一度お試しになってください

作曲家として、かつてないほど報酬のいい仕事である。不審であることには間違いないが、これほどの大金を頂ければどれほど生活が楽になることか。肩書として作曲家を名乗ってはいるものの、僕はまともな作品を生み出したこともなければ評価を受けたこともない。


「ぜひやらせてください。」


「本当ですか。いやあ、よかったよかった。ではそれでよろしくお願いいたします。契約書は後程。」


そう言って、テーブルの上に無造作に置かれた大金を両手で僕の方に押し出した。


「えっ、この場で頂くんですか?あの、リュックに入れるのも怖い金額ですので、振り込みでお願いできないでしょうか。」


質問すると男はおどけた表情を作って、


「またまた、振り込みとかでデータに残しちゃうと後が怖いじゃないですか。ほら、我々のところって色々とグレーですし。あなたもいざって時に関係ありませんって言えなくなっちゃうでしょ。だからほら。お願いしますよ。」


手にしたことのない三キログラムの札束。金額以前にその重さに圧倒されながら、僕は帰路についた。

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