第16話 和美との流血沙汰と建ニの青春

 友人の言及は少ないが、前述の俺の友伊藤はハードロックにのめり込んでいる。

 レッドツェッペリンも好きだが、どちらかとディープパープルとレインボーが好きな方で、リッチーブラックモアを師と仰いでいるようだが、ギターは安価のイミテーションモデルの日本製を持っていて、テクニックはそれほど上達していない。

 ディープパープルのレコードを買うことに専心していて、元メンバーの作品も集めていた。

 そんなだから買っても聞いていないレコードもあった。

 キャプテンビヨンド、イアンギランバンド、ホワイトスネイク、ヒューズスロール、など、バーニーマースデンのアルバムを買ったあたりからそれを挫折しかけている。

 ニックシンパーのキャリアはアルバム数枚あったが、当時廃盤のようで、田舎では手に入らなかった。

 

 彼は、小学校の時の俺と同じクラスにいた斉藤と言う女子生徒と付き合い出して、今日に至っている。

 伊藤はこの町の、和美の町とは逆側の隣町の専門学校に通っている。入学は出来たが、講義が難しく、かなり頭を悩ましているという。

 

 伊藤はまだ斉藤と続いている。

 

斉藤は小学生時代から挑発的で活発で男子生徒をつかまえては、あれやこれやと言い合いをする女子で、あまりの口達者から魅力を感じていなかったが、卒業アルバムを見るとかなりかわいい顔をしている。

 そんな2人が引っ越しの手伝いに来てくれた。


 伊藤は和美を見て少し言葉に詰まったが、「いい女、美人」と言った。

 

 もう開口一番「かわいい」と言う要素がなくなって来ているのだろうか。

 いい女とは、美人と同義のようだが、心の中に自分の好みと、セクシャリティな色気を感じると言う意味を含んでいたように思う。この意味では使いにくくなり、死語になった。


 斉藤もお淑やかになったようで

「美人の奥さんね」

 と言ってくれた。


 自分たちと和美の学年が違うので、それ以前については互いについて知らなかった。通っていた高校も違っていた。

 当然、伊藤たちは俺たちが付き合っていると聞いていたものの、次に話を聞いた時にはもう入籍していると聞いて啞然としたという。当たり前の話だが。

 

 新婚水入らずでの生活に入ったのだが、この後親が主催の結婚式をした。

 盛大だったが疲れた。

 幼い頃から見慣れた多くの親戚も集まった。我々の親の世代は兄弟の数が多く、おじ、おば従兄弟の数も多い。和美の家系も同じだ。


 和美は全ての体裁が整ったことで少し安定し始めた。


 夜の営みは長い方が良いと言い出したので、どうするものかと思ったが、例の秋冬の不安定にしていたことを思い出したと言う。

 女性の自慰行為は果てることが無い。

 和美は学生時代(と言っても社会人半年しかないが)一晩耽ったこともあると言う。(と言うことは秋の夜長、朝明るくなるまでしてた)

 俺は和美のそこに長い時間顔を埋めることを余儀なくされた。その後のCと呼ばれる行為は甚だ淡白になる。

 いくら好き(和美のこと、女性自身のこと)と言え、長すぎるそれは萎える。自分の唾液の匂いにむせるからだ。

 それでも和美の満足そうな寝姿に幸福を覚えた。


 ある日和美は言いにくそうに言う。

「あのね、わたし妊娠したかも。そろそろと思ってた生理来ないみたい」

 少し驚いて、嬉しくなったが、何となくそうでない気がした。それに欲しがってたわりに信じるのも受け入れ難い気がした。

 それは良かったと言うと、和美は不機嫌になった。そして言う。

「何だお前、あれほど欲しいと言ってそんなもんか。(逆に)やっぱりわたしよりも子供の方が良いんだ」

 仕方なく答えた。

「和美はどうなの。子供が良いのか、俺が良いのか」

何秒か沈黙して言う。

「そうだな、まだ、ヒロシが良い。でも、やっぱりわたしも赤ちゃんが良いと思うよ」


 嬉しくなったが、和美が妊娠してその生活に耐えられるかどうかだ。


 時は10月も終わる頃、ほぼ毎日石油ストーブに火が入る時期になった。

 5階建ての鉄筋の公務員宿舎にはセントラルヒーティングが入っているが、空きがなかったので、空きがあった長屋になっている部屋に入った。

 その他の家具も実家から持ってきたものを使っている。

 石油ストーブと言っても、石油ファンヒータではない。このストーブは電気に繋がないモデルで、電池かマッチで着火させる。灯油は手動のポンプで給油する。真冬はこれではので、煙突式のストーブを焚く。

 俺の宿舎はその両方を使う。

 11月は煙突式よりも個室用のストーブを使うことが多い。この個室用は俺も和美も自分の部屋で使っていたものがあった。


 俺は昼間は役所だが、和美は宿舎にいる。和美は会社を退職してそんなにならないので、これからどうするか考えるところだ。

 21歳の力余っている身では一日中暇なのも困るだろう。

 

 こうして11月に入ったが、和美は生理になった。和美の想像妊娠未遂事件より何日かしか経っていない。

 和美は苛立つ。

「もーう、赤ちゃんできなかったよ。セックスも無しだ。どーすんのよ」

 言葉選びに困り果て、何も言わないでいた。


 シビックの夏タイヤをやっとスパイクタイヤに履き替え、馴れない作業に疲れていた。

 もう定時の課業終了時は外は真っ暗だ。

これから1ヶ月半かけて冬至になる。 冬至には15時の休憩時間には暗くなる。ただ、役所にはそんな定まった休憩は無い。


 冬至の頃には町はクリスマスのオルナメントの輝きが映えるようになる。外の暗闇がそれを引き立てるのだ。


 俺は和美と結婚して強くなった。そう、強くなったのは精力の方だ。

 生理中の和美をもてあそんでやろうと思った。

流血戦だが、何か俺を奮い立たせるものがあった。

 生理でない日の和美への長いクンニ、そしてC。もうお互い自慰専門じゃない。

 生理中の独特の匂いの中でも気が上向く。

 和美を抱き寄せ、膝の上に乗せる。和美の軽い体重なら抱き上げることも可能だ。

 和美のジャージの上からそこを触る。和美は言う。

「何すんだよ、今日は無理」

俺は茶化す。

「こんこん、オーイ、俺の息子か娘、元気か」

 和美は照れて言う。

「だから、できてって。生理が終わったら寝かせない」

 俺は茶化す。

「今日の和美は大人しいか」そう言ってそこを手でさする。

和美は言う。

「今日流血沙汰したら警察に疑われるぞ」

俺は言う。

「もう、流血だろ」

 和美の耳を舐め、口の中に入れた。和美は吐息になる。少し汗くさいが、それがまたその気にさせた。

 キスになるとしつこく互いの舌を舐めた。独身の時のそれを思い出す。

シーはしなかったが、愛撫は止まなかった。

 和美のアレが口に入る。それが凝固して俺の顔下半分が赤茶色になった。

 そんな夜も更けた。



 弟の建ニは自衛隊の曹学の試験受験のため頑張っている。

 これに落ちると常時募集している(毎月入隊を受け付けている)2等陸士隊員として入隊する。

今で言う季節隊員だ。

 当時、自衛官候補生と言うものが無く、始めから2等陸士の階級を与えられるが、共通教育課程と専門教育課程を終了し各職種の部門に配属されなくては自衛官として認められない、と言うよくわからない待遇だった。

 契約期間は陸上で2年で、この契約を満了前に部隊の承認を得て次の2年へ再契約すると言うことになる。

 この2年の契約期間前に陸士長に昇格すれば、陸曹候補生試験を受ける資格がようやく得られる。それから、その試験に合格して厳しい訓練や専門教育を受け昇進する。

 曹学は、途中の陸士長になるまでの期間を経ず昇進する過程なのでエリートコースと言える。

ただ、訓練も専門教育もある。

 

 建ニの学力では生徒と呼ばれる少年工科学校も防衛大学校も無理だった。

 当時の高卒程度の人の陸上自衛隊の入隊や昇進や入隊の仕組みはこんな感じだった。


 建ニのミリオタはアメリカのドラマの影響が大きかった。

 ドラマのコンバットを見て開眼し、テレビの洋画劇場で放映される軍隊物をよくチェックしていた。


 当時まだ日本は厭戦気分、戦前日本嫌悪が非常に激しく、ミリタリーや自衛隊には迫害気運さえ漂っていた。

 この趣味に没頭するのは変人と言うか、アンダーグラウンドの世界の住人と言う感じでもあった。

 兄の俺についても、流行らないロック好みと言う点ではアンダーグラウンドであったが。

 その1984年にやっと 特攻野郎Aチームがドラマ化されて放映され始めたが、彼のようなマニアは狂喜したことだろう。

 ただ、当時でもミリタリー雑誌はあったし、戦艦大和や武蔵の人気は凄かった。宇宙戦艦ヤマトが流行ったのは1970年代だ。


 この後自衛隊は、1985年日航機123便墜落事故、1994年阪神淡路大震災、2011年東日本大震災などの大きな災害を経てイメージの向上に向かう。

 それまでは、自衛隊なぞ不要な長物で税金の無駄とか、こんなものや、人(隊員)に自分の払った税金使われるのかなどと非難があったりして、国民が危険にさらされ無いように自ら盾になっている者に対して、後ろから刺されるような雰囲気だった。

 ただ、田舎に於いては、自衛隊や自衛官とその家族や関係者の比率の高くなる地域はこの限りでない。

 雇用条件を考えると、この道に進むというのも十分選択肢にあり得た。戦争が起こることは無い、という認識が強い時代だったのもある。


 ただ、幹部自衛官の階級でも、よほど高くない限り60歳よりも何年も前に定年退職を迎えるので、この点はリスクだ。60歳まで何年も勤めなければならないため、定年後就職しなけらばならない。


 建ニは俺と同じで、これだけお硬い職を勤めるのだろうか。

 早寝はするが、いくらか女性との交際歴があるようだ。その点では俺より少々奔放なようだ。



 建ニは和美の妹である恵子を見て、気にしだした。

 

 当時でも、ある程度の広さのある町では血はつながらないとは言え、義理の兄妹(姉弟)きょうだい同志で付き合うと言うことは聞いたこたがなかった。

 きっかけとしてはあるだろうが、そんな話は得ていない。

 建ニは恵子の誘いにのったのである。


 恵子とは言え、スナック勤めで忙しい身で、しばらくは男性との交際はなかった。

 勤め先で若くても中年でも、男性客から冗談でも、本気でも、酔った勢いでもそんな声をかけられることがあった。


 恵子は何でもかんでも男に手を出すと言うわけではない。早熟な人の早すぎる成熟なのか、交際相手以外の人と情事に耽ると言うことはなかった。

 初めのうちの恋愛、男の味を知った当初の 交際期間は短かった。

 本人も相手も未熟で、行為後の優しさの欠如が甚だしかったのだ。若すぎる男の子がイッテしまった相手に長い時間なかなか顔を見れなくなるのだ。

 

 恵子は捨てられたと感じて、落ち込んだ。この傷心を癒すように別の男性が現れる。

 そんな情事を伴う交際を経て、彼女は諦念を得ていた。


 恵子にとって早起きをし、早朝ジョギングする軍隊指向の体育会系は新鮮だった。

 DQN系解体工や配送運転手見習いのようなその日暮らしとは違う。

 もう傷心の癒えた恵子は建ニと話をしようと思ったのだ。建ニも義理の妹にいきなり付き合うと言う気でもなかった。

 そんな距離感も2人にとってとても新鮮に思えた。


 この場合、一学年上の恵子が姉になるのか?

この時点で、2人はもらい婚をしようなどと思っていなかったのだろうけど。


 恵子も建ニも自動車の免許を持っていない。

 当時高校3年生が18歳になっても、学校側が教習所へ通うことを禁じていた。卒業前の冬の時期に、内定した企業へ通勤等に必要な場合に限り許可していた。

 建ニは自衛隊にしか志望していなかったので、免許を取ることは考えていなかった。

陸士階級のものが車を持つ許可を得ることはかなり難しかった。とんでもない高額な貯蓄が必要だとか、とか…

 後に部隊内で大型免許(トラック)が取れるというのが巷の噂でよくあることだった。これも、全員がその教育課程に進めるわけではない。

 調理師の免許についても、皆が皆厨房勤務になるわけでもなく、ある程度の勤務成績優秀者がそれらの資格のうち、1つか2つかを取れると考えた方が良い。

 資格と言うからには本人の努力が必要なのは当然なのだが。


 恵子は高校時代から、年上の成人した運転免許を持っている男と付き合うようになった。

それが今の彼女の足はスナックの経営者の女性の車だ。

 建ニは兄である俺の車に乗ったことは無い。父の車でインフルエンザを拗らせたとき病院への送り迎えくらいだ。

 学生時代に自転車か徒歩で逞しく用を足していたのは、俺も建ニも同じだ。


 ある週末に、恵子の方が修とその車でまた佐藤家に来た。

 恵子はこの日休みを取っていた。そして、佐藤家にそのまま留まると言い、修は家に帰った。

 その後の恵子の帰宅は誰かの車で送ってもらえば、良いというノリである。

 佐藤家の町の方が、どちらかと都会なので20分かそこら歩けば徒歩である程度の商用施設がある。それを考えての来訪だ。

 このもらいカップルがアベックで俺の町を闊歩する。

 ただ、もう我々は公務員宿舎住まいなので、これらの話は後から聞いたことだ。

 結局このアベックはその時、俺たち夫婦の噂話で終始したらしい。

 それから、夜更けどちらかの親の車で、2人で和美の実家である恵子の部屋に建ニと泊まった。

 例によって修は不在なのか、この2人が来たので、それから外出したのか不明だが、とにかく2人きりで泊まったのだ。

 困ったことだが、2人はそういうことになったのだ。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る