第14話 街道を往く

 2匹の蜥蜴?はとても大きく二足歩行で顔を起こせば高さはレオの身長よりも大きそうなほどだった。むしゃむしゃと草を食んでいた蜥蜴?の片方がこちらに気付き、小さく鳴き声をあげる。


 すると荷車の中からがっしりとした体格の鎧を着た男性が顔を出す。




 「おぉ~!もう着いたのか。予定より早かったなぁ。」


 男性がダンに話しかけるとダンは荷車に上がり男性の耳元で何かを話していた。エルがどうしたんだろうと目線を向けようとするとレオが話しかけてきた。




 「エル。走竜は見たことがないだろ?」


 「走竜?この生き物は走竜って言うの?」




 やはり竜の名が付いていた。すると二匹の走竜はこちらを向いて「自分たちの話をしてるの?」とでも言いたげに首を左右にカクカクと動かしていた。




 「そうだ。大きな種族のくくりでは竜種なんだけどな。その中でも本で出てくるような古代竜や火炎竜なんかは古代種って呼ばれてる竜種で、走竜や岩頭竜ロックヘッドなんかは交配種と呼ばれてる竜種になるんだ。」


 「竜はそんなにたくさんいるんだね。」


 「竜はの。太古の昔は大地を守り、人や獣人と共に生きておった。しかし、種族間の争いが始まった時に創造竜ノルトールが怒り、竜の波動によって大地を二つに分けた。それ以来、古代種は他種族との関りを絶ち今はどこに生息しておるかも分からんようになってしまったんじゃ。」


 「何百年も前にそんな事になったから、古代種は本の中だけの存在になっちまったんだよ。」




 レオとお師匠様が古代種の歴史を説明してくれる。エルは疑問を投げかける。




 「では、交配種と呼ばれる物はどうやって生まれてきたのですか?」


 「それが幻霧の森じゃよ。幻霧の森の中にいた交配種の最初の発見となる走竜の原種が発見される。そして様々な竜に似た生き物が発見されるようになった。竜種が幻霧の森にいると分かると当時の国々は慌てふためいたんじゃ。普通の無害な動物ですら幻霧の森で暮らしている内に凶暴な魔物へと姿を変えるからの。幻霧の森の中にある独特な魔素が原因と言われておる。しかし、竜種たちは森の中にいたとしてもこちらから危害を加えない限りは攻撃姿勢を見せない事が分かったんじゃ。」




 幻霧の森の独特な魔素によって魔物へと変貌したり性格の凶暴性が増す事を世間では魔素に『中あてられる』と言うのだそうだ。しかし、何故か人族・ドワーフ族・エルフ族はどんなに長い間幻霧の森にいたとしても中てられる事はなかった。どうやら魔素は獣人族や動物の血の中にある何かに反応しているようだがそれはいまだに解明されていなかった。




 「と言う事は竜人種には魔素の影響があるのに竜種には無いと言う事なんですか?」


 「交配種だけでの判断は出来んが、現状だけで判断すればそうなるのぉ。なのでその中でも特に懐いてきた原種と確保し、交配させて個体数を確保しようとしたのじゃよ。」




 馬や牛に比べれば脚の早さも体の強さも段違いである。しかも竜種に荷車を引かせるとその竜よりも弱い魔物は近寄ってこない事が分かり、運送や護衛の助けになると竜種の交配は国を挙げての事業へと変わった。そして長い時を経て、今は個人でも交配や販売が認められるようになり、相当数の個体が確保出来た。


 交配種の繁栄は西ドルア大陸の配送網の繁栄にも繋がった。今や走竜に関しては貸し荷車の倉庫で馬などと同じように走竜も借りられるようになった。購入するのも借り出すのも馬や牛に比べれば相当に高額であったが、それによって護衛の人数を減らせたり輸送の日数が減らせるほうが利点だった。




 そんな話を聞いているとダンが背は低いが体格の良い長い髭を蓄えた壮年の男性とこちらへ近づいてくる。




 「サーム殿。お久しぶりじゃなぁ!いやぁ、森の中はワシのような動きの鈍いもんは邪魔者扱いされるからな。サーム殿が街へ来てくれんと一緒に酒を飲むことも出来ん。はははは!」


 「おぉ!オーレル殿!元気じゃったか。いやぁ、納品を任せっきりでなかなか街に下りなかったのでなぁ。いやぁ、嬉しいのぉ。ワックルトでぜひ一献。」


 「ははは!是非に!・・・・お?そなたがエルじゃな?ダンから話は聞いた。ワシはオーレル・r・・・オーレルじゃッ!サーム殿とは本当に長い付き合いでの。ワシとも仲良くしてくれると嬉しいぞ?」


 「はい!エルと申します!サーム様にはお師匠様としてこれからご指導いただける事になりました。未熟者ではありますがお見知りおきを。」




 オーレルは驚いた顔でエルを見つめる。




 「・・・ははは。誠に言葉遣いはどこに出しても恥ずかしくないほどじゃのぉ。うんうん。サーム殿の知識・技術はこの先も国民にとってまだまだ必要な物じゃ。長い時がかかろうがめげずに受け継いでほしいのぉ。」


 「精進します。」




 エルの力強い眼差しを見て、オーレルは「よしっ!」とエルの頭を撫でる。




 「では、少し休憩して出発しましょう。御者は僕が勤めますので。」




 ダンがそう言うとエルの背負っていたバッグをレオが預かってくれ荷台に乗せてくれる。ダンが敷き布をポーチから取り出す。サームたちに座るよう促すと他のメンバーに声をかける。




 「レオとオーレルは引き続きで悪いが周囲の警戒を頼む。まぁ、テッドとシューがいれば早々は魔物も寄ってこないだろうが念のためだ。ジュリアは悪いが解体を手伝ってくれ。」




 レオに聞くとテッドとシューと言うのは連れている走竜の名前で【創竜の翼】の名前の由来にもなっているのだそうだ。と言う事はこの走竜はパーティーで購入した竜と言う事になる。ポーチと言い竜と言い、このパーティーは相当に稼いでいるのだなとうかがい知れた。


 エルはどうしても解体を見てみたいと思い、ダンに解体を見せてもらえないか聞いてみた。ダンは笑顔で了承してくれ、ジュリアと共に丁寧に教えてくれた。




 「エル様?よろしいですか?魔物と言うのは討伐部位と呼ばれる買い取ってもらえる体の部位が魔物ごとに違います。この部位を使って街では薬や武器・防具が作られたりしています。基本的にはギルド、この場合は冒険者ギルドが買い取りますが、特殊な部位によっては個人間で取引される事もあります。」


 「ギルドですか?なるほど。・・・では街に着いたらギルドについてはしっかり説明いたしましょう。ここではざっくりと言えば『一つの職業をまとめる役割の組合』と思っていてくださいませ。なので、冒険者ギルドは冒険者たちの集まりでそれを統括している組合ですわ。」




 大きなブラッディボアはエルではまだ解体は難しいとの事で森を出る途中で狩ったツノウサギ3匹を使って解体を教わる事になった。




 「エル様。ツノウサギの買取可能な討伐部位はツノ・皮・魔石・肉。つまりは全てですわ。集団で襲われなければそれほど強くもないので駆け出し冒険者が討伐を狙う事の多い魔物になります。全部買い取ってもらえるならそのまま納品すればと思われるかも知れませんが、綺麗に解体して納品すればギルドでの解体作業が省けるので代わりに解体報酬として報酬が上乗せされるんです。逆を言えば解体状態が悪いと割り引かれてしまう場合もあるので、解体の技術を高めておく事は冒険者にとっては必須と言えます。」




 そう言いながらジュリアは解体の手順や魔石がどこにあるか、肉はどう切り分けるかを教えてくれた。エルの感想としてはツノウサギで一番解体の技術を要するのは皮を綺麗に剥ぎ取る事だと感じた。皮と肉を綺麗に分けられれば買い取ってもらえる時の印象も良さそうだ。魔物の危険度が低いとそれほど高い解体報酬は期待出来ないがそれでも駆け出しにとってはそれも大切な収入源となるのだそうだ。




 「では、エル様。私のナイフをお貸ししますので一匹実際に解体してみましょう。大丈夫です。上手く出来なくても自分たちで調理して食べる事も出来ますから。まずは経験ですわ。」




 すでに死んでいるとは言え、魔物に触れるのは初めてだし解体などもちろん初めてだ。横でジュリアに助言をもらいながらゆっくりと解体し、無事に部位を分ける事が出来た。




 「初めてでこれだけ出来れば冒険者顔負けですわ。エル様は器用ですねぇ。これから森でサーム様が鳥やウサギを狩る事があればぜひ解体を経験させていただくとよろしいかと思いますわ。」




 初めての解体を終え、安堵の表情でエルはナイフをジュリアへと戻した。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る