第22話 辺境伯たちと会議だぞ♡
ショーロ王女と私でお弁当を分け合おうかと提案してみたら、全員が目玉をひん剥いた。そんなに驚く?
「ショーロ王女も少しは食べないと力が出ないでしょう。でも、残したらもったいないから、シェアしたらいいかと思ったんですけど、だめですか?」
当のショーロ王女も相当驚いたらしくて、目が点だ。
「まさか、きみがいた世界では、他人に食事をわける習慣があるのか?」
ヒイロ王子は敬語を忘れちゃってる。
「ありますよ。一つのおにぎりを半分こして食べるとか」
「半分こ……というのか」
クヨウには半分こという概念はないのか。たくさん食べるのが義務みたいなところがあるもんね。人にわけてる場合じゃないんだな。
「さっきも、携帯食料をわけっこしたじゃないですか」
ゲロウジさんが目を泳がせる。
「いえ、しかし。あれはもともと複数人分が入っているものですので」
そうだったのか。独り占めしなくて本当に良かった。
「緊急事態の携帯食料をわけられるなら、緊急事態のお弁当もわけられます。今は、みんながお腹を満たして頑張るべきときです」
顔を回してショーロさんに尋ねる。
「半分こは、いやですか?」
「聖女様と食を分け合えるなど、光栄なことでございます。喜んで頂戴いたします」
王女の微笑みにやられた。もう一生、ショーロさんと食べ物を半分こしたい。
お弁当の包みを開いてショーロさんの食べられそうな量を取ってもらった。
大きなおにぎり一個、きゅうりの漬物一本。それだけ。
……というか、日本で食が細いという女性とは桁が違う。この巨大なおにぎり、日本人なら、一つで満腹になれるくらいなんだけど。
やっぱり、クヨウの人の食はすごいね。
でも、こちらの人からすると、あまりにも少ない量としか思われないんだ。ヒイロ王子もゲロウジさんも心配顔だし、三人のおじいちゃんたちなんか顔を伏せて悲しそうだ。
ショーロ王女もなんだか肩を縮めて居心地悪そう。
食が太かろうが、細かろうが、そんなの個人の体質じゃないか。なにも悪いことじゃない。
「ショーロ様、美味しいですね」
にこっと笑って言うと、ショーロさんも笑ってくれた。
「ええ、本当に」
ご飯は美味しく食べるのが一番だよね!
あっという間に朝食が終わり、会議が始まった。
事情を聞いていない私のためにショーロさんが説明してくれる。
「ヒイロ様との会見は王城でと決まっていたのです。その後、諸事情あるため、ゲロウジ辺境伯領へ会見場を変更したいとのヒイロ様からの親書を受け取りました」
「もちろん、私は書状を送っていません」
ヒイロ王子は話を続けてもらうため、ゲロウジさんに視線を送った。
「私も連絡を受けた記憶はないのですが……、術により傀儡にされていたため、この領内のこともわからぬ始末。お詫びの言葉もございません」
深く頭を下げるクロウジさんにショーロさんが優しく話しかける。
「辺境伯が大変なときに、わたくしたちは何も知らずにおりました。助けになれず、申し訳なく思っております」
王女様に気遣われてゲロウジさんは声もない。ただただ平伏するだけだ。
「あのお、親書には他になにが書いてあったんですか?」
聞いてみると、ショーロさんとヒイロ王子が顔を見合わせて、微妙に困惑しているんだろうなって表情になった。
その表情のまま、ショーロさんがおじいちゃんの一人から豪華な宝石箱みたいなものを受け取った。鍵を開けてフタを開くと、赤い布が入っていた。
ヒイロ王子が伝令のために使ったのを見たことがある。用件以外に、自分の身分を示す模様のようなものを書き込んでいた。
その布をみんなに見えるように捧げ持って、ショーロさんはますます、チリミを間違って食べたみたいな情けない表情を見せた。そんな顔も最高に美しい。
なんて、のんきなことを思いながら布に書かれた事を読んでいき。
「ひょわあ!」
あまりの驚きに聖女にあるまじき声をあげた。そこにはヒイロ王子からショーロ王女に対する愛情こもった文章がつらつらと連ねられていて。
これは、いわゆる、その、恋文というものでは。それはもう、熱烈な。
ゲロウジさんもぽかんとして赤い布から目をそらせないでいる。おじいちゃんたちもざわめいて、冷静なのはヒイロ王子とショーロ王女だけ。
え、ラブレターの送り主と受け取り手って、こんなに冷静に他人に手紙を見せられるものなの?
「この内容こそが、親書が偽物である大きな証拠です」
ヒイロ王子がため息混じりに言う。
「巷では私とショーロ王女が交わしている親書には愛の言葉が書かれているという噂がまことしやかに囁かれているという。だが、それはまったく見当外れの噂だ」
そんな噂が。幼い頃から文通してるって聞いたら、恋愛に発展してもおかしくないかもって私でも思う。けど、ショーロさんは、やや迷惑そうだ。
「この親書を受け取って、ひと目で偽物だとわかりました。ですが、手紙で問い合わせようにも、ヒイロ様はすでに国を立たれていて叶わず。ですが見逃すわけにも行かず。王の許可を得て辺境伯領に向かった次第です」
一国の王女様が怪しい手紙に呼び出されて移動するって、この国ではどうなの、アリなの? ショーロさんがめちゃくちゃ強いとか?
おじいちゃんが口を開いた。ローブを着ていてたっぷりの口ひげとあごひげがあって、魔法使い然としている。
「王女殿下におうかがいいたします。こたび、我ら三人をお連れくださったのは、術による被害を見越してのことでございますか?」
「そうです。ニセの親書を作ったものが、なんらかの技術を持っていることは間違いありません。それが手により作られるなにがしかであれば、それほどの驚異ではないでしょう。しかし、ヒイロ様が傀儡にされていた場合」
ショーロさんは厳しい目をヒイロ王子に向けた。
「王城に向かい入れるわけには参りません。それを確認するため参りました」
ヒイロ王子も厳しい顔つきでうなずいている。うん。この二人に恋愛感情はないな、と確信出来るほど、親愛の情が感じられない。まるでライバルみたいに強い視線で相手を制しようとしているみたい。
今まで楚々としていたショーロさんは夢だったのかな?
ヤマイグチ宰相の捜索には、王城から来た兵士さんも加わって人員補充出来たので、領外にも範囲を広げる。
アルトメルト王国からの食糧買い占め問題については、王国へ連絡の速ポロを飛ばすのと、アルトメルトの騎士団が人手を割く。
市長公邸だけじゃなくて、食糧不足は市民にまで及びそうだということで、王城から備蓄食糧が運ばれるよう、こちらも速ポロが駆け出した。
「アサヒ様、騒ぎに巻き込んでしまい、本当にお詫びのしようもございません、が」
ショーロさんが射るような目で私を見据える。「、が」ってなに、「、が」って。怖いんですけどお。
「王城までお越しください。私との食対戦をお受けください」
はい?
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