第2話 学校
朝から憂鬱な気持ちで学校に行く。
周りから嫌な視線を感じながらも、私は足早に歩いていく。
そして、ザワザワとしていた教室に入った。
皆が私に気づくと、さっきまで騒がしかった教室がシンッと静まり返る。
まるで化け物を見るような、悍ましい目で見てくる。
「おい、あいつだろ?」
「
「自分だけ逃げるとかまじでやべえよな……」
わざと聞こえているように言っているのかは分からないけど、そんな会話が私の耳に入ってくる。
小泉先輩とは、私が付き合っていた彼氏だ。
皆の人気者で、話しが面白ければ頼りにもなる。
そんな先輩から告白を受けた時は私も舞い上がってしまいそうになったほどだ。
「ほんっとうに最低よね。あんなに優しい先輩を置いていくなんてさ」
そんな声が聞こえてきて、私は心の中で弁明する。
置いていったんじゃない。アレは私にしか興味がないから、先輩から離したんだ。
あの怪物は私に近づく人達を攻撃する。
友達や彼氏、私の周りにいる人達全てだ。唯一攻撃しないのはお父さんと、あの怪物に取り憑かれていると知っても友達でいてくれる子の2人だけだった。
すると、1人だけ席に座っていた私の前に、1人の女の子が座る。
「聞いたよ美琴! 昨日小泉先輩が襲われたんだってね!」
アッハハ! と笑いながらそう言ってくる女の子は、私の親友、小山紗絵こやまさえだった。
「笑いごとじゃないよ……せっかく付き合えたのに、またすぐ別れることになるなんて…」
本当に最悪だ。悪い噂しか広まっていなかった私に声をかけてくれたのは小泉先輩だけだし、告白してくれたのも彼だけだ。
ようやく運命の人に出会えたと思ったのに、またこうなるなんて……
「でも、美琴はあの人に話していたんだよね? 幽霊のこと」
「……うん」
私は小泉先輩に告白された時、正直に自分は取り憑かれていると言った。
私と付き合ったせいで、もしかしたら先輩が傷ついてしまうとも。
けど彼はそれを聞いても、『俺は幽霊なんかに負けないし、そんなやつなんて気にしないッ! 俺と付き合ってくれ美琴! 俺がそいつからお前を守ってやる!』なんて言ってくれた。
まあそれが、昨日のざまなんだけどね……
「面白いよねえ。俺が美琴を守る! なんて言っておきながら、あいつのせいで襲われたなんて周りに言いふらすとか」
「仕方ないよ。先輩だってアイツを前にして取り乱しちゃったんだろうし、そもそもあいつに憑かれている私が悪いよ」
私が俯きながらそう言うと、紗絵は大きくため息をついた。
「事前に言っていたんだから美琴は悪くないよ。いい加減、その自分を責める性格を直しな」
そう言ってくれるだけでもかなり助かるけど、やっぱり私のせいで怖い思いをさせちゃったし、先輩には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
それに、できれば紗絵ともあまり話したくない。私のせいで紗絵まで傷つけちゃうかもしれないし、そうなった時に紗絵にまで皆から向けられている視線を向けられたらと思うと……私は耐えられる気がしない。
そう思っていると、紗絵は私の手を握って言った。
「もう気にしないの! いい?」
「………うん」
本当に私はいい友達を持ったなと思った。
皆んなから毛嫌いされている私を、紗絵は周囲の視線なんて気にせずに話しかけてきてくれた。
若干デリカシーがないというか、ズカズカと人の気持ちに入ってくるような子だけど、私はそんな紗絵が大好きだった。
嬉しくて涙が出そうになると、教室に先生が入ってくる。
「はい、席につけー」
そう言ってHRを始めようとしたため、私は指で目を擦った後、真っ直ぐ前を向いた。
◇◇◇
無事学校が終わり、家に帰ったころ。
私は課題を終わらせようと、机の横にバッグを下ろす。
すると、とある違和感に気付いた。
「あれ? あいつがいない……」
あいつとは、私に纏わりついている化け物のことだ。
いつも私の後ろをくっついてくるため、私はそいつができるだけ視界に入らないよう俯いて歩いている。
けど、今日は違った。
いつもは嫌でも視界の端に入るであろうあの化け物が、今日は一切入ってこなかった。
恐る恐る前を向いて辺りを見回してみても、あいつはいない。
疑問に思っていると、ピロンっとスマホの着信音が鳴った。
なにかと思って開いてみると、それは学校からのメールだった。
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緊急メール:
今日の放課後、2年3組の小山紗絵さんが帰宅中、自動車によって跳ねられました。小山さんはすでに病院に搬送されましたが、意識不明の重体とのことです。事故の現場が校門のすぐ前だったことと、生徒の心の問題から明日から学校は5日間休校になります。事故の原因はまだ分かっていないので、憶測をたてず、安全に注意して行動しましょう。
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「………え?」
紗絵が……事故?
呆然としていると、扉からやつが入ってきた。
いつもだったらすぐ目を逸らすのに、今日はその化け物の手に視線がいってしまう。
その化け物の手には、血がついていた。
誰のものかは分からないけど、私はその血の持ち主を察してしまった。
まさか、まさかまさかまさか………
想像したくもないことが私の頭の中を支配して、私は膝から崩れ落ちてしまう。
「その血は……誰の?」
そう聞くが、化け物は答えない。
ただ黙ったまま、扉の前に突っ立っているだけだった。
「だから、その血は誰のものなの!?」
私は恐怖心を忘れてそう問い詰める。
すると化け物は指についた血を使って、壁にこう書いた。
……サ………え………
その文字を見て、私は絶句する。
そしてうずくまり、1人で涙を流した。
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