第3話 嫌悪

「もう嫌だ、もう嫌だよぅ……」


 トクン、トクンと心臓の音を聞くけれど、それでも私の心は落ち着かない。


 落ち着くどころか、止まることなく涙が溢れてきた。


 化け物に取り憑かれていることを知っていても、優しく友達になってくれた紗絵が。落ち込んでいる私を励ましてくれた紗絵が。


 私のせいで、今生死を彷徨っている。


 なんで私は人を不幸にするんだろう。なんで私は幸せになれないんだろう。


 そんなことを思うけれど、こんなことをしたって私の心は落ち着かない。


 心臓が嫌な風に、音を立てる。



「もう、死のう」



 これ以上誰かを傷つけるぐらいだったら。


 これ以上誰かを苦しめるぐらいだったら。


 もう、私が死のう。


 そうすれば誰も悲しまない。苦しまない。


 私はどこか悟りを開いた気持ちでそう思う。


 なんだ、始めからこうすれば良かったんだ……



 なんで今まで気づかなかったんだろう。


 きっと、自分の命が惜しかったんだろうな。だから、こんな簡単なことも考えられなかった。


 私は自分の部屋の窓を開け、二階から飛び降りようとする。



 ごめんね、お父さん。最後まで迷惑をかけて。


 育ててくれて、ありがとう。



 そう思って、飛び降りようとする。


 すると――



「なにをしてるんだ美琴!!」


 急にお父さんが後ろから走って来て、私を抱きしめて倒れた。


 私は泣きながらも、その腕から離れようともがく。


「離してッ! もう嫌なのッ!」


 そう言って暴れるけれど、お父さんは私を固く抱きしめて離そうとしてくれない。


 そして、声を震わせて言った。


「頼むから、私を置いていかないでくれ美琴」


 その言葉を聞いて、私はハッとする。


 お父さんの顔を見てみると、その目から涙が流れていた。


「頼むから、落ち着いてくれ」


 そう泣きながら言われて、私は少しだけ冷静になる。


 そしてお父さんを悲しませてしまったことに罪悪感を抱きながら、声を上げて泣いた。




 ◇◇◇




 私はお父さんに全部を説明した。


 化け物に取り憑かれていること、そのせいで周りが傷ついていること、大の親友が交通事故にあってしまったことだ。


「きっと、きっと私がお母さんにわがままを言ったから……私が、お母さんを気づかってあげられなかったから……」


 これはきっと、私への罰なんだろう。


 自分を愛してくれた、母親を苦しめた罰。


 そうお父さんに言うと、急に声を荒げた。


「違う!!」


 その言葉に私はビックリとする。今までお父さんに怒鳴られたことなどなかったからだ。


「………来なさい、美琴」


 そう言ってお父さんは私の部屋を出る。私は驚きつつも、その背中についていった。


 車に乗り、道路を走る。


 ぼんやりとしながら外を眺めていると、お寺についた。


 なんでお寺に来たんだろう……あの化け物を祓うためかな?


 そう思うけど、どうやら違うみたいだ。


 お父さんはお寺の敷地に入ると、迷うことなく墓地を歩いていく。


 すると、とあるお墓が私の目に入った。




「――――えっ?」




 そのお墓には、『近衛美晴このえみはる』と書かれてあった。



「お母さん………?」


 


 

 

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