第2話 チュートリアル

『チュートリアルを開始します』


 俺が目にした景色は先程と違った。森の中だろうか。木々に囲まれた場所にいた。見上げれば青空の雲が少しある程度の天気だった。

 それにしても、なんか違和感あるな。


『それでは今の自身の姿を確認して下さい』


 ここに鏡が現れた。言葉通り容姿の確認だろう。どうなっているだろうか。俺的には、程々にかっこよく身バレしない程度が良いんだが。


 ――沈黙が流れた。驚いて言葉が詰まる。数十秒後くらいに俺は口を開いた。


「女の子に、なっている!?」


 黒髪の美少女が鏡には映っていた。髪型はポニーテール。白のリボンが巻かれている。服装は青のコスチュームにフード付きの黒いコート。靴は青のブーツだった。

 コスチュームに関してはゲームやアニメに出てくるような物だ。まさか自分がこんなことになるなんて。あっ、これゲームだったわ。

 気を取り直して鏡を見る。俺は持っていた。黒い大鎌を。


「いや、かっこいいな大鎌。……声も高い」


 大鎌を持つ少女というのは絵になるようで、かっこいいと思ってしまった。


 鏡を見て俺は表情を変えてみた。真顔になるとクール系の印象を持つ。瞳は水色だった。本当に整った顔で、綺麗だ。

 でも俺を参考にしたのかというくらいの美少女だ。現実の顔は何処にでもいる普通だから。


「結構目立つかもな。ちょうどフードあるし少しでも隠すか」


 俺はフードを被り鏡を見た。だいぶ顔は見にくいが、それでも美少女という点は隠しきれていない。

 本当に、どうしてこうなったのか。


「ランダムにしたのは俺だからな。……この姿じゃ、私、か」


 ある程度分かっていたことではある。分かった上でやったのだ。女性にならなければ良いと考えていたが甘かった。

 ならもう仕方ないと諦めた方が良い。インフィニティオンラインでは少女として頑張っていこう。


『それでは動作を確認して下さい』


 俺はそう言われて動作を確認する。大鎌を片手で持ち、持っていない手で握り拳を作る。握り拳から掌を広げる。また握り拳を作る。グーとパーを何回か繰り返した。

 その次は足を動かした。その場で足を上げたりジャンプした。髪とフードは揺れる。その後は歩いてみた。歩いている感覚は現実と同じだが、身長が低くなったから歩数が増えた気がする。その辺は慣れていくしかないか。

 最後に俺は勢い良く大鎌を横に振った。……片手で。


「あっ――」


 勢い良すぎたのか空を切るのと同時に大鎌は手から抜けてしまった。誰にも見られていないが普通に恥ずかしい。

 そんな気持ちと共に離れてしまった大鎌を手に取る。今度は両手で横に振る。空を切る音がした。


「本当にこの体を動かしているみたいだ。……体と言えば」


 不意に気になってしまう。歩いて鏡の前に再び立った。俺は自分の体をよく見た。主に……胸を。


「ほっ」


 胸を見て一安心した。言ってしまえば大きさだ。俺の胸は普通くらいでちょっと膨らんでいる程度。視線的な意味合いで気にすることはないだろう。……でも美少女だったわ。


「まっ、まあ胸を見られることはない筈」


 取り合えずは大丈夫だろう。こんなことをしている間にも時間は進んでいく。チュートリアルに戻ろう。

 美少女はいろんな意味でずるいなぁ。




 俺は大鎌を持って森の中を進んでいく。進んでいくと開いた場所に着いた。そこにいたのは、青い身体をした1匹のスライムだった。


『そこにいるスライムを倒して下さい』


 なるほどチュートリアル戦だ。俺も大鎌で戦いたかった。何処までやれるか試してみるか。


「やっ!」


 俺は大鎌を振るう。が当たらない。どうやら距離が足らず刃がスライムに届かなかったようだ。

 俺はもう一度大鎌を振るった。今度は距離を間違えてスライムを越えてしまった。


「当たらない」


 初めて使うから全然当たらない! どうすれば良いんだ!?

 その後は大鎌を縦に振り続けた。まるで鍬で畑を耕すように。それでも当たらない。普通に避けるのもある。

 そしてスライムは跳んで――


「ぶっ!?」


 顔面に直撃した。思わず後退る。視界に映るHPバーが減った。これがダメージを負う感覚か。

 このままじゃ負けるのは目に見えている。だが、何となくだが距離感が掴めている。次振るう時は当たる。絶対に当てる。


「やあっ!!」


 大鎌を縦に振るい、スライムを切り裂いた。


「よし!」


 思わず声に出るが初ダメージだ。スライムのHPバーが減った。あと2、3発入れれば0になる。

 スライムの反撃で跳んできた。俺は大鎌を両手で持ちスライムの攻撃を受け止める。そのまま押し返し、空中にいる内に大鎌を横に振った。回避は出来ずに切り裂かれるスライム。体力も残り僅かだ。


「っ!?」


 危なっ!? 顔に向かって触手伸ばしてきたか。この綺麗な顔を傷付けたくはないんだよな。


 俺は大鎌を連続して振るう。大鎌はスライムを切り裂く。HPが0になったのか、スライムは悲鳴を上げて爆発四散した。戦いに勝利したのだ。


「勝ったか。色々教わった、わ。ありがとう」


 慣れない少女の話し言葉で感謝する。

 大鎌を使ってみて分かったことだが使い辛かった。初めてもあるだろうがとても使い辛い。敵との距離感を把握しながら戦う必要がある。刃が当たらなければ意味が無いからだ。評価するとロマン武器かもしれないな、大鎌。


「極めれば何とかなるかな」


 それが初勝利で得たことだった。




『戦闘終了。武器は自分の意思によって消すことが出来ます』


 それを聞いて行動に移す。意思によって大鎌を消す為に言葉をかけた。


「お疲れ様」


 大鎌に労いの言葉をかける。使い辛かったとはいえ勝てたのは大鎌があったからだ。言葉を口にすると共に戦闘は終わったと意識する。

 すると大鎌が消えた。


「意識によって消せるなら――出てきて」


 大鎌が出るように意識する。すると大鎌が出てきた。両手で持つ。

 こんな感じに出したり、消したり出来た。出すのは装備で、消すのは収納といった感じだろうか。便利だな。


「応じてくれてありがとう」


 そう言って大鎌を収納した。感覚はまだ掴めない。意思によってと簡単に言うが難しい。だから言葉を使った。


 それと俺はレベルアップした。レベルも1~2に上がったのだ。


『ステータスについて説明します。ステータスオープン、と言えばステータスが表示されます』


「ステータスオープン」


 指示通りに従うとステータスが記載されている画面が出てきた。ここでステータスを伸ばす。

 今回はプレイヤー共通の100ステータスポイントがある。これを好きな風に振ることが出来るのだ。それが自分のステータスになる。


 ステータスはHP(体力)、MP、(魔力)SP(スタミナ)、STR、DEX、VIT、AGI、INT、MND、LUKである。HP、MP、SPは種族ごとにレベルアップによって上がり方が違う。ステータスポイントで上げれるのはSTR、DEX、VIT、AGI、INT、MND、LUKである。


「うーん……」


 いざ振ろうとしたら悩む。バランス良く振るか、一点に特化してしまうか。一点に特化して、極振りというものであろうか。それをやってみたい気持ちはあるが、まだチュートリアルだ。でもチュートリアルだからこそ、ステータスのイベントは振らなければならなかった。

 俺は考えた。人生、運は大事だと。それはゲームの中でも変わらないのではないかと。


「運も実力の内なら」


 俺はLUKに50振った。LUKの効果は主にドロップ率が上がる。レアアイテムが手に入りやすくなるのだ。それとクリティカルが出やすくなる。

 序盤で上げる必要はないかもしれないが、後に上げるか分からない。100あるのなら、上げないかもしれないLUKに今の内に振っておこう。――俺は自らの直感を信じる。

 残りはバランス良く振り分けた。極振りでもない中途半端なステータスになってしまった。


「まだ始まったばかり、よ」


 自分に言い聞かせる。チュートリアルで躓くことはまずないだろう。……ないよね!? 少し不安だけど、それで躓くようなゲームではないと信じよう。


『最後に名前を入力して下さい』


 名前かぁ。俺、星乃ほしの千尋ちひろに近い名前が良いかな。しかもここでは少女だし。

 俺は考えて自分に近く、少女らしい名前を入力する。


……これが私の名前」


 中々良い名前じゃないか。シンプルで少女らしい名前だと思う。


『チサキ様。これにてチュートリアルは終了します』


 チュートリアルは終了。ここからが本当の意味でもスタートだ。


『この先を進めば森を出ます。更に進めば始まりの町があります。まずは始まりの町に行って、冒険者協会に行くことを推奨します』


「そうな、のね。ここまでありがとう」


『それが私の役目ですから』


 俺はここまでのことで感謝する。システムで当然だと思うが、それでも感謝は大切だ。


『チサキ様、インフィニティオンラインを楽しんで下さい』


「ああ、心の底から楽しむよ」


 声が聞こえなくなった。俺は森を抜ける為に歩き始めた。

 少し誤算があるけど、慣れてしまえば気にすることでもないかもな。


「少女らしい口調を意識しつつ、大鎌でかっこよくプレイする。それが目標かな」


 案外、少女として振舞うことに楽しさを覚えたりするかもしれない。当分先の話にはなるだろうけど。

 そんなことを考えていたら森を抜けた。広い草原があり、先には町らしきものが見える。あれが始まりの町だろう。


 俺は時間を確認する。入ってから1時間経っていた。


「取り敢えず冒険者協会に行くか」


 俺は心躍らせながら、始まりの町に向かって歩き始めた。




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