安心感を与えるメロディで

「我々が提供するのはサウナではなく感染症の細菌やウイルスです。私共のビジネスモデルを一からご説明しますと、希望されるお客様に、高熱などの症状はあっても比較的無害な病原菌を提供します。お客様がその病気に感染されると、ものによっては高熱、頭痛、鼻詰まりや咳などの症状に苦しむことでしょう。あなた以前高熱を出して寝込んだ時の事を覚えていますか?随分と苦しんだはずなのに、あまり思い出せないでしょう。その程度のストレスを体にかけると、完治した後にまでは影響しませんが、闘病中は病気のこと以外考えられないでしょうね。要するに長めのサウナだと思っていただければ結構です。」


安全面に不安を覚える業務内容だったが、ほんの少しだけ僕が納得できたのは、高熱が下がったときの妙な達成感を記憶していたからだった。


「今のところ細々とやっているのですが、ある種の界隈から厚い支持を得ておりまして。ブルジョアってやつですね。ここだけの話ですがあまり好きではありません。金払いが良いだけの連中です。あれこれ文句も多いですしね。失礼しました。くだらない愚痴を聞かせてしまって。とにかく儲けが入ったので景気よくパーッと事業を拡大してしまおうというのが上の意向でして。」


男はわざとらしく背筋を伸ばして膝の上で拳を握った。誠意ある振る舞いのつもりだろうが、言葉遣いが見合っていない。


「そこであなたにご相談したいのですよ。コマーシャルを作りたいのです。メロディをあなたにお任せしたい。耳に残るのは勿論ですが、安心感を与えるメロディでね。」


ゆっくり人差し指を立てながら、


「扱うものが陰気ですからねぇ、当然法律的にもアウトですが、これといった問題ではございません。信頼できて、有益であれば、お客様は足を運んでくださるのです。つまりあなたの仕事ぶりによって、お客様の敷居が下がるというものですよ。」


と言い終わったら、男はビジネスバッグから裸の札束を鷲掴みにしてテーブルに叩き付けた。僕が目を見開いて黙っていると、


「前金で三千万です。加えて使用料もその都度お支払いいたします。」


これ以上ないほどの好条件だった。

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