第23話 会議は踊るぞ♡

 混乱した私とゲロウジさん、事情を知っているようなヒイロ王子とおじいちゃんたち。


 さて、私は誰になにを聞いたら良いんだ?

 悩んでいると、ドアにノックの音がした。ゲロウジさんがドアを開けると、アルトメルトの騎士さんが最敬礼している。


「会議中に失礼いたします! アルトメルト王国ギイツ子爵より、ヒイロ王子殿下に速ポロにて書簡が届いております」


 兵士さんが腰を折ったまま、細長い筒を差し出した。白い金属製の筒に金色でラーメンどんぶり模様が施されている。


 ヒイロ王子が受け取ってラーメンどんぶり紋様をなにやら複雑な手順で辿ると、筒はパコっと音を立てて開いた。出てきたのは黄色の布だ。紙じゃないんだね。重要な連絡は布で、とか決まりがあるのかな。


 ヒイロ王子は一通り目を通して、布をテーブルの真ん中に広げた。


「アルトメルト王国、カント男爵領に潜ませておいた者からの報告です」


 おお、それは私のメイドさん、ウコンハツちゃんのことですね。元気にお勤めしてるのかな?


「何者かが、カント男爵領の農家の作物を、アルトメルト国王の命と偽って安価で買い上げているとのこと」


 場がざわめく。やっぱり、本当にニセ兵士が暗躍してるのか。


「買い取られているのは、ウェスティン王国の商家と直接契約している農家ばかり。放置すればウェスティン王国への農産品の輸出が止まってしまうでしょう」


 厳しい表情でショーロさんが黄色い布を見つめている。


「確認いたしますが、アルトメルト王国では、そのような勅旨はないのでございますね?」


「もちろんです。アルトメルト王国にては、ウェスティン王国への食糧輸出を存続いたすべく 農業政策に力を入れております」


 ゲロウジさんがそっと口を挟む。王族の会話を止めてまで話したいことって、なんだ?


「恐れながら申し上げます。私が術にかけられ傀儡になるより以前、食糧の闇取引が横行しているとの噂があり、調査を命じるため、ヤマイグチと相談したことがございました」


 ショーロさんがテーブルを両手で叩いて、イスを蹴って立ち上がった。眉を吊り上げた怒りの形相も美しい。


「なぜ今まで黙っていたのです!」


 ゲロウジさんも弾かれたように立ち上がって、正確に九十度に腰を折る。


「申し訳ございません! ただ今まで思い出すことが出来ませんでした!」


 傀儡にされたのは、食糧の闇取引を知ったあと。

 まるで、ゲロウジさんが捜査を始められないように宰相が邪魔をしたみたい。

 

 この場にいる人たちはみんな、その考えを踏まえることに同意した。

 ウェスティン以外の国まで視野に入れた宰相捜索と、アルトメルトでの食糧買い占め犯の捜索を、同時に行うことが決められた。


 ゲロウジさんが思い出してくれたおかげで、食糧の闇取引の資料の存在がわかったけど、書庫はほとんど空っぽだった。

 重要書類が軒並みなくなっているそうで、これも宰相の仕業である可能性が高いとか。


 宰相が黒幕かと思われていたけど、こんなに細々した悪事をチマチマ行っているのって、宰相なんて呼び名とのギャップがある。

 敵幹部じゃなくて、ヒーロー番組の放送一回でやっつけられちゃう怪人みたい。


 そう言って、ヒーロー番組の説明をすると、ショーロさんは「よくわかりました」とうなずき、ヒーちゃんはうつむいて肩を震わせた。




 対策素案は決まったけれど、とにかく人手が足りない。アルトメルトの騎士さんたちは元々少数精鋭で来てた。もう動かせる手勢がいない。

 ショーロ王女の護衛隊も、人員を割けるほどの大隊ではない。

 ゲロウジさんの兵士団は……傀儡がまだ潜んでいる可能性が高い。重要な任務の情報を伝えて良いものか。


「呪言をお役に立てますよ」


 そう言ってみるとゲロウジさんが恐縮しきりで「聖女様のお手を煩わすわけには」と尻込みする。


「このお城に残っている兵士さん全員に魂魄返しの呪言を与えれば、傀儡が残っているかどうか、一目瞭然です。人手不足も解消、みんな安心安全。なにより、傀儡のままでいる人の魂が救われます。良いことづくめなんですよ」


 それでもウダウダ言うゲロウジさんを無視して会議室を出た。ズイズイ歩いて謁見の間に向かう私の後に、会議メンバー全員がついてくる。

 うん。気分はハーメルンの笛吹き男。ついてきた子どもたちは、もらっていくぜ。


 謁見の間のドアを勝手に開けて、ズカズカ踏み込む。警護の兵士さんが目を丸くしてる。


「お待ち下さい、聖女様」


 ゲロウジさんは私を止めることを諦めないみたいだけど、べつにいいもんねー。待たないもんねー。裏技があるもんねー。


「ショーロ王女。兵士さんたち、みんなに集まるように指示をいただけませんか?」


 ショーロさんは楽しそうに足取り軽く、領主のイスに腰かけた。


「ゲロウジ辺境伯」


「はっ」


「全兵士を集めなさい。アルトメルト王国、聖女アサヒ様より、魂魄返しの呪言をたまわります」


「はっ」


 ゲロウジさんは、やっと素直に動いてくれた。

 よし! どんどん傀儡を見つけ出すぞ!

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