三年

「なにこの匂い」

 私はいつも通り帰ってきて早々抱きついてきた彼の顔を手で押し返した。


「え、え、なに?」

 ちょっとびっくりしたような彼の顔がむかついた。

 気づかれないと思ってるんだろう。

「知らない女の匂い付けて帰ってこないで」

 言うが早いか私はリビングに避難した。ソファにボスンと座って体を撫でる。私にまで匂いが移りそうだったからだ。

「あの、あずさ、いやこれは違うんだ……ちょっといろいろあって……」

 言い訳しようとする態度にも鼻息が荒くなる。

 ちょっとって何。

 何がちょっとあったら知らない女の匂いが体から香ってくるわけ?

 いつもなら二人揃ってから食べる晩ご飯も、今日はそんな気分じゃなかった。

 用意しているご飯を一人でパクパクと食べ、戸惑っている彼の間をすり抜け二階に逃げる。


 彼と私は、この二階建ての広い一軒家に住んでいる。

 私の方が彼の家にお邪魔する形で住み着いたもんだから、どうして彼がこの広い一軒家に住んでいるのかは知らない。

 知らないけど、聞く必要もない。

 彼は無駄に広い家で生活するのに、移動しやすいよう寝室は一階に置いていた。

 二階はもっぱら物置部屋になっている。

 そのうちの使っていない部屋に滑り込み、私は朝まで籠城することにした。


 今日は彼一人で寝ればいいんだ。

 寂しくったって知らない。

 廊下から聞こえる彼の声を無視して、私は眠りに落ちた。

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