第35話 え?
「お前って......?」
きょろきょろと辺りを見渡す。そんな俺に大黒が指差し、もう一度繰り返した。
「お前だよ、お前」
.....あ?俺って、俺?
「え、なんで?」
「受けるのか?受けねえのか?」
何を考えてんのかわかんねーけど......どの道負ける気はしないし。別に良いか。
「まあ、それで良いなら」
「ほう」
互いの望むものを賭けた。あとは強いものがそれを受け入れるだけ。勝負開始の合図はどうするかと考えていると、大黒が「英太」と子分の名前を呼んだ。
「は、はい!」
あいつに開始を宣言させる気か?と、思いきや大黒はこちらに来るよう指示した。不思議そうな顔で寄ってくる英太という子分。
大黒の隣に来たその時。
「お前、謝れ」
「へ?」
大黒以外のこの場にいる全ての人間がポカンとしていた。
「女に手をあげんのは漢のやることじゃねえ。謝れ」
「え、いや、でも」
「でももくそもねえ。ぶっ倒されて強制的に土下座させられたいのか、英太」
「ぐっ。......す、すみませんでした」
大黒にいわれ頭を下げた英太。俺は我を取り戻し大黒にツッコミをいれるかのように聞いた。
「いやまてまて!なんだこれ!これから俺達はケンカすんだろ?」
「いや、しねえぞ」
「は、はあ?さっきの勝負の取り決めはなんだったんだよ」
「お前の反応が見たかっただけだ」
「反応?」
「ああ、お前俺とケンカして負けるなんて欠片も思わないまってツラしてたな。虚勢はない。緊張もしてない......本気で勝てるって顔だ」
「怖気づいたのかよ」
「いや?けどさっきも言った通り、俺は女に手をあげない。あげるのも許さない。だからケンカなんてしねえ。......あ、さっきのお前の望みは聞いてやるよ。俺はもう大宮茜には近づかねえ」
「え、マジで?」
「マジだ」
拍子抜けだった。大黒は俺と顔をあわせるたびに茜をよこせといつもケンカばかりしていた。だから今日もてっきりケンカするかと思ってたのに。
「......そうだ」
大黒が立ち止まる。
「あ、それでなんだけどよ、お前ら、あんま遅くまで公園にいるなよ。最近は不良が減ってきてるとはいえ、危ねえからな」
大黒の言葉に子分たちも続く。
「あんたら可愛いから危ねえぞ」
「うちの高校で噂にもなってるしな」
「毎晩公園で美人がなんかしてるってよ」
げ、マジでか。それは危ねえな。......あれ?つーか、もしかしてそれ教えに来てくれたのか?
茜が怖がりながらも一歩前へ踏み出し、大黒へ話しかけた。
「あ、あの、大黒くん......知らせてくれて、ありがとう」
「......おう」
少し照れているっぽい大黒。ピュアだなこいつ。知ってたけど。
「そーいや.....気になってたんだが、お前らこの公園で何してたんだ?」
「え、それは.....」
俺は茜の顔をみた。すると彼女は困ったように薄ら笑いを浮かべた。アイドルになるためのダンス練習をしていただなんて、こいつらにいったら笑われるかもしれない。
そうなれば俺は平気だけど茜のメンタルに影響がでるかも。
しかしそんな俺の思考も露知らず、アッティが答える。
「私達、アイドル志望なんです。なのでダンスの練習をしていました!」
忘れていた、こいつもまたピュアであるということを。
「なに?」「あ?」「......は?」「あいど、る?」
その時、大黒一派の表情が変わった。ギラリとした目つき。
「え、ど、どうしたの.....」
子分達が頷く。ゆらりと動きだし、大黒の背後へと移動した。
(......え?)
「な、なんですか、いったい.....」
俺と茜は戸惑い、アッティはきょとんとした表情で事の成り行きを見ていた。大黒の一歩後ろ、横一列にならぶ子分達。これから何がおこるのか、俺は身構えた。
するとその時、大黒がスマホを取り出し操作した。突如流れ出す音楽。「え?」と茜がそれに反応する。
「こ、これは!?」
俺、茜、アッティは驚愕する。
なぜなら突然、不良達が目の前でダンスし始めたからだ。
「こ、これ、NEKO5ってアイドルグループのダンス!」
そう呟いた茜の瞳がキラキラと輝いていた。いや、多分俺とアッティもそうだったに違いない。だって、こいつらのダンス――。
「めちゃくちゃ上手いですね、響くん......!」
「あ、ああ」
薄暗くなった公園。だがそれでも、彼ら個々のスキルがものすごく高いことがわかる。そして何より、呼吸がピッタリ。みていて気持ちいいほどの美しいシンクロ具合だ。
もはやプロの域だといっても過言じゃない......それほどのレベル。
(いやなんだよこの不良.....)
やがて曲が終了。俺はこのアイドルグループのダンスは見たことは無いが、おそらくミスは無かったのではなかろうか。すげえドヤ顔してるし。
茜がぴょんぴょん飛び跳ねながら興奮気味に歓声をあげた。
「すごいすごい!!ここまでNEKO5を完コピしてる人初めてみました!!完成度たかぁーい!!」
「めっちゃカッコよかったですー!!なんなんですか、あなた達!?」
アッティもまた興奮しているようで、目を輝かせていた。
そして、それを聞いた大黒一派は表情が緩み、にやにやとしている。めちゃくちゃ嬉しそうだな。
大黒は緩んだ顔をいつもの険しい表情に戻しながらこう言った。
「もし、よかったらなんだが......お前らのダンス俺達にみせてくれねえか?」
ゆっくりとアッティと顔を見合わせ、茜と視線をあわせる。そして茜がアッティに顔を向け、最後に大黒達に三人で同時に顔を向けた。
「「「え?」」」
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