紅と好奇心

 ワルダ村で生物学者をしているルージュは、亡き父の遺志を引き継ぎ、日々研究に没頭していた。

 ある日の午前中、ルージュは部屋で紅茶を飲みながら新聞を読んでいた。その新聞はこの村で人気の新聞屋が書いたもので、多くの村人が好んで読んでいた。内容は、ワルダ村の経済や最近起きた事件、島内の出来事などが中心であったが、最後のページにはいつも、新聞屋の主人が最近気になったトピックが書かれていた。そこには、『謎の感染症見つかる 商人の証言』とあった。その記事の内容は、珍しく島外で起きた事件のようで、とある島に行った商人が商談を終えた航海の途中に、謎の病に罹ったと言うものだった。その病は奇妙なもので、掌が黒く変色してしまうというものだった。その他に体調の異変はないが、未開の森に入ったために何かの感染症でももらってしまったのではないかという締めくくりがなされていた。ルージュはその記事を見ながら「奇妙な病気があるものだ。」と呟き新聞を閉じようとした。その時、そのトピックの挿絵にふと目が行った。そこには鬱蒼と生い茂る森、大人が両手を広げても足りない程の太さの幹を持つ、空へとまっすぐ伸びた大木、そしてその木に触れる商人の姿などが描かれていた。ルージュはその挿絵をまじまじと見つめ、はっと息を呑むと、その新聞をひっ掴んで家を飛び出した。向かった先は村の新聞屋の家であった。ルージュは新聞屋の主人の家の入り口を勢いよく開け放った。

「すみません!新聞屋のご主人いらっしゃいますか?」

家の中には白髪混じりの初老の男性がデスクに座り、目を丸くしている。

「一体何事でしょう?」

新聞屋の主人は怪訝そうにルージュに尋ねる。

「この新聞記事について聞きたいことがありまして…!」

ルージュが肩で息をしながら、握りしめてしわしわになった新聞の一つの記事を指差しながら伝えると、主人は

「ああ、それね。」

と分厚い眼鏡を下にずらしながら頷いた。

「この記事はあなたが…?」

ルージュが尋ねる。主人は作業台の椅子から立ち上がると、

「そうだよ。何か気になることでも?」

とルージュの方に近づきながら返した。

「この話はどこから仕入れた物なんですか?」

ルージュは投げかけた。主人は新聞を一緒に覗き込みながら話し始めた。

「私も色んな方法で情報収集をしているのだが、この話は一昨日、島外で発行されている新聞記事の中から見つけたんだよ。海岸のところに死体を乗せた小舟が漂着していてね。その人が読んでいた物だったんだろう。島の外では日々面白いことが起きているみたいだ。」

ルージュは島外ですか…と小さく呟くと、主人の方に向き直って伝えた。

「あの!この島の歴史とかに詳しい方を知りませんか?」

突然のルージュの質問に、少しの間店主は考えて、

「だったら、村にいるアンバーという男を訪ねてみるといい。彼は考古学者でこの地域の歴史についての研究をしている。親切な男だ。きっと色々教えてくれるはずだよ。」

とアンバーの住所を紙に書きルージュに手渡した。ルージュは紙切れを受け取りながら礼を言うと、急いでその場所へと駆けて行った。


 


 


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