第37話 昔
「......」「ぷーくすくす」
ダンス中に茜を見すぎ!と注意された俺。とっても恥ずかしい。茜も気恥ずかしそうに赤面してうつむく。隣のアッティはにやと笑っている。飯抜いたろーかなこいつ。
大黒は再び口を開く。
「お前はもっと集中するだけで全然違う。持っているモノが良いしな。というより、集中欠いててこのレベルなら......」
大黒がジッと俺の目を見据える。
「?、どうしたの」
「あ、いや。ホントに勿体ねえなと思ってな。そういやお前、名前は?」
佐藤響って答えて良いのかな。またややこしくなりそうだけど、もう今更変える方がややこしい。茜に不審がられたら嫌だしな......仕方ない。
「はいはーい!私はアッティ、こっちが佐藤響くんでーす!」
悩んでる間にアッティが答えた。
「佐藤響......お前、あいつと同じ名前なのか」
「ま、まあ。奇遇な事に」
「響さんは、響くんと親戚みたいなの」
茜がそういうと「あー」と大黒と子分が俺の顔を見ながら、うなづく。
「たしかに似てるっすね、大黒さん」「目元がそっくり」「こっちの響は可愛すぎるけども」「それはそう」「強えしな」「やっぱ血縁だから?」「睫毛長えな、あんた」
じろじろと俺の顔をみながらあれこれ言っている大黒一派。なんとも複雑な気持ちになるぜ。可愛すぎるとか、ケンカ相手に女として見られるのがくすぐったくて恥ずかしい。
一通りあーだこーだいい終えた後、彼らの興味はアッティへと向かう。
「そんでお前はアッティっていうのか」
「お前というのはやめてください!」
「おお、わりいわりい。アッティだな、オッケー。しかし、その髪めちゃくちゃ綺麗な白髪だな......目の色といい、ハーフかなにかなのか?」
「いえ、女神百パーセントです!」
きょとんとする大黒一派の面々。しかしすぐに冗談だと思ったのか、皆笑い出した。
「いやいやたしかに女神といわれても信じちまうな」「めちゃくちゃ綺麗っすもんね」「いい意味で人っぽくないよな」
「ふふん、女神ですのでトーゼンです」
どやっ!と胸をはるアッティ。こいつ相手が不良だってのに全然怖がらないよな。女神だから恐怖心が無いのか?俺と最初に話した時もまったく物怖じしてなかったし......それどころか舐められてたような気すらする。
「......あの、だ、大黒くん」
「ん?」
スカートの裾を握りしめ、茜は大黒に話しかける。
「もし良ければなんだけど、これから私達の.....ダンスの先生になってくれないかな」
「!」
「さっきの大黒くん達のダンスをみて思ったの。ダンスにたいして、みんな愛があるんだなって。ほんとにダンスが好きで、すっごく頑張って練習してるんだよね......だから、迷惑かもしれないんだけど......えっと、その」
茜は緊張と恐怖心で想いをまとめることに苦戦しているようだ。しかし大黒一派は真剣な面持ちで彼女の言葉の行く末を見守っている。
「私達も大黒くんたちみたいに、自分の身体全部を使って人に想いを伝えたいから。それができる大黒くんたちに教えてほしいんだ......ダメかな」
たしかに茜の言う通り。大黒たちのダンスは素人目に見ても普通じゃない上手さがあった。それはおそらくは、彼らの努力と愛情の成せる技なんだろう。そこに至るまでの過程、考え、悩み、その果に出た答えだからこその上手さ。
(......いや、確認なんだけど、不良なんだよねこいつら?)
目を瞑る大黒。
「そいつは難しいな」
「......」
「悪い。教えるのが嫌だってわけじゃないんだ。ただ、響......男の方のな。あいつとの約束がある」
「約束?」
「一番最初、あいつに負けた時に言われたんだよ。『お前強えのに勿体無いな』ってな」
――
「ぐはっ!......あっ、は」
「なーんだ。ただデケェ図体で勝ってただけの木偶の坊かよ。雅紀のが強えな、こりゃ」
「ざっ、けんな」
「お、まだ立ち上がるのかよ」
橋の下、英太達が見守る中俺は響にボコボコに殴られていた。たしかにあの頃の俺は今よりはケンカの技術はなかったが、それでも多少の柔道相撲経験があってそこらの奴らよりは全然強かった。
実際、響とやるまでは負け無し勝ったケンカは数しれず。不良高校でトップにまで成り上がっていたんだからな。
けど響は別格だった。タフさとパワー、何よりスピードがバケモン地味ていた。つーか、バケモンだった。
「......お前、いくら殴ったら気絶すんだよ、はは」
「響、てめえが倒れるまで気絶なんざしねえ、はあ、はあ」
「根性やべえな」
「やべえのはお前だ」
「ははは。さっき言ったこと取り消すぜ」
「あ?」
「お前はただ図体デケェだけの木偶の坊じゃねえ。こんだけ根性あるなんて、すげーじゃねえか」
「なに終わった気でいんだよ」
「お前これ以上殴ったら死ぬからな。また明日やろーぜ」
「ま、まてよ......俺は負けるくれえなら、死んでも」
「お前は死んだら勿体ねえよ。せっかく強えのに」
「ああ?.....つ、つええ?お前にも勝てねえのに」
「ばーか。俺に勝てるわけねーよ。俺に勝てんのは俺だけ。なんなら、このままあと三日お前をボコり続けられるぜ?」
「......」
響の目はマジだった。おそらくホントにやれるんだろうなとそう思わされるほど、やつの鋭い目には真剣味があった。
「今日はお前の負け。はい、明日明日」
「まて、響......明日、必ずこいよ」
「逃げねえよ」
「俺はお前に勝つまで、やるからな、毎日」
「ははは、おもしれえ」
背を向け歩き出す響。しかしすぐに止まり再び振り返った。
「んじゃ約束してやるよ。ちゃんと明日また来てやる」
「......!」
「だからお前にも約束させようか」
「約束?」
「お前、強えからよ......この町のアタマ張れよ。んで、町の自警団みたいなやつやれ」
「は?」
「ほら、ここらへんって不良多いだろ?お前ンとこ不良高校だし。それで迷惑してる人も多い。だから不良のことは不良でなんとかしようぜって話......俺は不良じゃねえけど」
「言ってる意味がわからねえ」
「ま、要するにお前が俺に勝つまで、この町を不良から守れ。それを守ってる限りずっとお前とケンカしてやるよ。それが約束......俺はお前とケンカする、お前は俺に勝つまで町を守る。オーケー?」
「......逃げんなよ」
「おめーもな。......せっかく強えんだから――」
――
「......それが響との約束だ。だから町を見回ったりしなきゃなんねえ。今日公園に来たのもその一環だったしな。そんなわけでダンスを教えてる時間はねえんだよ。わりいな」
めちゃくちゃ懐かしいな。確かにしたな、そんな約束。
大黒は不良だが、真面目で筋が通っている漢だ。だから約束した以上はやるだろうと思っていた。
(......けど、俺は女になった日から約束守れてないんだぞ)
なのに、なんでまだお前は......。
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