第5話 初ログインが終わって
渡辺アリサ。俺と同じ高校に通い、クラスも一緒。金髪で整った容姿。出ている所は出てる、スタイルが良い。クラスの学級委員、生徒会にも所属していた。
成績も優秀で部活にも所属している。部活は剣道部。まさに文武両道。あらゆる面で完璧な美少女だ。
そんな彼女とまさかインフィニティオンラインで出会うことになるとは。しかも現実と容姿がほぼ変わっていない。アバター名もそのまま『アリサ』だ。余程自分の容姿に自信があるのか?
「さっきからどうしたのですか? 私に身の覚えが?」
「そっくりなのよ。私が知っている人にね」
クラスが一緒の同級生です、とか言えない。今の俺女の子だし。そもそもクラス内で目立たない方だから認知されていない可能性。何故クラスで人気な美少女が隣にいるのか不思議なくらいだ。
あれから俺とアリサさんと助けた少女と一緒に行動した。少女とはワンスターに着いて別れた。
俺が冒険者協会に向かうことを告げたらアリサさんは付いて来た。気付かれていないと思うが胸がドキドキする。美少女と歩くだけで緊張した。
「チサキの職業はなんです?」
「見習い大鎌使い。アリサさんは、剣士?」
「凄い。当たりです」
職業が剣士なのは納得。現実で剣道部に所属しているから。無論、剣道部とは違い持っているのは直剣。どういう戦い方をするのか興味がある。
「チサキは凄い。倍以上あるレベル相手に戦うなんて」
「アリサさんなら私よりも早く倒せたでしょう」
「そうかもしれませんね」
あっさり認めた。結構自信あるんだな。俺も大鎌使いとして頑張らないとな。
アリサさんと話をして数分後、冒険者協会に到着した。早速俺とアリサさんは冒険者協会の中に入った。そのまま俺は受付嬢の所に向かう。アリサさんは後ろから見守るらしい。用事があるとかではないのね。
「チサキ様、おかえりなさい」
「ただいま。依頼を達成したわ」
「分かりました。これが報酬です」
受付嬢が袋を出してきた。古い中世にありそうな袋だった。ファンタジーでよく見かける。物が入っており報酬の硬貨だろう。俺は袋を受け取った。
【ミッションクリア】
「うおっ」
俺の目の前に青色の画面が出てきた。その画面にはミッションクリアと記載されている。報酬を受け取るまでがミッションだったのだろう。タップすると消えた。
なんか新しいミッションというのが出てきた。何々?
【宿屋に泊まろう】
宿屋か。確か冒険者協会に対面している建物が宿屋だった気がする。何かする上で拠点は必要だ。ミッションである以上やって損はないだろう。
「ありがとう。また来るわ」
俺は隠れている美少女顔で受付嬢に微笑む。微笑んだのが見えたのか受付嬢も微笑んでくれた。
俺は振り返る。アリサさんはここにいた男性と話をしていた。男性は何か驚いた顔をしている。
話を終えるとアリサさんと男性が視線を向けてきた。男性のプレイヤーは何故そこまで驚いた顔をしているんだ?
俺は冒険者協会の扉を開けて出る。アリサさんも出てきた。
「またのお越しをお待ちしております」
受付嬢の言葉を聞いて、静かに扉を閉めた。
俺とアリサさんは冒険者協会を出た。
「私はここまでです」
「ポーションは助かった。ありがとう」
「気にしないで下さい」
どうやらアリサさんとはここでお別れだ。お礼として何か渡したかったが今日始めた俺には無理だ。不器用に感謝の言葉を述べることにした。
「これからも頑張りましょう、チサキ」
「アリサさんも頑張って」
「はい!」
俺とアリサさんは別れる。アリサさんは歩きながら腕を振ってくれた。俺は手を振る。
『アリサ』が本名なのか尋ねないことにする。ここは現実とは違う世界だ。それに、俺は千尋だけどこの世界では『チサキ』だから。アリサさんという知人が出来たくらいに思っておこう。
俺はアリサさんと別れて対面にある宿屋に入った。宿屋は冒険者協会よりも大きい構造をしている。中も当然冒険者協会より広かった。
俺は受付に向かい、男性の従業員に話し掛けた。
「すみません。ここで泊まりたいのですが」
「
異邦人? あぁ。ゲームプレイヤーのことだった。ここではゲームプレイヤーを『異邦人』と呼ぶ。ゲームプレイヤーしか出来ないことがあるから、この世界にいる者と来た者を区別する為の言葉みたいなもんだ。
「こちらが金額になります」
従業員は金額を書類に記載した。俺はその書類を見る。……うん、支払えるね。しかもこの金額、先程の依頼報酬で貰った金額と同じだ。ゲームの流れ的に納得する。
俺は空間から先程貰った袋を取り出して、硬貨を出す。従業員は硬貨を確認すると頷く。
「金額、確かにお受け取りました。こちらが鍵です」
俺は従業員から鍵を貰う。普通の鍵だが、部屋番号が書かれた物が無かった。ホテルとかだとぶら下がっているやつである。
「部屋は2階にあります。
便利だな。つまり鍵さえあれば部屋に入れる。
「ありがとうございます」
「いえいえ。心ゆくまでお使い込んで下さい」
「分かりました」
「本日は来て下さり、ありがとうございました」
俺は鍵を持って2階に向かう。2階には扉が左右両面にあった。俺は一通り奥まで向かう。扉はどれも同じ。上に小さい四角、下に横長の四角があった。
俺は一番奥の扉の前に立つ。鍵を鍵穴に入れた。すると上の四角には『D』、下の四角には『139』と表示される。これ、部屋番号か。鍵も大事にしないとな。
鍵を回して扉を開いた。部屋は必要な物以外置かれていない簡素な感じだ。クローゼットにベット、木材の机と椅子、照明があった。お手洗い場もある。
「普通の部屋だ。……よいしょ」
ベットに座る。ふかふかしていた。寝たら気持ち良さそうだ。
ここまで色々したな。キャラクタークリエイトのランダムで少女になった。大鎌を選んで戦った。どれだけ苦戦しても、終われば結構楽しかったと思える。
俺はメニューを開いた。メニューの出し方はゲームの説明書に書かれており、念じれば出る仕組みだった。
俺がログインしてから現実で1時間くらい経過していた。
夢中になると時間を気にしなくなるのは変わらないな。
「ここが頃合いか」
頃合いだと考えた俺はメニューからログアウトを押したのだった。
俺はゲームからログアウトして現実に戻ってくる。ヘッドギアを外し、丁寧にベットの上に置いた。そして鏡がある手洗い場に向かった。鏡に映っていた俺は……男だった。
「俺、だよな。俺だな」
黒髪、男性特有の声の低さ。これは間違いなく現実で、本来の俺だった。
逆に考えればインフィニティオンラインでは少女だったのか。リアルバレの心配はしなくて良いな。
「良かった……」
一安心する。現実まで性転換されていたらどうしようかと、空想だけで良かった。
一安心をした俺は部屋に戻り、スマホを持った。
インフィニティオンラインの攻略情報を見ようと思う。ずっと我慢していた。見るのが楽しみで仕方ない。ニヤニヤしてしまう。
「インフィニティオンライン、攻略っと」
早速検索すると攻略情報が載っているサイトが表示された。適当にタッチして情報を見た。モンスターの攻略、初心者向けの攻略など様々な情報があった。そこに武器の評価があり迷わずタッチ。武器の評価が記載されているページに移動した。
さてさて大鎌の評価は……低かった。
『格好いいとは思うが使いづらい』
『何もかも中途半端』
『大鎌を使うくらいなら他の武器を使った方が良い』
『大鎌上方修正はよ』
散々な評価が記載されている。殆どの人が使いづらいと評価していた。また大鎌の上方修正を望む意見も多かった。これじゃあ使い手はかなり少ないだろう。
実際使いづらかったから否定しない。恐らく本当のことを書いているのだろう。
だが! 俺の心は燃えていた。何故なら――
不遇武器で戦い続けるのってかっこいいからだ!!!
俺が大鎌を使いたいと思ったのはかっこいいから。そんな大鎌は不遇武器。ならば大鎌を使う自分はかっこいい筈だ。
馬鹿みたいに単純な理由。それでも俺は大鎌を使っていて楽しかった。楽しければそれで良いじゃないか。
「かっこいいし、使い続けてみよう」
俺は大鎌を使い続けることを決意した。
美少女大鎌使いの始まりだ。
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※加速世界とその説明を消しました。今作のVRMMOでは加速世界を採用しない設定となります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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