第32話 涙
それから一週間が経過した。
スクールアイドル同好会は先ずは土台となる基礎を固めることからということで、これまでずっと地道な体作りをしてきていた。
「ねね、佐藤さんさぁ、なんか動きよくなってない?」
前の席の女子がまた話しかけてきた。
「え、そうかな」
「そーだよ。少し前とは全然違うもん、ノリが」
「だよな。変な硬さが取れてきたっつーか」
「んね!」
週二に二度、俺達スクールアイドル同好会は体育館のすみっこを借りて練習する時がある。基本的にバスケ部とバレー部がいるため、毎回必ず注目を集め軽い鑑賞会みたいな事になる。
「いやあ、でも楽しみだねスクールアイドルのお披露目」
だからもう俺達が何をやっているのかは知られていたりする。噂ってのは回るのが早い。
「いやまだお披露目とか全然できないよ。衣装とか歌とか、色んな事がまだだし」
あと練度が。まだスクールアイドル同好会ができて、練習し始めてから二週間も経ってないし。動きはそれなりになってきた気がするが、俺の当面の目標は歌唱力の向上。とてもじゃないがこのままじゃ神力に頼らざる得ない。
(でも、それは嫌だ)
俺は俺の力で、皆と歌いたい。
「ねねね、ちゃんと教えてよ?スクールアイドル同好会のデビュー戦が決まったら」
「え」
「えってなんだよ佐藤さん!クラスのみんなでライブ参戦するぜえ?」
「おお、必ず観に行くよ!」
「うわぁ、なんだかワクワクしてきたねえ」
なんか、盛り上がってる......。
ぽかーんとする俺。隣の茜がそれをみてくすくすと笑う。
「なに笑ってんだよ」
そんな茜を俺はじろりと横目でみる。
「ううん、なーんでもないよ。ただ、響さん可愛いくって。借りてきた猫ちゃんってこういう事をいうのかなぁ」
「あっはは、確かに」
笑うアッティ。借りてきた猫って.....。
前の席の女子が俺の机で寝そべりながら茜に話しかけた。
(いや前から思ってたけどこいつ距離近くね?)
「茜も前みたいにロボットダンス卒業できたし、みんな進歩してるよね〜」
ボッと茜の顔が赤くなる。
「なっ、そ、それはっ.....」
「茜ちゃんは努力家ですからね!すごいスピードで成長してますよ」
アッティが得意げに「ね?」と茜に聞く。
「まあ、成長できてたらいいと......思います、ねえ。ええ、はい」
言葉尻が萎んでいき、それと共にうつむく。内向的な茜は注目されることが苦手だ。
(茜の次の課題はこれだな。人から注目されることになれる事)
ステージ上で注目されるアイドル。茜のこの注目されると消極的になってしまう性格は最大の弱点といえる......だから。
「茜さんどうしてスクールアイドルやりたかったんだっけ?」
「え、ど、どうしたの、響さん......!?」
「あ、それ気になるー!佐藤さんとアッティさん誘ったのって茜ちゃんなんでしょ?」
前の席の女子が話題に食らいつく。それに興味を持った他のクラスメイトが話をきこうと集まってきた。
「えっと、えと......」
戸惑う茜に俺は助け舟を出す。
「茜さん好きなアイドルがいるんだよね?」
「う、うん」
「なんていうアイドルだっけ」
「えっと、私の好きなアイドルは――」
ステージ上ではこの比ではないほどの注目が集まる。そこで百パーセントのパフォーマンスを発揮するなら、注目されることに慣れていかないとな。
まずはクラスメイトから。
少しずつ、ゆっくりと。
ライブで彼女が活躍できるように。
◆◇◆◇
――放課後。
今日のスクールアイドル同好会の活動場所は、空いていた理科室。いつもなら体力作りで郊外を走ってから、ここで筋トレしてボイトレの流れなのだが、今日は雨が降っているので走り込みは無し。
あからさまに嬉しそうな茜がちょっと可愛かった。体力ねえからなー茜。
逆に体力が有り余ってるアッティは残念がっていた。なんなら「カッパでも着て走ろうよ!」とか言い出していたが、「風邪ひいたらまずいから!」と茜の必死の説得によりやめた。
――ガラッと扉の開く音。いつも通り白衣姿の木村先生が現れた。
「やほ。みんなお疲れー」
「おつかれです」「お疲れ様です」「おつでーす!!」
「さてさて、今日はねあれだよ、先週言ってた通り助っ人を一人連れてきたんだ」
先週の金曜日。先生は言っていた。スクールアイドルやるなら曲とそのダンスの振り付けを考えないと、と。しかし、俺達の中にはそういう経験があるものもなく先生や姫子先輩(※)もできないので外部の助っ人.....先生の後輩に当たる人を呼ぶことになった。ちなみに曲作りだけで、ダンスは無理とのこと。
いったいどんな人なんだろう。
(※先生も木村なのでややこしいから下の名前で呼べと言われた)
「さあさあ、入ってきてちょうだい!」
再び扉が開く。
「こんにちはー!どーもどーも、はじめまして......ん?」
目が合う助っ人。彼女は目を丸くして固まった。
「ん?どうした遥?もしかして、知り合いか.....?」
「いえ、知り合いというか血縁というか......」
俺はハッとする。これ姉弟とかいわれたら色々不味いぞ!?
シュバッと手を挙げ姉貴の言葉を遮る。
「し、親戚です!!久しぶり、おねえちゃん!元気だった?」
こ、これで伝われええええ!!
「え、そうなの響さん」
「うん、いやあ何年ぶりだろう。ね?おねえちゃん」
その時、姉貴がハッとした表情に変わった。
よし、伝わったか!!頼む、合わせてくれよ!?
「うっ、ひっく、おね、おねえちゃん......う、嬉しい。ふええん」
「「「「......!?」」」」
と、唐突な涙!?どうした姉貴!?
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