第22話 建ニと広巳のその後

 弟建ニは大都市から離れた我々の町から、大都市から逆の方向の中堅の大きめの町の駐屯地へ配属になった。

 遠距離恋愛かと思われたが、両親の取り計らいにより恵子は、そこの町にアパートを借りた。

 建ニ19歳、恵子20歳のことである。


 3ヶ月の共通教育訓練を終え、配属先駐屯地で専門教育を受ける。

 念願かなって武器隊に配属になったが、車両担当で、ミリオタによくある重火器への興味から はじめは拗ねていたが、車にのめり込むようになった。

 専門教育訓練の期間は時間に厳しい。しかし専門の技能に向かっていけるだけ楽しいと言う。

 建ニが武器隊の教育隊に入ってから1ヶ月後くらいに恵子はアパート暮らしをし始めたが、彼女はその町で求職をしてパートに就いた。アパートの契約にかかる諸費用は親が出した。

 それからまた親の出費で車の免許も取得。


 それから後々2人は、最長1ヶ月くらいの別居や喧嘩を繰り返しながら収まっていく。

 建ニが陸曹候補生の試験を受けるようになって2人は入籍した。


 俺はもらいカップルには相当訝しんだが、もらい婚になってからは逞しいカップルになったものだと認めるようになった。



 広巳は30を過ぎても独身だった。両親と折り合いの悪い人によくあることである。

 バブル期にはあまり不動産に手を出さなかったが、会社の方は儲かったようだ。

 ただその会社は1990年代の終わり頃倒産してしまったが。


 彼は35歳でようやく縁があって結婚したのだが、時はバブル崩壊の最中の1991年だ。

 彼は東京と、こちらの俺の町の両方で挙式をあげた。

 その7年後の1998年彼の会社の倒産によって、一時家族は離散し、その年のうちに正式に離婚した。家庭の経済的問題は妻にしては受け入れ難い問題であった。


 それから政府の構造改革もあり、世の中の雰囲気も変わってしまった。


 広巳の別れた妻は離散後しだいに生活に困るようになる。

 帰った実家の北関東の付近のイチゴ農園の求人募集に応募して面接に行くと、そこの経営者いわくいつもなら求人を出しても大抵1人も応募してこないが、今回は求人チラシの公布される月曜日の朝から電話がじゃんじゃん鳴りまくり、結局40件以上の応募があったと言う。元妻もこの面接で落ちた。

 イチゴ農園と言っても泥仕事の単純作業である。オマケに最低賃金でフルタイムの勤務があるかどうかわからない。


 収入の望みを失った元妻は広巳に電話せざるを得なくなった。


 広巳は会社の倒産以来経営者としての道を歩んだ。規模は小さいながらも前職でのノウハウをいかして収益を上げていた。

 それから父修が病に倒れ、田舎の父の会社の経営にまで手を伸ばしている。


 東京の経営者によくある複数の会社を持つと言うのがある。

 広巳もその方向に向かったのだが、豊富な資金力があれば経営の行き詰まった会社の買収と言う手段もあるが、元サラリーマンの身ではそこまではいかない。

 経営が行き詰まったとは言え、少々のコストカットや資金注入や経営改革でもどうにもならない企業には誰も目を向けない。

 赤字が続きながらも何らかの資産のある場合は何とかなる他に、零細企業では経営に関する業務領域が広いとか、それが何かしらの方法で収入につながる見込みが高いとか、従業員の中に特殊技能や資格があり、それで収入の見込める場合がある企業は買い取るだけの価値がある。


 その頃には携帯電話が普及しており、FAXなどを併用して遠距離経営を可能にしていた。


 元夫に連絡したが広巳からの安い離婚慰謝料ではもう生活出来なかった。彼らに子供がいなかったし、会社倒産を理由に行き詰まった家を出たのは元妻の方なのだから。

 ここで広巳の会社に勤めるのに雇われるか、復縁するかと言う選択に迫られたのである。


不況が2人の再会を可能にした。

 金の切れ目は縁の切れ目だった。広巳は不景気を耐え抜いて経営者として成功している。不況のなか独身の経営者に目を向ける女性は必ず出てくる。

 広巳にはもう交際中の女性がいるのだ。それも20代の美女だ。

 広巳は40代なか頃の中年だが太っていないだけ成功者として引く手あまただった。

 それで結局元妻は広巳の事業のなかのコネで雇われることになった。


 40代の元妻をどこのポストで働かせるかは頭の痛い問題だ。

 広巳の会社はそれほど大きくないのである。事務受付担当の女性はすでに雇っている。支店などは無い。

 仕方がないので下請けの業者の中で当たり障りのないデスクワークのある会社を探し出し、見つけた。

 その会社の社長に頭を下げて元妻を業務に就かせてもらうことにした。

 東京の住居も広巳が提供し、給料も広巳の会社が出すことで何とかした。


 北国の父の会社で縁を切った元妻を送るわけにはいかない。

 この件について交際中の若いフィアンセは面白くないようだったが、その後広巳と結婚している。

 それからこの2人の際どい人間関係に挟まれながらも経営者として、夫として、元夫として何とかやっている。


この歳の差婚もその後のいくつかの試練を迎えるのだが、その度若き妻は帰って来た。


 

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