激しい火花が飛び散る。今の【身体強化】と【エンチャント(闇)】はレベル2! 力勝負では、スキルを使っている俺が有利だ!


「ッ!」


「くっ!」


 俺が大鎌を振り下ろす前に押し負けることを悟ったのかボスが一歩引いた。それでもダメージは多かった。多かった筈なのにHPはまだまだ余裕がある。


「HPが多いのか、レベル差が激しいからなのか」


 恐らくどちらもだろう。それでもこれはクリティカルのダメージじゃない。攻め続ければ勝機はある。


 俺は下がったボスに近付く。大鎌を振り下ろしたがボスも大鎌で防御する。今度は力押しせず一度引いて、ボスの後ろに回り込み大鎌で攻撃した。


「ゲアアアア!!」


「クリティカル!」


 この一撃はクリティカルで多く削ることが出来た。俺は距離を取ってボスの行動を見る。


 ボスは俺に近付いた。大鎌を振り下ろしてくる。俺は大鎌で受け止める。刃がぶつかり火花が散る。

 俺は押し返し、返しの一撃を喰らわせた。ボスは攻撃を受けた後に下がる。


「逃がさない!」


 俺は一瞬でボスの背後を取る。なるほど。防御とHPはあるが、攻撃と素早さなら今の俺に分があるらしい。

 大鎌を振り下ろしダメージを与える。ボスはすぐに前進した。


 俺とボスが向き合い、俺が攻める。ボスは大鎌を振り下ろすことを前提に受け止める姿勢に入った。

 だけど俺は大鎌を振り下ろすのではなく振り上げた。俺の大鎌がボスの大鎌を引っ掛けて、振り上げたのと同時にボスの


 身体ががら空きになった。防御するすべはない。

 俺は大鎌で斬撃を交差させる。赤いラインがボスの身体に入った。


「ッ!? ケッ!」


 ボスが下がる。今の斬撃はクリティカルであった為HPを半分まで減らすことが出来た。このまま攻めれば――


「ケケケ」


 笑みを零した。HPが半分まで減っているのに。まだ、何かある。


 俺は目を見開いた。何故ならボスが分身したからだ。


「分身した!?」


「レベル30が3体か」


 ボスは分身含めて3体。レベル30が2体増えたのは単純にきついかもしれない。

 結局やってみなきゃ分からないか。


 ボスが向かってきた。分身を左右に散らばせ俺を囲む。3方向から駆け出した。

 正面のボスを大鎌で押し返す。次に右から来た攻撃は避けて左は受け止める。がここでボスの攻撃は俺に通る。


「この!」


 分身が厄介だ。私の身体や腕、武器は1つに対してボスは3。

 こうして考えている間もボスの攻撃を凌ぐ。ボスの攻撃を受け止め躱す。がボスの攻撃が腹を切った。


「くっ」


 流石に後退する。俺の腹には赤いラインが刻まれていた。

 やっぱ防御に振ってない分ダメージが大きい。レベル差もあって2回当たっただけなのにHPはもう半分。あと1回か良くて2回。


「チサキ!」


 俺がピンチだからかエリスが心配そうな表情をして声を上げる。心配をかけてしまった。


「大丈夫よ。これくらい、乗り越えられる」


 そうだ。これくらい全然なんてことない。それに。魔物と戦うことが、強い相手と戦うのが楽しい。闘争心に火が付いたみたいだ。


の全力見せてやる」


 つい口調が崩れる。小声で言っているから聞こえないでほしい。


「【エンチャント(雷)】」


 俺の大鎌の刃に黄色い稲妻が走る。スキル【エンチャント(雷)】で大鎌に雷属性を付与する。

 そのままボスに近付いて、1体を切り裂いた。大きく口を開くボス。もう一度大鎌を振るう。横に振った一撃で胴体を真っ二つにして、ボスの分身が消えた。


 様子を見ていた残りの2体はすぐに撤退。さてどっちにしようか。せっかくだしエンチャント変えるか。


「【エンチャント(風)】」


 今度は大鎌に風が纏う。俺は大鎌を振る。近付いていないから大鎌の刃は届かない。ただし飛んだ風の刃はボスに向かっていった。

 ボスはその攻撃を避ける。風の刃は壁に当たり刻まれた。

 まっ、背後に俺がいたら意味ないけどな。


「はああああ!!」


 風を纏った大鎌を縦横無尽に振るう。黒い布はボロボロになり手数で押されたボスの分身は消滅した。


 ボスが確定した。分身は出されると嫌だから次で決めよう。俺のとっておきだ。


「【ツインエンチャント】闇、炎!」


 大鎌に黒炎が纏う。【ツインエンチャント】は2つの属性を付与するスキルだ。【エンチャント】を2つ入手した時点で使用可能だったけど使う機会が無かった。

 これが俺の切り札だ!

 俺はボスに近付く。ボスは攻撃を仕掛けてくると考え自身の大鎌で防御しようとする。


「また、引っかかったな」


 俺の大鎌がボスの大鎌を引っ掛け、【身体強化】の勢いのまま振り上げた。


「す、凄い! 大鎌を振り上げてボスの大鎌を離れさせる。それだけじゃない。【ツインエンチャント】のダメージを与えている!」


 解説ありがとうエリス。実際その通りでボスの大鎌を外した。それに刃がボスに当たり黒炎を含めたダメージを与えた。しかもクリティカル。一気に削り取った。


 俺は大鎌を縦に振るう。黒炎がボスに切り刻まれる。横に振って同じく黒炎が切り刻まれた。十字の黒炎が刻まれる。


「……少々派手かもしれないわね」


 十字に黒炎が噴き出し、ボスのHPは0になる。そのまま黒炎に燃やし尽くされ地面に倒れて消滅した。




 俺はダンジョンのボスを倒した。レベルが上がり23となった。スキルのレベルも上がった。


「チサキー!」


「言ったでしょ。大丈夫だって」


「チサキは凄いよ! 【ツインエンチャント】を使えるなんて!」


「【ツインエンチャント】って誰もが使えるんじゃないの?」


「そんなことない! 【ツインエンチャント】を使えるのは限られているんだ」


「……そうなのね。私って案外凄いのかも」


 エリスも笑顔で戻ってきた。妖精の笑顔はとても可愛かった。

 しかし複雑だ。確かに【ツインエンチャント】はエクストラスキルというスキルの上位互換に分類される。しかし俺は【エンチャント】を2つ取っただけで入手出来た。……もう少し入手難易度上げましょう、運営さん。

 褒められたのは素直に嬉しいと思いたい。


 さてボスの倒れていた場所には1つの宝箱があった。俺は宝箱に近付いて開ける。

 そこには大鎌が入っていた。手に取ってみると大鎌の表記が出る。


【レッドサイズ】

 STR〈+60〉

 クリティカル威力up

 マジックドレイン


【レッドサイズを装備しますか?】


【Yes】


 俺はレッドサイズを見る。赤い大鎌で刃の部分は周りが黒で装飾されていた。

 これが大鎌のレア武器か。赤が主体の大鎌、かっこいいな! 頑張って良かったわ。


「これからよろしくね。レッドサイズ」


 この先はレッドサイズを主に装備しよう。初期装備も今までありがとうな。


【ユニークスキル『死神』を獲得しました】


「……えっ?」


 俺は驚いてしまった。いや無理もない。だって、ユニークスキルだぞ? 低確率で出るようなスキルが自分に来るとは思わないだろう。

 えっ? 夢じゃないよな。


【死神】

 ユニークスキル。

 クリティカル発生率〈+50%〉

 クリティカル威力up


 いや、やばいことしか書いてない。ここに書いていることが本当なら確定でクリティカル出せるぞ。

 だって俺、LUK50だから。


「なんか、自分が思っていた以上に強くなったな」


「どうしたのチサキ?」


「ユニークスキル手に入れたわ」


「えっ!?」


 エリスも驚いた表情をする。その気持ち、分かる気がした。


「……帰りましょう。気にしても仕方ないんだから」


「そうだね」


 俺はエリスと共にダンジョンから抜ける為の魔法陣を踏んだ。すると目の前が光に包まれ、気付いたらダンジョンの入り口にいた。

 レア武器とユニークスキルを手に入れた俺に2週目は存在しなかった。まぁ2週目出来たらやりたかったけど仕方ない。


 俺とエリスはワンスターへと戻って行った。




 ――――――――――――――――――――――――

チサキ


Lv23

職業 大鎌使い

HP 165/165

MP 135/135

SP 495/495

STR 20〈+60〉

DEX 20

VIT  7

AGI 30

INT 6

MND 7

LUK 50


武器

【レッドサイズ】

 クリティカル威力up

 マジックドレイン


スキル

【身体強化】Lv3

【エンチャント(闇)】Lv3

【エンチャント(火)】Lv2

【エンチャント(雷)】Lv2

【エンチャント(風)】Lv2


エキストラスキル

【ツインエンチャント】Lv2


ユニークスキル

【死神】

 クリティカル発生率〈+50%〉

 クリティカル威力up





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