第25話 魂魄、総もどり大会だぞ♡
※※※
まあ、出るわ、出るわ。
お城中の兵士さんたち、みんな一度に呪言を与えないと、一人でもどこかに隠れられたら大変だ。そういうわけで、大広間に全員詰め込んで、鍵までかけた。兵士さんたちは都会の通勤電車に乗っているように、ぎゅう詰めだ。
魂魄返しの呪言を口にすると、あちらでバタリ、こちらでバタリと糸の切れた操り人形のように兵士さんが何人も倒れていく。すぐに意識は戻ったみたいだけど、うまく動けないようで、じたばたしている。
近くにいる兵士さんたちは助け起こして良いものか迷っているようで、傀儡だった人たちは、なかなか起き上がることが出来ないままでいる。
「倒れたものは救護せよ。心身の状態を確認し、動けるものは数刻の休憩の後、出動準備!」
キシメジさんの号令で兵士さんは一気に動き出した。通勤電車状態だったけど、そこは訓練が行き届いてるんだろう。混乱も起きず、あっという間に数人ずつ組んで、散っていった。
部屋に残ったのは会議メンバーと、警護の兵士さんだけ。嵐のような時間だった。
「アサヒ様、重ねて感謝いたします。アサヒ様が救いの手を伸べてくださらなかったら、我が領はどうなっていたことか……」
ゲロウジさんが深く深く頭を下げる。いやいや、最敬礼以上に深すぎるから。
「私で出来ることがあれば、なんでも言ってください。手伝います」
ゲロウジさんは目をうるうるさせた。巨漢の涙。案外、かわいい。それとは逆に、ショーロ王女は厳しい顔つきで頭を下げた。
「他国の聖女様の御手を煩わせてしまい、まことに申し訳ございません。我が国の聖女様がお立ちになれないものですから、甘えてしまいました」
立てないって、病気とかかな? 私が口を開く前にヒイロ王子が尋ねてくれた。
「ウェスティン王国の聖女様は、たいへんご高齢だとうかがっています。そのことが関係しているのでしょうか」
「はい。すでに王城から出ることも叶わぬようにおなりです」
ありゃ。それは大変だね。聖女のお仕事もはかどらないのかもしれない。ウェスティンにいる間、出来るだけ協力しよう。うん。
「お話し中、失礼いたします!」
いつの間に部屋から出ていっていたのか、キシメジさんがドアを開けて入ってきた。
「アルトメルト王国騎士団、ウェスティン王国騎士団ともに御出立の準備が整ってございます!」
もう、移動するのか。お城に傀儡はいなくなったし、もう安全なのかな。
ショーロ王女が立ち上がって階段を下りた。
「ヒイロ王子殿下。恐れ入りますが、わたくしの馬車で御同道いただけますか」
「お招きありがとうございます。警護の必要上、聖女様も共にお招きいただきたい」
「光栄なことでございます。どうぞ、聖女様の道行きの供とさせてくださいませ」
なんだか古風な言葉をするすると話してる。まるで前から決められていたセリフみたいに。
そういえば、ショーロ王女と会談するときに同席して欲しいってヒイロ王子から言われてたっけ。王城ではなくてポロ車の中で話し合うんだろうか。
なるほど、その方が盗聴されにくいかもね。
とりあえず、古風に返事できる気がしないから、ぺこりしておいた。
城を出ると、スエヒロちゃんが輝くような笑顔で駆け寄ってきた。
「アサヒ様!」
ぎゅっと抱き着かれて、こけそうになったけど、ヒイロ王子がささえてくれた。スエヒロちゃん、年のわりに力が強いぞ。
「お城へもどっていいと言われたんです! お父様とお母様に会えるんです!」
興奮して顔が真っ赤になっている。よっぽど寂しかったんだね。
「良かったね。お父さんはすっかり元気だよ。もうお仕事してるよ」
「本当ですか! 私、行ってまいります!」
スエヒロちゃんはかなりの俊足でお城に入っていってしまった。
「ありゃ」
お別れの挨拶が出来なかったな。うん、でも大丈夫か。帰りにもここを通るんだから。
ショーロ王女とヒイロ王子が、なにやらいろんな人と挨拶しているのを、側でにこにこしながら少し頭を下げ続けた。頬の筋肉が痛みだしたころ、ようやくポロ車に乗り込む。
一国の王女様のポロ車は、それはそれは華麗だった。
ポロも緑といってる場合じゃない。エメラルドグリーンに輝く体毛で、四頭引きだ。どのポロも賢そうなキリっとした顔をしている。
いや、アルトメルトのポロたちだって、ふざけた顔をしてるわけじゃないんだけど。
車の方は薄い桃色で、全体的に金で縁取りされている。窓枠とか、ドアのノブ、ステップの底板も金色。まるでお姫様の乗り物みたいだ、と感心して、まごうことなきお姫様の乗り物だと気づいて、一人赤面した。
乗り込んでみると、やはり六人乗りみたいでガランとしていて、なんとなく肌寒い気がするようだ。私とヒイロ王子がならんで、ショーロ王女と対面する。
「ショーロ王女殿下、御出立!」
窓の外からキシメジさんの声が聞こえた。カタンと軽い揺れを感じただけで、王女様のポロ車はスムーズに動き出した。
「さあ、もういいでしょう」
ショーロ王女が言うと、ヒイロ王子が窓を閉めてカーテンを引いた。
「しかし、ショーロは相変わらずキツイな」
「なにを言うの。わたくしほど寛容な女性は、そうそういないわ」
突然、口調がくだけて、ついでに姿勢も崩れた。ヒイロ王子は足を組んで腕組みするし、ショーロ王女は背もたれに思いっきり体を預けてだらーっと力を抜いてる。
「アサヒ、きみも楽にしているといい。このポロ車は絶対に外から開けてはならないようになっているんだ」
「まあ、ヒイロったら、聖女様を呼び捨て!?」
ショーロ王女の柳眉が跳ね上がった。美女の怒りは怖い。
「私たちは友達だからね、ねえ、アサヒ」
ショーロ王女の怒りに遠慮して、黙ってうなずく。
「アサヒ」
ヒイロ王子が顔を覗き込んでくる。はいはい、わかってますよ。
「ヒーちゃんとアサヒは友達だよ」
「ヒーちゃん!?」
ショーロ王女が「ぶーっ!」と盛大に噴きだした。この世界の王族の人って、みんな笑い上戸なのかな?
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