第8話
「というわけで、本日でカレーの無料試食会は終わり!
皆さんお疲れさまでした~~!」
「「「え~~~!!!!」」」
さて、猛毒思い出カレーを食べた翌日。
私は、ここのところ連日開いていたカレー試食会の中止を宣言した。
それにより、ある意味通りカレー試食会を惜しむの声が響いた。
もっとも、その多くはただでご飯を食べさせてくれた感謝と魔導ギルド事務員一同からの待遇改善要求なので、割愛。
しかし、そんな数多くの意見の中にも聞くべきものがあった。
「うぅ~!サービス期間中止かぁ!?
あれを毎日食べていたら、自然と体臭もよくなったのにぃ!」
一つは、魔導士ギルドに置ける匂い問題。
この魔導士ギルドは、いわゆるファンタジー的な魔法から、錬金術、果てには死霊術の魔法まで扱っている。
が、その中でも死霊術師を含むいくつかの魔法は非常に匂うのだ。
それこそ、ギルド内では入り口以外は匂いは保証されてなく、それだけで近所から苦情がくるほどだ。
カレーの匂いも香しすぎるとお腹が減るという問題はあるとはいえ、死臭や刺激臭よりはマシだろう。
「あのカレーのおかげで、ここのところギルド全体で依頼消化率が良かったんですよねぇ。
おかげで査定もよくなるし、収入もいいと万々歳だったのですが……。
うぅ~、あともう一か月ぐらいしれくれませんか?だめ?ダメかぁ……」
もう一つは、ギルドの労働力の底上げである。
これはカレーを毎日食べていた魔導士から聞いた事だが、カレーを食べてから依頼をすると、食べてない日に比べて効率が上がるそうだ。
初めは、気分的な問題と思ったが、どうもそうではないらしい。
調べてみたら、カレーに使われているスパイスは【オリジナル・スパイス】として、調合アイテム扱いになっているようだ。
効果は種類によりまちまちだが、大体は【MP回復速度上昇】【クリティカル率上昇】がつく。
それにより、微弱ながらステータスが強化され、何よりもMPが持つようになり、仕事中の集中力やスタミナが強化されているようだ。
「ふぅむ、このまま終わりもいいですが……。
少しもったいないですね」
以上のことにより、カレーの試食会をこのまま普通に終わらせるのも、いかがなものかと考えたわけだ。
もちろん、こんなボランティア活動モドキなことを無私の精神で続けたい訳ではない。
だが、少しの労力で多少なりともギルドの評判がよくなるのは、私としても歓迎。
なによりも、一部ギルド仲間やギルド外の人、さらには副ギルド長直々に、依頼を出してきたのだ。
ならば、私も一肌脱ごうと言うもの。
「ならば、こう言う代替案は如何でしょうか?」
というわけで、私はカレーではなく、カレー粉を提供する事を提案した。
幸いカレーの作り方はそこまで難しくない上、素人でも一度に大量に作ることができる。
更に、カレー粉さえあれば家でカレーを作ることも可能だ。
幸い、スパイス育成の素材となる植物はどれも育成可能であるし、畑ももちろん所有済み。
育てるための種と技能も持っている。
更に依頼人も、ギルドはカレー粉の仲介料を、個々人はカレー粉の個人販売とレシピの無料提供というメリットで納得済みだ。
ならばこそ、今ここでカレースパイスを増産するべきだ!
「と、いうわけであと1432日働けば、無事に借金返済可能です♪
さぁ、明日の労働英雄はあなたです!
張り切っていきましょう!」
「うわあああああぁぁぁぁ騙されたぁぁぁあああ!!
騙されたのじゃあぁあああ!!」
というわけで、私は角付少女のケツをひっぱたきながら、畑に実ったスパイスの下になる種を回収するのであった。
さて、改めて説明するまでもないが、この畑とは私がゲームプレイ時に所有していたのものでだ。
それゆえにこの畑は普通の畑と比べて優れているところがたくさんある。
例えば、どんな作物でも無理なく育てられることや、例えば、害虫がつかないなど。
更には、肥料によって畑のステータスを変えることができる。
今回はスパイスの大量生産が目的なので、大量に、かつ、素早く育つように調節。
これで、あっという間にスパイスが入手できるというわけだ
「……もう、無理。
我、疲労困憊」
ただし、収穫する側の体力が持てばの話である。。
「え~?もうギブアップですか?
まだ、3時間しか時間が経過してませんよ?」
「無理!無理と言ったら無理なのじゃ!
というか、この種もろすぎじゃろ!体力の前に心のほうが先に折れるわ!」
さて、話は変わるが、目の前にいる大の字を広げて寝転がっている彼女は、先日マクナーの家で解放した【元魔王の魂】である。
マクナーのたっての願いによって処分を免れたものの、かといって放置するわけにもいかないため、ならばと私の拠点に軟禁する流れになったのだ。
なお、元は実体のない霧状ではあったが、日にちがたつにつれて徐々に人型になり、現在では角付幼女という実にあざとい姿で過ごしている。
もっとも、見た目はこんなのでも元魔王であるため、を自宅にあげるのに抵抗がなかったわけではない。
が、こいつは元魔王の癖に【使い魔】の魔法が通じた上に、過去の記憶も曖昧ないのだ。
だからまぁ、とりあえず処分するのではなく、処分するに足る理由ができてから処分しようという結論に至ったわけだ。
「むぅ、まぁなら仕方ありませんね。
というわけで、なら残りは農作業用ゴーレムので済ませちゃいますか」
「そんなのがいるなら先にそっちにしろ!!」
まぁ、それよりは今はスパイス回収である。
そのため、あんまり役に立たなかった元魔王は無視して、詠唱によって土からゴーレムを創り出す。
一回のゴーレムは農作業用に作ったため、栽培や運搬などのスキルを多く搭載させている。
そのせいか、コンバインなどの農作業重機のような腕をしたゴーレムたちが、作られ、農作物を回収していった。
「我の成果が!努力が一瞬で抜かれた!?
なら、何で我にやらせか!収穫を任せるならこ奴らでいいではないか!」
「それはあなたが家にあるお菓子を勝手に食べ、お代は体で払うって言ったからですよ?
ほら、農業は労働の基本というでしょう♪」
「だからって限度があるだろう!
嫌みか!?我が限られた魔法しか使えないから、それに対する見せつけか!?」
そうやってぷんぷんと怒る元魔王の魂。
なお、実際なぜこんなことをしたのかと言われれば、実は今回のスパイス増産作戦は、元魔王のステータスと従順さの検査も兼ねているからである。
というのも、この魔王は【使い魔】の呪文で仲間にしたのはいいものが、具体的な仕様がよくわかってない。
一体どこまで言うことを聞いて、どこまで自由が利くのかわからないからだ。
「ほら、案外もう一度挑戦したら、面白く感じるかもしれませんよ?
だからもう一回、チャレンジしてみませんか?」
「や!やじゃ!
そもそも、単純な畑仕事任せたいのなら、こ奴らがいるではないか!」
例えば、今はこの元魔王は使い魔なのに、命令に反抗し、畑仕事を嫌がっている。
が、この反抗も、コイツが使い魔の呪文を無視して反抗しているのか、それとも単に使い魔としてできる範囲で【
なればこそ、今回の作業は元魔王の命令を乱発しそうなので、そのついでに従順さとステータスを調べておこうと思うのは当然の流れだろう。
「ん~、なら別の農作業しますか?
そっちの方に適正があるかもしれませんし」
「え~?でも我は体で返すといったが、畑仕事はあまりやりたくないぞ?」
「まぁまぁ♪一つで規定ノルマをクリア出来たら、このバターをたっぷり乗せたアツアツのリンゴパイを差し上げますよ?」
「!!ちゃっちゃと紹介しろ!
農作業であっても、我が最強だということを知らしめてやろうぞ!」
かくして、スパイス増産計画と片手間に、魔王の農作業及び農奴適性を測るのであった。
なお、魔法のショウガ掘り。
「んぎぎ、んぎぎぎぎぎぎ!
お、重!重すぎるぞ!?
というかこれは、魔法で空間固定されてるではないか!
こんなのを食べようだなんて、頭がおかしいのではないか!?」
火山ペッパーの採取。
「あっつ!あつ!
いや、痛いなこれは!?
え?辛み成分だから、食べても問題ない?
あほか!こんなの食べたら、辛いどころの騒ぎではないわ!」
キノコ採取という名のストライカー・マッシュの討伐。
「は~?殴りダケの亜種ごときが我に勝てると思うか?
こんなもん我が一捻りで……、おぼ!
痛った、まて、つよ、げふぅ!胞子やめろ!
この……ゆるさーん!!!」
結論からいうと、この元魔王にあまり農奴適性はないらしい。
ショウガを掘ればパワーが足りず、火山ペッパーを採取できるほど属性耐性のない。
さらに農作業に一番大事な根気というか根性もいまいちだ。
「そうかなぁ!?我頑張ったと思うけどなぁ!?
初めての体で、初めての作業にしては、よくできた方だと思うぞ!?
それに、こういう作業はもっと段階を踏むべきだと我は提案する!」
「まったく細かいことを言って。
言い訳ばかりでは、魔王の名が廃りますよ?」
「それは、ひどくないか!?」
それと、【使い魔】魔法による従順さも結局よくわからなかった。
というのも、この元魔王は、こちらが命令を下すと使い魔らしく、命令を実行しようとする。
多少理不尽な命令をしても、多少困難でも変わりなく、成し遂げようと努力はする。
が、肝心の命令はほとんど達成できないし、疲れたりすればすぐに諦める。
その上、口答えや不平不満、提案などはきっちりしてくるのだ。
命令に従ってるのか、従っているふりをしている、単にできないのか判断できない。
「……というか我頑張ったよな?
我は菓子を所望する。くれないと、泣くぞ。
恥も外見もなく、泣き叫ぶぞ」
「はいはい、残念賞の飴ちゃんでしょ~」
「む!貴様、馬鹿にしてるのか!
こんな小さな菓子ごときで我が満足できるとでも……あまぁ~~い!♪!」
しかしながら、一つだけ確実に言えることがある。
それは、彼女はステータスのわりに、戦闘がそこそこ得意らしいということだ。
彼女が倒したストライカー・マッシュという敵は、状態異常攻撃に高い魔法防御、さらに必殺の右ストレートと、レベルのわりに強く、少なくともショウガが掘れないレベルの筋力ではお相手にならないはずだ。
しかし、この元魔王は、それを単身で3体も倒している。
これはおそらくはボス補正を持っているままな他に、単純に戦闘センスが高いのだろう。
……こいつは将来のことを考えて早めに始末しておいたほうがよろしいのではなかろうか?
「やはり、殺処分……。
いえ、それだけじゃ不安ですので、海そこに沈めてから封印を……」
「いや、聞こえているからな!?
というか、あのキノコ相手に勝てたからよかったとはいえ、割とぎりぎりだったぞ!
なんであんなもの量産してる!?世界征服か!?復讐か!?
はたまたは、地の国の魔神に挑みに行くつもりか!?」
「え?食べるためですが?」
「……どう考えても、我よりもお前の方が危険人物だろ」
しかしまぁ、それでも以前コイツは命令違反自体はしておらず、口は悪いがしゃべり相手としては適当だ。
元魔王補正か私の使い魔だからか、雑に扱っても耐えうるだけの耐久力を持っている。
「まぁまぁ、それより追加の飴はいかがですか?
ほら、イチゴ味の味の次はブドウ味なんてどうでしょう」
「おお!ブドウの飴だと!?
よこせよこせ!~~~~♪♪」
何より性格が素直で単純なおかげで、菓子一つで機嫌が直るのだ。
以上の結果から、危険さを込みでも扱いやすさと角付幼女と云う点を踏まえても、今回は処分を見送ることにした。
「……ま、これからどうなるかはわかりませんけどね♪」
こうして、この日の元魔王の診断は終了。
二人で仲良くお菓子を食べなつつ、ゴーレムたちが収穫する様を眺めるのでした。
なお、納品日。
「すまん!納品してくれてすぐのところ悪いが、追加で100袋頼む!」
「……だ、そうです♪
キノコ退治頑張ってくださいね♪」
「!!?!?!?」
さもあらん。
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