第34話 代理
「やりたい人、誰もいないなら......私、歌詞を書きたいです!」
茜はそう言った。
そうか、茜は俺とアッティとは違って遠慮してたのか。自分がやりたかったけど俺とアッティもやりたいかもしれないと思って待っていたのか。
「私は賛成です」
アッティがいう。
「そうか......佐藤さんは?」
先生がこちらをみる。
「あ、私も全然大丈夫です。お願いね、茜さん」
「はい!一緒に、がんばりましょう」
......そうだ。お願いねじゃない。俺達みんなでがんばっていくんだ。
「さてさて、あとは振り付けだね。曲が出来る頃までにみつけたいと思うけど、みんなも誰かいたら紹介してね」
「「「はーい」」」
振り付けか。クラスの人に誰かいたりしないかな。
◆◇◆◇
帰り道。俺達は公園でダンスの自主練をするのが日課となっていた。
内容はアイドルのダンスコピー。三人組アイドルのダンスを見様見真似でやってみている。基礎的な練習ばかりではモチベが低下してしまうだろうと俺が提案してみた。
「お、茜さんノーミス!」
「おおおー」
「えへ、へへ」
それがプラスに働いていたのか、茜の動きがぐんぐん良くなってきた。今もこうして一人で踊って見せてもらったが、ノーミス。リズムのズレが多少あるけど、最初のロボットダンスからみると恐ろしい程の進歩だ。
(......この動きが、他の人に観られててもできれば上出来なんだが)
体育館での基礎練でですらかなりパフォーマンスが落ちるからな。なかなか緊張を取り除くというのは難しい。
――ザッ
ふと、公園に誰かが来た気配がした。
「よお、久しぶりだなぁ?」
背後から掛けられた野太い声色、荒々しい語気。振り返ると一人の大男が立っていた。がっしりとした体型と時代錯誤のリーゼント。うちの制服ではない黒の学ラン。
「......大黒くん」
ぽつりと呟くように茜が名前を呼んだ。すると周囲にいた奴の子分が「女ァ!大黒さんだろ!?」といきりたつ。
「ヤメロお前ら」
大黒に言われた子分はじろりとこちらを睨みつけてくる。子分は三人いるのだが、どいつも同じくリーゼント。
(こいつら、全員中学生からずっとリーゼントなんだよな。あきねえのか)
そう、この大黒と呼ばれる男は俺のケンカ相手であり、幾度となく拳を交えた(交えたというか一方的にボコってた)相手だ。
不良学校、明蘭のボスザル。
「大宮茜。きいたぜ、響のヤローどっか行っちまったんだって?お前を置いてくなんて薄情なヤローじゃねえか」
「......そんなこと、ない、です」
視線を受け、萎縮してしまう茜。
「ふぅん。アイツの事はまあいいか。.....なあ、大宮茜。いい加減俺の女になれよ。悪いようにはしねえから」
そう言って近づいてくる大黒。
だが――
「!」
そうはさせない。俺は奴の前に立ちはだかった。
「なんだお前」
「怖がってるからそのへんで」
「......お前、そのするどい目つき。響そっくりだな」
ドクンと心臓が跳ねる。だが大丈夫だ。男が女になったなんて、ふつーはあり得ない。
俺は大黒の言葉に耳を貸さず言葉を続けた。
「その響に言われてたんじゃなかった?この子に近づくなってさ」
「あ?なんでお前がそれを......いや、まてふざけんな。んな事は関係ねえ。あいつは俺とのケンカから逃げたんだぞ。茜を賭けたケンカから。そんなやつにどうこういわれる筋合いはもう無い」
あー、確かに。女になった日にそんな予定あったな......すっぽかしたのは悪かった。けど、俺その茜を賭けた戦いで128連勝中なんだが......たった一回の不戦勝でずいぶんな物言いだな。
「おい、女ァ!!おまえ大黒さんのこと知らねえんか!?」
子分がイキり始める。
「この人はなぁ!武闘派の不良が集まる明蘭のアタマ張ってる超やべえ人だぞ?」
「入学当日にアタマだった三年をシメてずっと負け無しの超人!」
「怪我しねえうちにお前ら二人は帰れや!」
俺とアッティを指差し、シッシッと手をはらう。俺は大黒に顔を近づけた。
「ぬっ、な、なんだ......」
「いやいや、知ってるよ。お前がその響ってやつにボコボコにされまくってたって事もよーっく知ってるぜぇ?」
「「「!!」」」
あ然とした顔で固まる大黒とその子分。しかしその数秒後、子分の一人が叫びながら飛びかかってきた。
「てめえなんだその口の聞き方はァ!?」
流石に女を殴ろうとは思わなかったのか、手を伸ばし掴みかかろうとする子分。だが、俺はその差し出された手を躱し手首を掴む。
「なっ!?」
そのまま腕を後ろに回させ、関節を固める。
「いっ、で、で......!」
「あんまり揉めたくないんだけど」
「ちょ、挑発したのはてめえだろ」
「うん」
「は!?」
俺は大黒に顔を向ける。奴の瞳に俺を敵視する色が混じる。
「大黒、私とタイマンしよーぜ?」
「「「は!?」」」
子分、いや茜とアッティも、驚いた顔をする。大黒と俺は互いに視線を逸らさずただただ睨み合っていた。
「おまえ、響のなんなんだ?」
なんなんだ......えっと、あ!
「し、親戚」
「親戚?......意味がわからんな。ただの親戚がなぜ大宮茜を庇う」
「代理人だからさ」
「代理人?」
「俺があいつな代わりに茜を守る。だから、俺が勝ったら、茜にはもう近づくな」
「「「「「は?」」」」
あ然とする公園にいる人々。
だがしかし、大黒だけはニヤリと笑っていた。
「いいぜ。だだし、俺が勝ったら......お前を俺の女にする」
「......え?」
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