第2話

言わずもがな、私の体の元になったと思われるキャラクターは結構やり込んでいた。

強敵の単独撃破はもちろん、高難易度クエスト、特別依頼に至るまで。

ゲームのあらゆる要素をやりつくしたキャラだ。

当然、いくつもの技能を極めており、ステータスだけでおおよその事は常人以上できる。

ましてや、ステータス変動に影響を及ぼす料理ならなおの事だ。


「……っと、いただきます」


かくして目の前に並ぶのは、目の前に並ぶのは自らの手で作ったごちそう達。。

一汁三菜というわけではないが、白米に汁もの、おかずが三つというバランスだ。


「まずは、汁物から……」


まずは、ズズズとお椀に入った汁物を飲む。

もっとも汁の中身は味噌汁ではなく、スープであり、それも羊の乳を使った子羊のスープである。

本来なら、癖が強いであろう両者は、鮮度がいいことも羊の乳の滑らかな触感と子羊の肉の強いコク、さらには玉ねぎの舌触りが合わさり、うまい具合に調和していた。

ほんのり隠し味の味噌もいい味を出している。


「スープというよりはシチューですね」


次に手を付けるのは、肉料理。

肉に風味と柔らかさを出すため、カットした肉をザクロのペーストと砕いたクルミで一緒に煮込んだものである。

ほろほろと口の中で崩れる肉はもちろん、果物たっぷりのソースがその味を補強しているのだろう。


「ふむふむふむ……」


そして、間に入るのは創作料理。

肉を小麦で包み焼いたものである。

しかし、小麦の量はあくまで抑え気味に、そして何よりも肉は異世界特有の巨大なカエルの肉でやっているため、硬めの皮を破ればいつまでも止まらない肉汁があふれ出す。

肉まんというよりは春巻きなんかに近い感じだろう。


「あちち」


最後に手に取るのは、サラダとご飯。

サラダは未熟成の果実とサケフレークをふんだんに使い、辛~いドレッシングをかけた酸っぱ辛いサラダ。

それらをすべてを、銀シャリの白さで包み込んだ。


「……うん、うんうん……」


そして、それらがプロの、いやプロ以上の腕を持つシェフによりなされているのだ。

となれば言うことなど、一つだけであろう。




「……食い合わせ、わるぅ」


思わず、渋い顔をしたくなるような雲合わせであった。

正直に言えばどれもがおいしい、毎日にうまいものを食べているせいで舌が肥えてしまっているのも否定できない。

でも、肉料理3品ですら厳しいのに、シチューとビーフシチュー、それにご飯とフルーツサラダの組み合わせはいかがなものか?


「……おかしいですね、和食のセットになるはずでしたが……」


実はこれには訳があるのだ。

本来、ゲームでの調理のスキルとは1つの食材か、特定の2つの食材を組み合わせることで完成するのだ。

しかしながら、食材の種類によってできる料理はある程度は固定されているものの、完全な指定は不可能となっているのだ。

もちろん、調理スキルを使わないことや、加減する事。

実際に丁寧に調理することでこれらの悲劇を避けることはできるが、面倒なためそれをしなかったがゆえに悲劇であった。

まさか、鮭と大根の組み合わせで酸っぱ甘辛いサラダが出来上がり、味噌と玉ねぎの組み合わせで羊のシチューへと舵を取るとか、誰が予想できようか?


「面倒だから、朝食くらいは……と思いましたが、予想が甘かったようですね」


まぁ、幸か不幸かこの体はどんなに無茶をしても体型が崩れることはまずない。

そのおかげで、朝からこのようなものを食べても気分が悪くなることはあっても、お腹を壊すことはない。

が、味や食材の偏りがひどい上に、なまじ完成度が高いせいで料理同士が口の中で大喧嘩しているのだ。

正直、途中で投げ出したいが、食材を無駄にするのは自分の美学に反するので、なんと朝からその癖つよ料理どもを何とか自分の胃に収めた。


「……フルーツでも取りに行きますか」


かくして、私は食べ納めと食後の運動をすべく、自宅の外へと出かけることにしたのでした。





「……というわけで、お口直しにとってきたのが、こちらの巨大ワニとなっておりま~す♪」


「何が、というわけだ!

 ここをどこだと思ってるんだ!」


さて、場所は変わって魔導士ギルド【黒猫の鳴き声】。

そこで私はとれたて新鮮のワニ肉を手土産に、ギルドへとやってきたのであった。


「というか、本当にでかいワニだな。

 こんな大きさのワニなんて、聞いた事がないぞ?

 いったい、どこで仕入れてきたんだ?」


「まぁ、家の近くにある森で口直しの果物を探していたときに。

 ちょうどこちらに襲い掛かってきたので、つい」


「どんな立地だ!?

 というか、お前が取ったのか!?」


なお、今世の家は少々人里から離れたところにあり、周囲にうっそうとした森に常闇の洞窟、さらには少し進めば火山まであるベストスポットである。

そのおかげで、家を出てすぐに採掘やら冒険ができ、なかなかに楽しい立地なのだ。

もっとも、その際で少々珍しすぎる生き物や想像だにしない危険に遭遇することがあるが、まぁ、それも愉快なサプライズとして、十分許容範囲内だ。


「……冗談ですよ、冗談。

 親切な猟師の方が、いましてね。

 捕まえたのはいい物のいらないそうなので、引き取ってきました」


「なんだ、びっくりさせるなよ、一瞬信じかけたぞ。

 というか、よくこんなのを買ったな。

 安くなかっただろうに」


なお、根掘り葉掘り聞かれると面倒くさいため、今回はごまかしてみたが、技能の高さもあったためか、あっさりと信じてくれた。

……だました本人が言うのもあれだが、あっさりと信じすぎて、心配になってくる。


「ふむ、どうやって手に入れたかは分かったが、それをどうする気だ?

 おそらく、そのわに革でカバンやら靴やらを作るためだと思うが」


「まぁそうですね。

 ですが、鮮度がいいため肉は調理してしまおうかと。

 ですので、厨房を借りたいのですがよろしいでしょうか?」


「いや、かまわないが……。

 こんな大きな肉を一気に調理できるのか?

 というか、そんなに作って食べ切れるのか?」


「調理に関しては、ご心配なく♪

 大量に作るのは慣れていますから。

 まぁ、食べることに関しては……まぁ、どうやっても食べ切れないので、お願いできますか?」


「……!!いいのか!?」


「ええ、もちろんです。

 あ、どうせなら、お金も渡すのでいくつかパンも見繕ってくれますか?」


「……おう!まかせろ!

 最高のワニ肉に合いそうなパンを見繕ってやる!」


お金を受け取ると、まるでお小遣いをもらった子供のように、元気よく彼女は飛び出していった。

そんな姿に微笑ましさを感じながら、ワニ肉を厨房へと運び、そして準備をする。


「……とはいっても、材料を並べるだけですけどね」


ドライフルーツや油、香辛料といった材料を円状に並べ、真ん中にワニ肉を置く。

さらに盛り付けるための食器も用意すれば、準備完了。

自分の心の中のメニューを指定し、メイン食材を指定する。


「技能、調理、選択、ワニ肉計300人分」


今回はサブ食材を選択せず。

一応、サブ食材を選べば、ステータス上昇効果の増幅や隠された効果、さらには味自体もよくなる。

が、今回は単純にワニ肉の量が多すぎる上に、サブ食材を使うと調理結果が読みにくくなるのだ。


「準備完了、調理開始!」


掛け声とともにスキルを発動させ、調理が始まった。

ワニ肉が浮かび、皮を剥ぎ、食べやすい大きさに切り分けられる。

周りに備えていた香辛料やドライフルーツも浮かび、肉に向かって引っ付いていく。


「……ん!」


一瞬、集中力が切れそうになるも、スキルの導きに従い、なんとか食材の動きを制御し続けることに成功。

このように、ゲーム時代と同じ方法で調理すると、大量に、かつ、高速で調理できる。

が、その分集中力を持続するための魔力とスタミナを消費するのだ。


「肉を薄くスライスして……。

 それをじっくりとろ火であぶって……」


その上、そんなに集中して調理しているもんだから、調理結果など分かるわけもない。

もちろん、数が少なければ多少はマシになるが……大量調理の時はまず無理だ。

唯々スキルのお導きのままの、なるようになれの勢いてやっている。


「……まぁ、もっとも、できる物はほぼ確定ですが」


しかしながら、今回はメイン食材はワニ肉一本だけなのだ。

自分の中の統計的に、メインが肉類一本勝負だと、ほぼ確定的にステーキ、もしくはハンバーグになることが多い。


「人にごちそうするものですし、お遊びはまた今度で」


かくして、私は目の前で動く食材を、料理へと変えるのでした。






「……あら?」


そして、失敗してしまった。

いや、正確に言えば、調理自体は成功したが調理結果は自分が望むものではなかった。

今回は人にごちそうするためのものであるため、味が第一、二番目に見栄えであり、その場合はステーキか、もしくはハンバーグかカツレツ辺りが望ましかった。


「………なんで、【ぺミカン】なんてできてるんでしょうね」


だが、出来上がったのは別物であった。

高カロリーの肉料理であり、獣脂や油と混ぜて作られる。

いわゆる煮凝りを固めたものであり、長ければ10年以上保管な保存食の一種だ。

過去には婚礼式など特別な機会に食べることもあったともされてはいる。


「いや、でも今回はないですよねぇ」


しかしながら、ぺミカンを特別な時に食べるなどそれこそ、過去の一時だけ。

肉がそれなりに豊富なこの地域では、そんな文化はあるとは思えない。

味は濃い目に味付けされており、大量に食べるのには向いていない。

なにより効果がそれを肯定している。


「【腐敗無効】【満腹度上限上昇】とか……レアなんですけどねぇ」


珍しいけど、今ではない。

味を表すグレードもステーキなどに比べれば一段階したであり、少なくとも会食用とはいかないだろう。


「……さて、どうやってごまかしますか。

 とりあえず、べつのお肉料理と入れ替えるとか?

 しかし、別のお肉料理を今から作るにも、材料と時間が……」


「とりあえず、パンを買えるだけ買ってきたぞ!

 ……って、おお!もうできているのか!」


自分がこの大量の保存食をどうしようかと悩んでいる間に、買い出しに行ったはずの彼女が到着。

この大量のぺミカンを見られて知った。

相変わらず仕事が早くて優秀であるが、今この時に限り嬉しくない。


「うむ?めずらしい食べ物だな!

 肉の中にドライフルーツやらが入っていて、どっても豪華だな!

 なんだ、今日は祝い事か?こんなごちそういいのか!?」


「えっと、あの……はい」


量が量なので、ぺミカンを隠すこともできず。

さらには、批評され、勝手にべた褒めされていく。

褒められることのうれしさと、目的ものと違ったものであることの気恥ずかしさで色々と対応が遅れてしまう。


「よしそれじゃぁ、一口いただくぞ!」


そうこうしている間に、止める間もなく、試食されてしまい……。




「………~~!!うまい!!!」


そして、喜ばれてた。


「いや、なんだこの料理は!?

 肉のうまさがギュッ!と凝縮されて、口に頬張った瞬間強烈な肉感と油が口に中を襲うのに、全然くどく感じないぞ!

 むしろ、脂の滑らかさと肉の旨味が舌全体を包み込んでいく!」


「アクセントのドライフルーツもいい仕事をしている。

 これは、山ブドウ?ともかくおいしい!

 ワニ肉ってこんなにうまかったんだなぁ!」


「おっと、いかんいかん!

 えっと、その……え!もっと食べていいのか!

 いや、悪いな!では遠慮せずにいただくぞ!

 今度は、パンに乗せて……~~んん!合う!最高に合う!!

 むしろ、このために買わせてきたのか!?そうなんだな!」


パクパクとぺミカンを食べる彼女。

その余りの笑顔と喜びっぷりは、こちらがこれは味を重視してない保存食だというのを言いためらわれるほどだ。

いや、むしろ言った所でそうかとスルーされか、冗談だと受け止められるだろう。

というか、このぺミカンは満腹度がたまりやすいはずなのに、彼女は食欲はまったく衰えない。

むしろ、増しているほどだ。


「……!いかんいかん、作った人を置いてきぼりにしていたな。

 パンを用意して十分に塗りたくって……よし!たべてみろ!飛ぶぞ!」


さて、差し出されたものを断るわけにもいかず、渡されたものを口の運んだ。

すると口の中に広がるぺミカンの旨味と風味。

癖と脂身に少ないワニの肉だが、それを骨髄の油でうまく補っている。

ドライフルーツは、味が薄いものがメインで、自己主張しすぎず、サポートに徹していた。

そしてパンは普通のバゲットだ、しかしシンプルな分だけむしろぺミカンと合わせるのにはぴったりだ。

総評すると、よくできたぺミカンだ、それ以上でもそれ以下でもなし。

今朝作ったご飯と比較するをワングレード落ちてしまう、そんな味だろう。


「……まぁ、悪くないですね♪」


「む!おまえ、おいしいときはおいしいって言え!

 いかにお前が作って、奢ってもらってる立場とは言え、この料理のうまさを軽んじることは許さんぞ!」


「じゃぁ、おいしいです」


「心がこもってない!

 が、この料理のおいしさに免じて許してやろう!

 まだまだたくさんあるんだ、作ったのはお前だからな。

 代わりと言ってなんだが、パンの上に塗るのは私に任せろ!」


しかし、このぺミカンはおいしかった。

彼女が、ペミカンを乗せてくれたバゲットをほおばるたびに、笑顔がこぼれそうになる。

少なくとも、今朝食べた料理では比較にならないほど、満足感を得ることができた。


「……ま、たまには、こういうのもいいですね♪」


なお、その後は魔導士ギルドに訪れた他の人にも、ペミカンをごちそうし、その日の【黒猫の鳴き声】は終始ペミカンパーティが繰り広げられたとさ。

だが、それでもペミカンは残ってしまったが、ペミカンが保存食なこともあり、持ち帰りを許可したところ、争奪戦へと発展。

後に、【初代ペミカン争奪戦】として名を残す一大イベントになるが……またそれは別のお話である。

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