第30話 やっぱり



――キーンコーンカーンコーン、一時限目が終わりを告げる鐘の音。号令が終わると同時に教室は騒がしくなる。


「ねね、佐藤さん」


前の席の女子が振り返り話しかけてくる。


「ん?」


「こないださ、放課後に体育館でなにしてたの?」


「え、こないだって.....?」


「なんかアッティさんと茜ちゃんと三人で何かしてたじゃんか!あれって何?」


げっ、ウチのクラスの連中にも見られてたのか。トイレにでも行ったのかアッティと茜は今教室にはいない。俺が説明しなくては......てか、スクールアイドルの話ってしていいのか?一応濁しておくのが正解か?


「えっと、う、運動不足解消?」


「ぶはっ!うちのパパみたいなこと言ってるし!え、それホントぉ?」


「え、ホントホント!」


「え〜?なんかダンスの練習してるように見えたんだけどぉ?違うの?」


おい!わかってんなら最初から言えや!なんで一旦わからない振りしたんだよ!


「いや、まあ......そんなトコ」


「でっしょ!やっぱり!」


「てかどこでみてたんだ?」


「うちバレー部だからさ。真横で練習しながらみてたんよ。いやぁ、中々の動きでしたなぁ佐藤さん」


「ぐっ、下手で悪かったな」


俺がそういうと彼女の後ろにいた男子が寄ってきた。


「え、そうかな?俺もみてたけどカッコよかったと思うけど」


「あたしも見てたよぉ!ちょっとぎこちなかったけどね」


ぞろぞろと俺の席を取り囲むクラスメイト。男の時にはこんなこと無かったから、未だになれない。

けど、皆のいうことは本当なんだろうか。お世辞の類じゃなくて、俺の動きってそれほど下手では無いのか?


「でも佐藤さん踊ってるときあんま楽しそうじゃないよね」


「確かにな。すげー険しそうな顔してた」


(......!)


その言葉に俺はひっかかりを覚える。


「でも、難しくて......ちゃんと動かないとと思うと中々表情にまで気が回らないんだよ」


「え、なにそれ変なの」


あん?と、反射的に口を尖らせてしまう俺。前の席の彼女はそのまま言葉を続けた。


「だってさぁ、ダンスって楽しいからするんじゃん?」


......楽しいからダンスをする?


「佐藤さんにとってダンスってなんなん?お仕事かなにかなの?楽しむものじゃないの?」


あ.....確かに。


俺は義務感ででしかダンスをしてない。楽しんでない。


言われて気づいた。


「そっか、俺は楽しくなかったんだ」


「え、俺?」


「あ、いや、私は......あは、は」


あ、あっぶねー.....マジで癖が抜けねえな。気をつけねえと。


「ふーん。佐藤さん、ダンス楽しくなかったんだ」


「でもダンス好きじゃないのにあれだけ踊れるんだから才能あるよな」


「マジそれな?」


ふとあの日の事を思い返す。


アッティは確かに楽しそうだった。


(......俺に足りないのは、もしかしてそれなのか?)


「やーっぱさ、ノリが大事じゃね?」


「あーね?やーっぱリズムよく曲にノれないとっしょ」


「佐藤さんも楽しくなると良いね!ダンス」


にかっと笑う前の席の女子。


「うん、そうだね」


俺は笑い返した。



◆◇◆◇



――昼休み。


俺は早々に昼食を終え、屋上でステップを踏む。


イヤホンをつけ、好きな曲を聴きながら。


デタラメな動きになっていると思う。けど、大切なのは多分......。


――トントン。


「!?!?」


肩を誰かに叩かれ、俺は飛び退く。人居たのか!?やべえ、イヤホンしてたから気が付かなかった!!


「......あ」


俺は肩を叩いてきた相手をみて固まる。


「よお、久しぶりだな」


そこに立っていたのは、この間ケンカで投げ飛ばした相手。


鳳翔院雅紀だった。


ぐぐぐぐっと顔が熱くなる。


み、見られた......マジで見られたくない相手に!!


「?、どうした......顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」


「え!?いやぁー、べ、別に......こんなところでどうしたんですか鳳翔院先輩」


「はあ?なんだその喋り方。今更先輩とか......あんときみたいに話せよ。めんどくせえ」


ぐっ、この......こっちが下手に出てやるとコイツは。いや、だが好都合。今更雅紀相手にへりくだるのも気持ち悪い。良いっていってるんだからふつーに喋ろ。


「こんなとこで何してるの、雅紀は」


「ん?食後の昼寝だよ」


ちょいちょいと雅紀が向こうにあるベンチを指差す。


「え、こんなところにベンチなんてあったんだ」


「いや、あれは俺が昼寝するのに持ち込んだやつだ」


「マジで!?」


「ふふん。良いだろう?授業サボってあのベンチで日向ぼっこするのサイコーだぜ?」


「うわぁー、良いなぁ!めっちゃ気持ちよさそう」


「わかるか!屋上のベンチの良さが!いいぜ?お前も使うか俺のベンチ!」


「え!?いいの!?やったー!!......って、ちがうちがう。あっぶねー......危うく懐柔されるとこだったわ」


「いや懐柔て。んな寂しいこと言うなよ。一度ケンカした仲だ......もうダチだろ?」


いやお前ケンカしたらダチとか不良かよ......いや不良だったわ!

俺が脳内セルフボケツッコミを展開していると雅紀が「ん?」と呟く。


「そういやお前こそあんなとこで何してたんだ?」


「え、べ、べつに」


あれダンスの練習ってバレてない系?ならば全力で誤魔化すのみ!!


「一年の体育ってダンスの授業あったっけ?」


おい!わかってんなら最初から言えや!!なんだこれお前のせいでツッコミがデジャヴってるんだけど!?


「いや、ないけど」


「?、そーなのか」


「うん」


「ふぅん」


にやにやと微笑む雅紀。なんだてめえ、バカにしてるんか?

そんな被害妄想にかられ俺は雅紀をジロリと睨む。


その時、雅紀から信じられないセリフが出た。


「やっぱり。お前、響......」



......え?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る