TS主人公のチートスローライフ(仮)

どくいも

第1話

――かつての私は、ゲームの主人公は男であるべしと考えていた。


理由は簡単だ、ゲームの主人公とはすなわち、自分の分身アバターだからだ。

見たこともない異世界で、格好いい主人公自分が活躍するのを見て悦に浸るのがゲームであるはずだ。

それなのに、どうしてわざわざ別性別の選ぶ必要があるのだろうか?


しかし、中学辺りから女性主人公物の良さがわかるようになり、高校の頃には半々に。


そして、大学に入って、主人公の性別は男より女になっていた。

理由としてはゲームの主人公と自分を同一視できなくなっただとか、ネタ選択肢を選びにくくなるからだとか、いくつかの理由がある。

が、一番の理由は、長時間ゲームをする際に、一番多く眺めるのが主人公の背中だからだろう。

自分はノンケだ。

長時間見続けるなら、男のケツより女の尻が良い。

だからこそ、私は長時間プレイを前提としたオンラインゲームなどでは、主人公を男キャラではなく女キャラで始めたのだ。


――しかし近年、再び主人公は男であるべしと思い始めるようになった。


なんでそんな突然と思うかもしれないが、これにはれっきとした理由がある。

男キャラのほうが落ち着く、女キャラだとバカなことがしにくい、いちいち衣装を変えるのがめんどくさいなど、上げ出したらきりがない。

だが、まぁもっとも大きな理由はこれだ。


「……で、どうですか?」


「……いや、何のことだ?」


「いえ、いつもと何か見た目変わってませんかと思って。

 この魔導書に書いてあった変身魔法を試してみましたが、何か効果あるかなぁと。

 本によれば、一週間やるとみるみる姿が変わるそうですが」


「……悪いが、全然変わってないぞ?

 というか、その本は本当に魔導書か?

 私にはただの体操の本に見えるんだが」


とりあえず、ゲームの中と言えど、節度を持った見た目にしよう。

せめて、もう少し性癖は抑えた感じに、だ。


★☆★☆


さて、改めて自己紹介しよう。

私の名前は前世■■■■、今世レム。

華々しいゲーム世界転移を決めた元ぬるゲーマーTSおじさんだ。

もっとも、ゲーム世界に来たといっても、それか真実かわからないし、来た原因すらわかっていない。

理由を探ろうにも、ある日突然異世界で目が覚め、自分がプレイしていたキャラに乗り替わっていたため、ヒントなどなく、調べ様すらないというわけだ。

幸い、自分の体はゲームをプレイしていた時から引継ぎであったためか、レベルはそこそこ高くはあるし、アイテムなどの物持ちもいい。

初期地点にも恵まれており、さらに家から一番近い町は住民もいい意味でおおらか、悪い意味で適当。

そのため、ここに降り立ってから今まで定住しているというわけだ。


「う〜ん、やっぱり外れですかぁ。

 怪しいとは思ったんですよね。

 魔力を使わない魔法な所とか、効果が出るまでに2週間以上かかることとか」


「いや、その時点で気付けよ。

 魔力を使わない魔導書なんてあるわけがないだろう」


「いえいえ、物は試しと言いますし。

 これで、うまく行ったら儲けものですので」


「まぁ、そう言われればそうだが……」


「まぁ、今回は結果として100ユーンの出費で終わりましたが、これは必要経費として割り切りましょう」


「損してるじゃないか!このおバカ!」


この様になんだかんだ異世界生活に適合しているなか、唯一の悩みというか、困っている点がこの体だ。

出るとこは出る、引くところは引く。

顔面も整っているし、痘痕も黒子もない。

なんなら、目元がくりっとしていて、実に理想的な体だと言えるだろう。

だがしかし、元男である以上、女の体というだけでマイナス。

色々と眼に毒であるし、なんなら美しすぎて少々目立つ。

さらに、口調も意図せずとも丁寧口調であり、所作も油断すると逆に整ってしまうのだ。

おかげでナンパや声掛けはしょっちゅう、ついでに異世界治安特有の誘拐に連れ込みも珍しくない。

隠れ身の魔法がなければ、どうなっていたことやら。


「……はぁ、せめてもう少し小さければよかったんですがねぇ」


「……嫌みか?

 もしくは、胸が小さい私に対する、宣戦布告か。

 喧嘩なら受けて立つが」


「どこがとは言ってませんよ?

 というか、あなたも言うほど小さくないでしょうに」


まぁ、最近は性別はあきらめてきているし、所作に関してはある程度制御できている。

だから、これに関してはできれば、といった感じではある。


「まぁ、余談はこれ位にして、そろそろ商売の話に行きますか」


「まったくもってその通りだ、人の時間を何だと思ってるんだ」


さて、今私がいるのはこの地にある魔導士ギルド【黒猫の鳴き声】だ。

建物全体はやや薄暗いものの魔法により光量が調節されており、いるだけで魔導の深淵に触れられそうな場所である。

ゲーム時代には金策や物質調達でお世話になった、思い出深い場所だ。


「はい!では、今回納品する品々です」


そして、それは現実になっても変わらない。

所属するだけで、適正な値段でマジックアイテムの数々を買い取ってくれる、非常に便利な所だ。


「ふむ、封よし、安定性よし。

 魔力反応も、もちろんよし!

 相変わらず、いい腕をしているな」


「ありがとうございます♪

 右から順に、対外傷、活力、抗疫、魔力となっています。

 対外傷と活力は定期依頼で。

 抗疫と魔力は臨時依頼のものですね」


そういうと、彼女は薬を手に取り、順繰りに鑑定している。

なお、この手の納品依頼ともなれば、めんどくさくて鑑定をスキップする人がいたり、逆にいちゃもんを付けてぼったくろうとしてくる鑑定士もいる。

しかし、彼女は毎回鑑定したうえで上で、値段をつけてくれる。

人によっては面倒くさいともいうかもしれないが、私としては信頼のおけるいい鑑定士だと思っていた。


「うむ!今回も問題ないな!

 それじゃぁ、待ってろ。

 報酬の方を持ってくる」


彼女はそうやって礼を言うと、奥の方へと行き、そして金を持ちだし、戻ってきた。


「1,2,3……はい、大丈夫です。

 ありがとうございます♪これで今週も生きて行けそうです」


「何を馬鹿なことを。

 そんなに報酬をもらって生活が苦しいとか、どこの貴族令嬢だ。

 そんだけ渡してるんだから、せいぜい長生きしろ」


ぷりぷりとこちらの身を案じ、叱りつけてくる。

なお、彼女の言う通り今回の依頼報酬は、単純計算にして成人男性の月収3か月以上だ。

彼女が文句を言いたくなる気持ちもわかるというものだ。


「いえいえ、ですが一般的なポーションや薬というものには原価というものが存在していまして。

 材料費や作業時間を考えると、実際の報酬なんて、スズメの涙ほどですよ」


しかし、高いのには高いなりの理由があるわけで。

外部の薬師の商売というのはなかなかに厳しいものなのだ。

例に挙げると、材料集めをのために護衛料や季節による素材の有無。

原材料の選定に、調合方法や調合期間。

そこまでやってできたポーションでさえ、客の機嫌一つで値段が変わってしまうのだ。

とてもとても、気軽に始めるには向いてないと言えよう。


「む、いや、そうだな、すまなかったな。

 お詫びと言っては何だが、わりのいい仕事を紹介しようか?

 今より少々忙しくなるが、報酬はたっぷりもらえるぞ?」


「あ、結構です。

 特に、お金には困ってませんので。

 というか、私の薬はその辺の草が材料で、作業も基本放置が主体ですので」


「……これ、私が怒ってもいいよな?」


まぁでも何事にも例外はあるわけで。

元のゲームでは高レベルのキャラであったため、ほどほどの材料で簡単な工程でもまぁまぁのレベルポーションを作れるのだ。

まぁ、そういう意味では元の世界よりもいい生活をしているともいえるし、インターネットや漫画などの娯楽はないので不自由な暮らしをしているといえるだろう。


「というわけで、今回の仕事は終わり!

 日がな一日、優雅にお菓子片手に魔導書を読んで過ごしますか」


「まったく、お前は相変わらず気楽で羨ましいな。

 私の方は、これから書類仕事だ」


「なら、やめてみますか?

 私なら週休4日昼食昼寝付で雇ってあげますが」


「……少しだけ、心惹かれるからやめてくれ」


かくして、私は今日もこの世界でほどほどに生きてくのであった。

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