第33話 決心


「ごめんね、久しぶりに響の顔をみたもので、つい」


ティッシュを貰い涙を拭う姉貴。いや、それほど久しぶりじゃないだろ。ちょくちょく家に帰ってるし......あれ、じゃあ何の涙?


「遥、大丈夫か?自己紹介を頼みたいんだが」


「は、はい、すみません先輩」


ちょいちょいと前髪をなおし、こちらに向き直る姉貴。


「えーと、はじめまして佐藤遥です!バンドやってて曲作りとかしちゃってるので、力になれればと思い来ました。よろしくお願いします......って、あれ」


「?、どうした遥」


じーっと、俺と茜、アッティの顔をみる姉貴。


「いえ、三人ともはじめましてじゃないですね、先輩」


「え、そうなの?」


確かに。弟(今は妹)である俺は勿論、茜とは面識あるし(なんなら連絡先知ってて仲も良い)、アッティとも会ったことがある(女神だってことも知ってる)......みんな知り合いだわ。


にこにこしてる茜とアッティ。知ってるやつで嬉しいのか。まあ茜は人見知りだしな......アッティはよくわからんけど。


「なら問題ないな。キミたち遥に手伝ってもらって曲を作るぞ」


「「「おー!」」」



姉貴はどういう風にしたいか、イメージを固める為にサンプルに作った曲を六つほど作ってきてくれていた。どれもいい感じの曲で、まさにアイドルっぽい感じのものからしっとりとしたバラード曲、色々なタイプの曲を揃えてくれていた。


(こんなにたくさん......姉貴も暇じゃないだろうに)


しかし、ホントにバンドしてたんだな。ギター持って出かけてる時はバンド練習するって体で、飲みに行く口実なんだと思っていた。


「あの、遥ちゃん」


「ん?なに、茜ちゃん」


互いにちゃん付けして呼び合う茜の姉貴。二人きりでネズミーランドにも行ったことがあるらしい。めっちゃ仲良くね?


「響くんいつ帰ってこれそう?」


「あー......響ねえ」


やめろ姉貴!チラチラとこっちみんな!


「まあ当分は帰ってこれないっぽいかな?わかんないけど、ちょっと忙しいみたい」


「あ、なんか魔王討伐で大変みたいです。あっち」


「?、......へ、へえ」


アッティのフォローが飛ぶ。いやなんだその意味不明なフォロー!姉貴と茜がふたりとも「え?なにその冗談?」って鳩が豆鉄砲喰らった顔してんじゃん!

あとやめろその「ふふん、私やってやりましたよ?どやぁ!」的な顔!やっちゃってるんだよダメな意味で!


(つーか俺はどこにボランティアに行かされてる設定なんだよ)


「ん?......ていうか、あれ?アッティさん響くんと面識あるの?」


「ギクゥ!!?」


激しく動揺し始めるアッティ。いやチラチラとこっちみんな!

姉貴は目を点にしながらキュポッとリップの蓋をとって唇にぬりぬりしてる。私しーらないっ、といった感じだ。

先生は茜と同じく頭上に「?」を浮かべアッティをみている。


「あ、もしかして」


茜が手のひらを合わせた。


「エオンで響くんに会ったの?」


「「え?」」


俺とアッティの声がハモる。


「なんかあの日、響くんもエオンにいたみたいなんだよね」


ど、どういうことだ?いや、いたけど.....もしかしてトイレで男に戻った姿をみられたのか?

まてまて、あり得ない。あの時は掃除のおばさんにしかみられてないはず。


今度は俺とアッティの頭上に「「?」」が浮かんでいる。


「へ、へえ、偶然ですね......茜さんは響くんに、あ、佐藤さん......いや違う!響くんに会えたんですか?」


アッティの質問。どうでもいいけどやっぱり冷静に考えると、同じ名前使ったのダメだったかも!紛らわしすぎる!アッティもちょっと混乱してきてるし!


「ううん。会えてはいないんだけどね、電話がかかってきて......なんかエオンの店内放送がかかってて、それで多分同じとこにいたんじゃないかなって」


なるほど......そうか。この辺にエオンなんてあそこしかないしな。


「そ、そーですそーです!たまたまあって、ね?響くん?じゃない佐藤さん......いやいや、響!な、響?」


お前今までで呼び捨てな時あった!?


「お、おう、そうだな」


やべえこっちまで動揺して意味わからん返しになっちゃったじゃん!お、落ち着け落ち着け。


「とりあえず、休憩終わっていいか?キミたち」


先生が戸惑いながら部活の再開を促した。


「あ、すみません」

「はい!」

「は、はーぃ」


「よし、それじゃあさっき選んでもらったサンプル曲を煮詰めて作ってくるね。ただ、作詞は誰かにやってもらうことになるんだけど......だれがするかな?」


「「「さ、作詞......」」」


一瞬にして戻った空気が重くなる。三人が三人共視線を合わせることもなく、うつむく。


(いやー、作詞は無理でしょう)


恥ずかしくて死ぬ。てか、意外だな......アッティはやりたがりそうなイメージがあったんだけど。


「いや急にどうしたキミたち。急にテンションが急転直下じゃあないか。心配するな、先生や遥を含めちゃんとみんなでフォローするし責任を押し付けたりしない。ただ、元となるモノが必要なんだ......誰か頼めないか?」


いやいや、それが嫌なんですけど!ゼロからイチを生み出すのが一番大変だってなんかで聞いたことがあるし、絶対にやりたくねえ。


「あ、あの!」


茜が声をあげた。


「誰もやりたい人いないなら、私がやってもいいかな......?」



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