第6話

このゲームには、様々なカテゴリーアイテムが存在する。


例を挙げるなら、消費アイテムから、装備アイテム、素材に家具。

果てには、換金用アイテムから不動産アイテムまで、種類を上げて行けばきりがない。

さて、そんなアイテム群の中に【勲章アイテム】と呼ばれる類のアイテムが存在する。

このアイテムは仰々しい見た目をしながら、別に使用することはできず、かといって売ることもできない。

そう、なぜならこのアイテムは文字通り勲章であり、強大なモンスターや難関クエストを達成した証だからだ。

だから、仰々しい説明文や立派な見た目をしていても、基本的にすべてそれは無意味。

1000人殺せる毒だろうが、食べると世界に真理を知れるなど書いてあっても、只の説明文。

ゲーム内の主人公の偉業を飾る、フレーバーテキストに過ぎないというわけだ。


しかし、そんな観賞用アイテムたちが、こと現実の世界になったなら話は変わってくる。

なぜならば、ゲーム内だとフレーバーテキストに過ぎなかった解説文もおそらくは事実として書かれているからだ。

1000人殺せる毒は危険すぎであるし、世界の真理とはいったい何のことやらだ。

しかも、運が悪いことに、私はこのゲームを一通り楽しんでいた自負があるため、この手の勲章アイテムは腐るほど持っている。

幸い、そのようなアイテムをたくさん持っていても、今のところ問題は起ってない。

とはいえ、このまま放置し続けるのも体裁が悪いし、時間経過で問題を起こさないとも限らない。


故に私はこの世界で生きていく上で、勲章アイテム不要と判断して、処分することにした。

もちろん、思い入れもあるし、もったいないという思いもある。

しかし、それでも、それは世界の安全と比較すれば、些細なことであるし、勲章アイテムを捨てることで平和が訪れるなら、万々歳だ。


だからこそ、そのためならば私は金を出し惜しまなかった。

危険勲章アイテムを処理できると思われる道具を買いあさり、専門書も用意した。

さらには、万が一に備えて、【真偽の裁断者】と呼ばれる危険アイテム処理のスペシャリストを、このためだけに雇った。


そして、私は信頼できる専門家の監視の下で、【勲章アイテム処理会】と称して、定期的に勲章アイテムを処分を試みるのであった。





なお、当日。


「おお!これは古の魔龍の心臓が結晶化したものですねですね!

 おそらくは、この魔龍は古文書に記された、堕落龍メイザーブだと思われます!

 噂によると、かの魔龍の魔力は膨大にして、凶悪。

 もしこの心臓に秘められた闇の魔力が解放されれば、たちまち周りは火の海と化すでしょう!

 え?処分?やめておいた方がいいですね。

 今は安定してますが、下手な刺激を与えるとどうなるかわかりませんので」


「……気を取り直して、おお!これは、万年氷結星ですね!

 これは、北の大地のごく一部でしか取れない、珍しい功鉱石です!

 長い間、この鉱石は北国にあるとだけ知られており、その正体は長年学者の間でも謎でした。

 しかし!実はこの鉱石は、ブリザードピポグリフの砂嚢だったんです!

 しかもこれは、状態がいいので見る人が見れば砂嚢だとわかるいい標本ですね!

 ええ、ええ、ですのね、後学のためにも大切の保存してください。

 た・い・せ・つ・に、ですよ」


「……ふぅ、最後にこちらは……ほぉ!ロコル病撃退記念のメダリオンですか。

 表面には、ロコル病の恐ろしさが。

 裏面には、いかにそれを撃退したかが。

 さらに側面には、この偉業を成し遂げた者への感謝の文字が刻まれています。

 状態が良ければ、召喚術の触媒にもなりえたのでしょうが、今はその効力を失っているのが残念です。

 ですがこの輝きと美しさは、歴史的にも学術的にも心情的にも、大変な価値があるものです。

 これが失われることは、人類史の敗北。

 そう、あなたが人類の事を思うのなら、これは残しておかねばならない宝ですね!!

 ……宝っつってんだろ!話聞いていたか?」


「は?ばか、これを壊すとかふざけんじゃねぇぞ!

 おい、馬鹿やめろ!

 ぐうおおおおおお!!!

 こら!!これを持っていくなぁああああ!!!

 やめろおおおおおおお!!!!

 があああああああぁぁああぁぁぁああぁ!」


もっとも、専門家である【真偽の裁断者】が勲章アイテムの処理に対して激しい抵抗をみせ、勲章アイテムの破棄は断念。

今回も危険勲章アイテムの処分に失敗してしまうのであった。



さて、場所は街中の高級住宅街、魔法による趣ある屋敷の大広間にて。

そこにある図書館とも実験場とも思えるような場所に、私達はいた。


「まったく!あなたと来たら!

 それほどの遺物を持ちながら、雑の扱うだなんて……。

 相変わらず、信じられません!!」


目の前の病弱ながらも気が強そうな女性の名は、マクナー。

魔法のアイテムをはじめとしたアーティファクトの専門家であり、この街随一の学者。

【真偽の裁断者】の二つ名を持ち、一応、魔導士ギルドにおける先輩でもある。


なお、二つ名の由来は彼女がありとあらゆるものの真偽を見抜く魔眼の持ち主であり、同時に非常に厳しいと噂の鑑定人だからだ。

それこそ、気に入らなければ本物であろうと、容赦なくゴミと称し、一度処分すると決めたら塵すら残さない。

そんな評判を聞いていたので、自分の危険勲章アイテムも、容赦なく処分してくれるだろうと期待したのだ。


「そもそも、あなたはここに持ってきている時点であの子たちがただのものではないと理解してるでしょう?

 それなのに、わざわざ私に見せつけてきて!その上で破壊するとか!

 馬鹿にしてるんですか?喧嘩を売ってるんですか?」


が、その判断は間違いであった。

なぜなら、この人は鑑定眼が良すぎるせいで、勲章アイテムがどれほど貴重かわかってしまうからだ。

おかげで、今まで一つも処分できなくて、【勲章アイテム処理会】は名前だけで【勲章アイテム鑑定会】になってしまっているほどだ。


「……なら、契約解除しますか?」


「は?するわけないでしょう。

 あなたに任せたら、貴重な人類の宝を壊す気でしょう!

 それこそ、私の命に代えても、あの宝は守らせてもらいますよ!」


しかも、厄介なことに契約段階で、双方の了承なしではこれらの勲章アイテムを処理できないようにしてしまったのだ。

その性で、こっそり此方で処分することも、勲章アイテムを隠すこともできない。

実力を隠すために守秘義務周りの契約を細かく設定したのが、仇となってしまった。

さらに、契約を無視するとペナルティが発揮して、死ぬようになっているのも面倒くさいだ。

え?チートプレイヤーなら、蘇生や食いしばり方法なんかを持ってるんじゃないかって?

死ぬのは、自分じゃなくて彼女だ。


「……だからって、本当に命を張るのは、やめてほしいんですけどねぇ」


「ならば、あなたが私に命を張らせなければいいだけです。

 それくらいできるでしょう?」


そして、彼女もそれを知った上で、自分の命を対価にこちらに脅迫してくる。

命は投げ捨てるものではない。


「はぁ、まったく無茶を言いますね貴女は」


つまりは彼女は、勲章アイテムが危険だからと言って、処分することにご不満なのだ。

勲章アイテムは強大で危険なものは多いが、長い目で見れば有益なものが多い。

それゆえ、あくまで彼女は処分ではなく保存という形で、対処していとのことだ。


「……まぁ、あなたの言うことは一理ありますね。

 ですが、やはり私としては、未来の負担になるくらいなら、すっぱりなくしたほうがいいと思います」


しかし、私はその意見に反対だ。

これらのアイテムは今は無害であっても、将来どうなるかまではわからない。

その被害を受けるのが自分なら全然かまわないのだが、それが他人を巻き込むのなら話は別だ。

例え、貴重であっても、価値があっても、有益であったとしても、処分するべきである。


「ですが、私こと【真偽の裁断者】が鑑定し、無害で安定していると認定しているのです。

 ……それとも、私の鑑定眼に不満があるとでも?」


「鑑定眼問題ありませんよ。

 ……ただ、貴重で学術的価値があるからといって、明らかに危険な物まで残す判断をしていませんか」


「……っふ、どうやら意見は平行線の様ですね」


この女郎、自分が不利になりそうだからと言って話を区切りやがったな?


「それに私とあなたの意見は違っていますが、こうして定期的に希少品の鑑定会を行う事自体は望んでいるはずです。

 ここで下手に喧嘩をするよりも、次の宝を鑑定する方が100倍大事です」


だが、自分は甘んじてその言葉を受け入れた。

なぜなら、こうして定期的に勲章アイテムを点検していくことは、処理すること以上に安全性を確保する上で大切だからだ。

安全性を真に確保するなら処理一択だが、定期的に点検していく自体は安全を確保する上で悪いことではない。


「……まぁ、個人的にはこの時間は嫌いでないです。

 むしろ好きですからね」


「え……ふぇあぁあえぇええ!」


「ええ、あなたの希少品に関する説明はわかりやすく、聞いてるだけで楽しいですから♪

 まぁ、それが処分する予定のものなので、耳が痛いですが」


「え、あ、ああ、そういう意味ですか。

 ……まったく、勘違いさせないでくださいよ、まったく」


そう呟くと、彼女は一瞬驚いた顔をしたが、また元の不機嫌そうな表情に戻ってしまった。


「無駄口叩いてないで、次の鑑定行きますよ。

 お互い、そんなに時間はないでしょう」


そうして、彼女と私は次なる勲章アイテムの鑑定に戻るのでした。






なお、1時間後。


『げっはっはっは!!

 ようやく、長年の封印が解けたぞぉおおお!!

 くっくっく、さっそく封印が解けた祝いに、我を封印した人類への復讐を……びべひ!』


「うん!これはやはり封印された魔王の魂で問題ないですね!

 もっとも、これほどまでに弱体化しているのは、もともと弱いから、封印の影響か。

 はたまたは、時代により私たち人類が強くなったからか!

 複数の側面から調べる必要がありそうですね!」


「処分で」


「封印の質を調べるためにも、過去の魔王の強さを調べるためにも!

 これは、事情聴取及び保管一択ですね!」


「処分で」


「……どう考えても!ここで殺したほうがめんどくさいことになるでしょう!

 それに、後に同じような封印のものが出た場合に備えて、調べる価値があるでしょ!」


「処分で」


彼女と私は、勲章アイテムの処遇で、互いに口論に、金と魔法の実弾が飛ぶ大激戦になったとさ。


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