第3話 異世界

 イデア王国? ルーア領? そんな国一度も聞いたことがない。もしかして本当に異世界にきてしまったの⁉︎


 混乱している頭を抱えていると肩をポンっと軽く叩かれた。彼の方を見ると彼は落ち着いて口を開く。

「どうした?」

『えっと…、イデア王国?という国を聞いたことがなくて…』

 彼は腕を組んで「そうか」と呟く。

「ここは何十年も前に滅びた国だ。お前の着ているここらでは見ない服装からして近隣の国の者ではないとは思っていたがお前はどこから来た。」


 私は今まで存在したすべての国を知っているわけではないからここが絶対に地球では無いとは言いきれない。でもこのセーラー服を見たことないと言うことはやはりここは日本ではないし、ヨーロッパの方だったらこのセーラー服を見たことないにしてもこのようなデザインはヨーロッパから来たものだから似たような服はきっと見覚えがあるはずだと思う。てことはやっぱりここ日本どころか地球ですらないのかな……。

 でも、口パクでは日本語が普通に通じているし……。


『私は日本という国にいました。それに私のいた国ではこの服は学校時に着用する制服です。』

 それを聞くと彼は席を立ち、筒状に丸められた紙を持ってきてテーブルの上に広げて指をさす。

「イデア王国はここだ。日本という国はどこにある?この地図にはそんな国は載っていないはずだが」


 私の知ってる世界地図と違う.....。

 大陸が二個しかなくて、書いてある国名も一度も聞いたことのないものばかり......。


『私はこんな地図知りません。私のいたところは六個の大陸があって、そして一番大きな大陸の東にある島国が日本で……。』

『やっぱり私、異世界に来たのかな。』

 その美海の口の動きを見た彼は一瞬だけ目を見開いた。

「なるほど、異世界か。」

 そう言うと、彼は少し曇った顔をする。

「まあ、その可能性が一番高いな。というかほぼ確実にそうだろう。」


 彼のその表情と口の動きを見て、美海は絶句した。そして自然と目から涙が溢れてしまった。

 最初は異世界転生なんて絶対ないと思っていたからそうだったら面白そうと楽観的に思えたがこれが現実なのだと分かるともうダメだった。漫画なんかでよくある異世界転生や転移では元の世界に戻れる話なんてほぼない。

 自分ももう元の世界に戻れないのではないか、家族に、友人に会えないのではないかと言う不安に襲われ、俯いた。

 

 そして息が自然と荒くなる。

 

 その時、美海の視界に彼の指が現れる。

 顔を上げると彼が喋り出す。

「落ち着け。とりあえずそれでも飲め。」

 彼が先ほど淹れていた紅茶を指さしながら「の・め」と再び口を動かした。

 美海はそう言われると淹れてもらっていた紅茶を一口飲んだ。


 んっ、ちょっとぬるくなってる。でもすごく美味しい。少し落ち着いてきたかも……。


 一息つくと再び彼の方を見る。


「落ち着いたか?」

 美海は頷く。

『でも、ここが仮に異世界だとしてどうして私はこの世界に来たんでしょう。』

「それはおそらく私のせいだ。」


 えっ⁉︎ どういうこと?


「私はこの実験室である研究をしていたんだ。」


 研究?


「どんな研究かは言えないがちょっと危険なものでな。詳しいことはわからないが、おそらくこの研究の失敗がこの原因を生み出してしまった。時空が歪み、お前はこの世界に来たんだと思う。」


 時空が歪む? そんなことがあるの? 

 てか、この人の実験のせいで私はここにいるっていうこと?

 でも、失敗が原因ってことはこの人もわざとやったわけではないということだし……。

 

 美海は誰を責めればいいのかわからなかった。明らかに自分のせいではないだろう。この目の前の人のせいであるかもしれないがわざとではない。つまり誰のせいでもないのだ。

 そして失敗により偶然起きた出来事ということは彼は私を元の世界へ戻す方法を知らないという可能性が高い。

 美海はどうすればいいのかわからなかった。

 先ほど落ち着いたばかりなのに美海は混乱してしまう。

 

 この先、自分はどうすればいいのか。


 混乱のあまり、美海の目は開いていても目の前の男のことを映しておらず、彼が何回も口を動かし話しているのに気づいていなかった。

『私、帰れないのかな……。』

 美海のポツリと動いた口と共に、目からは一滴の涙が溢れ、頬を伝う。

 その様子を見た彼は美海に腕を伸ばして少し強く肩を掴む。

 それによりやっと美海の目に男が映し出される。

「本当にすまない。全て、俺のせいだ。」

 彼が美海に向かって申し訳なさそうに謝る。

 美海はいっそ目の前の彼を責めたかったがそれはいけないことだと思い、なんとか踏みとどまった。そして急いで涙を拭う。

『いえ、あなたのせいじゃありません。ただの不慮の事故なんですから。しょうがないですよ。』

 彼の言葉と表情は、自分はもう元の世界には帰れないということを物語っていた。

 

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