第3話 登録からの謝罪
次の日、宿を出ると外にはリックとルチアがリュックを背負って待っていた。二人とも少し緊張した様子で挨拶を交わす。ワックルトへは何度か行った事はあるそうだが、それも一年以上前の事で食材を買うとすぐに戻ってきたので今回のように泊まったりするのは初めての事らしい。
借りてきた馬車に乗り込み村を出る。エルは相変わらず御者席に座りダンから馬車で移動している時の注意点などを聞いていた。その様子を見てリックがエルに声を掛けてくる。
「エルは普段こうやってダン師匠たちから教えてもらってるのか。良いなぁ!」
「大丈夫だよ。エル君に教えた事は宿に入ったらちゃんと二人にも伝えるから。普段はそう言った形で昼間お互いが学んだ事や気付いた事を宿に入ってから共有する癖を付けると良いよ。」
「なるほど!!」
「俺も駆け出し冒険者の頃、ダンにしょっちゅう情報共有しろって怒られたもんだ。でも、ホント大事だから癖付けとけよ?」
三人は何度も頷いて心に刻む。ワックルトまでは普通の馬車なら夕方までには着けるはずだ。普段なら休憩なしでワックルトまで向かうが今回は休憩や野営をする時に馬をどう世話すれば良いのか習う為に短い休憩を挟んだ。エルは馬に触るのが初めてで最初は少し怯えたが次第に慣れていった。リックとルチアは普段から村の手伝いで馬の世話もした事があるらしく慣れた手付きで餌をやったり毛並みにブラシをかけたりしていた。
そこからは周りに注意を払いながらではあるが、エルが森の中でどんな生活をしているかやどんな鍛錬をしているかなどをリックやルチアが知りたがりお互いの生活について教え合って親交を深めた。
ワックルトの外壁が見えてくる。門を守る衛兵に声をかけ街の中へ入っていく。とりあえずは森狸の寝床へ行き、馬車と馬を預ける事にする。中へ入るとノーラと共にオーレルが待っており、エルを笑顔で抱きしめて歓迎してくれた。
「待っとったぞぉ!エル~!ははは!しばらく見ん間に逞しくなったのぉ。ワシは寂しかったぞエル~!」
「ご無沙汰しています。オーレル様。たくさん話したい事があります!でも、お元気そうで良かった。」
「ほほほ!ワシは元気そのものじゃよ。お?後ろにいる子供たちは確かレミト村の孤児院にいた子ではなかったか?」
「そうなんだ。今回、この二人を冒険者登録して依頼を受けたりするのをうちらで支援しようって事になってな。」
「おぉ!前に話していた支援策が動き出すのじゃな。ワシはダンやレオと共に冒険者をしておるオーレルじゃ。自分たちの爺ちゃんだと思うて仲良くしてくれると嬉しいのぉ。」
「あっ!レミト村のリックです。よろしくお願いします。」
「ルチアです。」
「はいはい!挨拶は済んだかい?とりあえずは部屋に入って荷物置いてきな!そしたら夕食にするから下りておいで!」
ノーラの元気な声がホールに響く。一行は部屋に入り荷物を置く。ルチアを一人部屋として他の二部屋にリックとエル、ダンとレオに分かれて部屋を取った。部屋に用意されていた水桶で顔と体を簡単に拭く。すると一階から声が掛かり夕食に呼ばれる。いつ食べてもジョバルの作る料理は美味しい。リックとルチアも満足そうに食べていた。ある程度食べ終わった所で明日の予定をダンが伝える。
「明日はまず冒険者ギルドでリックとルチアの冒険者登録をしよう。それでそのまま用水路の清掃依頼を受けられるようなら受けてこよう。三人で受ければ報酬は少し減るけど早く終われるからね。それが終わったらここへ戻ってきて風呂に入ってから商業者ギルドに納品をしに行こう。」
「はい。分かりました。」
「エル君、エルボアさんの店は明後日行く事になってるから、聞きたい事とか報告する事をそれまでに整理しといてね。」
「分かりました。」
「まぁ、二泊の予定だから時間的な余裕は結構あるからね。明日と明後日で二度依頼を受けても良いだろうしそこはその都度判断していこう。でも、必ず僕らの内の誰かと行動する事。絶対に一人で行動はしないって約束してくれ。リックとルチアは申し訳ないけど、これが守れないようだと今後孤児院の子供達の冒険者登録の支援を断る可能性もあるからね。脅すような言い方ですまないけど、一番最初の二人だからしっかりとしたルールを作っておきたいんだ。ごめんね。」
「いえ、当たり前です。私達のせいで孤児院の子達の将来の選択肢が減るなんて出来ませんから。気になる行動があったらその都度注意してください。村に帰って皆にも教えますから。リック、お願いね。」
「もちろん!ダン師匠、レオ師匠、オーレル爺ちゃん。よろしくお願いします。」
「ほほほ!爺ちゃんかぁ!嬉しいのぉ。まぁ、気を張り過ぎず楽しみなさい。」
今日の所はそんな話で全員が部屋に戻る。同じ部屋のリックとエルは初めて一緒に泊まれる事に喜んでいた。冒険者ギルドはどんな所だったかなどの質問をしてエルはジュリアの威圧の話をして白金冒険者はやっぱりすごいと二人で盛り上がった。
明くる日、早い時間から一行は冒険者ギルドへと向かう。今回は冒険者がどれだけ早くギルドに来ているか、依頼受注のピークの時間を見ておくと言う目的があった。ギルドに付いて入り口を入ると中は既に多くの冒険者で賑わっていた。冒険者同士で依頼を相談し合っていたり、受付職員と依頼について交渉していたりと様々だが一番人が集まっているのはやはり依頼ボードの前だった。
とりあえずリックとルチアの冒険者登録をする為にカウンターの列に並ぶ。ダン達は入り口付近の比較的冒険者達がいない場所で待っていた。今回はリックとルチアに受付職員と話して登録作業をしてもらう形だ。やっと二人の番が来て受付職員の前に立つと職員は子供二人が並んでいた事に驚いたようだ。
「おはようございます。ご用件をお伺いいたします。」
「レミト村から来ました。冒険者登録をしたいのですがお願い出来ますか?」
「はい。大丈夫ですよ。二人とも登録で宜しいですか?」
「はい。お願いします。これ、孤児院の推薦状です。」
「お預かりします。」
孤児だけに関わらず子供であったり庶民が冒険者として登録したい時にその者の出生を問題ないと保証する人物が推薦状を書く事で登録をスムーズに進める事が出来る。特に孤児などの場合は孤児院からの推薦状が無ければ絶対に冒険者登録は通らない。
受付職員は推薦状を読みながら二人にいくつか質問をする。二人は少し緊張しながらその質問に答えていく。二人はまだ字が書けないので職員が代筆してくれ申請書を作ってくれているようだ。
「では、登録準備が出来ましたらお呼びしますので近くでお待ちください。」
二人は一度ダン達の所まで戻ってきて状況を説明する。呼ばれるまで待っていると一人の職員がこちらに近付いてくる。サレンだった。サレンはダン達に挨拶しながらリックとルチアに声をかける。
「登録準備が整いましたので、付いてきていただけますか?お手数かけますがダン様達もご一緒にお願い出来ますでしょうか?」
そう言われダン達は何となく事情を察する。
そのまま二階へと案内され、案の定ギルドマスターの部屋へと促される。こう言った事を経験しないように二人で登録申請をさせに行ったのだがそうもいかなかったらしい。中に入るとメルカが笑顔で迎える。
「久しぶりだな。まぁ、かけておくれ。」
ダン達はソファに腰掛けるが事情の分からないリックとルチアは緊張しきりだった。ダンが心配ないと伝え二人もソファに腰掛ける。
「リック、ルチア。二人の推薦状は問題なく受理されてこれから冒険者登録証を発行する。少し作業があるからここで待ってもらえるか?」
「メルカ様、このような事にならないように二人にカウンターに並んでもらったんですが?」
ダンはジロリとメルカを睨む。メルカは笑いながら事情を説明する。
「ダン達は聞いておらぬかも知れんが推薦状にはレミト村のシスター・エミルの名と共にサーム殿の名もあった。さすがにお前たちが絡んでおると思ってな。その辺の事情も知っておこうと思っての事だよ。まぁ、今回だけだ。勘弁してくれ。」
「サーム様が・・・それならば仕方ありませんね。失礼しました。」
「ふふふ・・・さて、リックとルチアは冒険者としてやってみたいジョブはあるかい?」
「俺・・・いや、僕は剣士か盾持ちをやりたいと思ってます。」
「ふむ。タンクの役割と言う事だね。」
「はい。僕は声も大きくて体も同い年の中では大きい方なので敵の注意を惹けるジョブが出来ればと。」
「なるほど。良く考えているようだね。ルチアはどうだい?」
「私は弓の練習をたくさんしているので狩人にしようかと。」
「なるほど。二人とも開路の儀は終わっているかい?」
「「はい。」」
「では、二人とも少し視せてもらっても良いかな?」
そう言ってメルカは両手を差し出す。二人が戸惑っているとダンが
「リックから手を乗せてごらん。視てもらえるのは光栄な事なんだよ。」
そう教えてくれてリックとルチアは順にメルカに視てもらう。メルカは少し微笑みながら二人を視終えた。
「そうだね。二人ともそのジョブで問題なさそうだけど、ルチアは少し魔法が使えそうだから風魔法を覚えて弓の助けになるような戦い方が出来ると良いね。リックは魔力もあるから体力強化の魔法を覚えて役立てると良いよ。ダン達と知り合いならレオやオーレルに教わると良い。風魔法に行き詰った時は私が教えてあげる事も出来るから。頑張んなさい。」
そう言われて二人の顔はパッと明るくなる。感謝を述べてお互いに喜んでいる。するとメルカはエルに話しかける。
「エルも開路とスキル恩恵が終わったそうだね。改めて視させてもらって良いかい?」
「・・・はい。お願いします。」
そう言ってエルが両手を乗せるとダンとレオ・オーレルは一気に緊張感を増す。あの日はまだエルは開路の儀もスキル恩恵もしていない状況だった。今の状況でメルカが視た時にどのような事が分かってしまうのか。もしかするとメルカにもこの秘密を抱えてもらわなければならなくなるかも知れない。
「そうか・・・やはりね。うん。なるほど。」
そう言ってメルカは視終える。そしてエルに伝えた。
「エルは冒険者としてはどう言う方向に進んでいきたい?薬師や錬金術師の素材を集める為の手段としてランクを上げていくかい?それともレオ達のように白金の高みを目指すような冒険者になるかい?」
「僕はまだ自分がどんな職業になりたいのかは分かりません。でも、お師匠様と一緒に学ばせていただいたりダンさんやレオと一緒に稽古してもらっている中で、中途半端になってしまう事は教えていただいている人に非常に失礼になると思ったんです。だから今は自分の向いてる職業を探しながら修行を頑張ろうと思います。」
「そうか。良いよ。たくさん迷いなさい。もし助言が必要な時はいつでもおいで。」
「ありがとうございます。」
ドアが開いてサレンが入って来る。リックとルチアの登録作業が終わり、二人に登録証のタグが渡される。二人は嬉しそうにタグを握りしめ、メルカに礼を言って部屋を出た。一階に降りてきた時に見た事のある赤い鎧の冒険者がレオに話しかけてきた。
「レオ、久しぶりだな。ワックルトに来てたんだな。」
「おぉ!ザックじゃないか!そうか。強制依頼の期間は終わったんだったな。」
「あぁ、迷惑をかけた。無事に終える事が出来たよ。レオ・・・もしかして、その子が?」
「あぁ、そうだ。エルだよ。」
そう聞くとザックはエルの前で片膝を付き目線を合わせ深々と頭を下げた。
「エル殿。本当に申し訳ない事をしてしまった。白銀ランクのバーティー
「いえいえいえ!!もう全然大丈夫です!何も迷惑はかかってませんし。今はこうして元気ですから。」
「しかし・・・それでは・・・」
そのやり取りを聞いていたレオの顔がいたずら小僧のそれになる。レオはザックにある提案をした。
「ザックが償いたいってんなら、頼みがあるんだけどなぁ。」
「何だ!?何でも言ってくれ。」
「実はエルもそうだが、このリックとルチアも最近冒険者として登録したんだ。もし、今後冒険者活動で迷ったりする事があったら相談にのってやってほしい。きっとお前の冒険者としての経験がこの子達の良い教訓になると思うんだ。」
「もちろんだ!だが・・・そんな事で良いのか?」
「何言ってんだ!自分たちの鉄ランクの時の事を思えよ。その時期に白銀ランクの冒険者からアドバイスもらえるのがどれほど幸運な事か。」
「・・・確かに。そうだな。分かった!エル殿、リック殿、ルチア殿。なにかあればいつでも声をかけてくれ。力になる。」
「ありがとうございます!・・・でも、駆け出しの僕たちに殿は勘弁してください。」
エルがそう言うとザックとレオは顔を見合わせて大笑いする。
「そうだな!すまなかった。エル、リック、ルチア。いつでも相談してくれ。困った事はすぐに言ってくれよ。この街の冒険者のトラブルはすぐに教えてくれ。」
「はい!よろしくお願いします。」
また、エルは、いやエル達は大きな協力者に出会えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます